大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON406「企業の成長とビジネスモデル~構造のシフトを考える」

2012年3月23日

 SUMCO 450億円の第三者割当増資を実施
 シャープ 社長交代観測で株価乱高下
 ACCESS 最終赤字43億円
 全日空 格安航空を収益源に育成


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 ▼ビジネスモデルの構造はどうなっているのか?
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 半導体材料大手のSUMCOは8日、450億円の第三者割当増資を実施すると
 発表しました。


 円高や半導体市況の低迷から、2012年1月期決算の純損益は843億円の
 赤字になりました。工場閉鎖や1300人の人員削減を打ち出し、
 13年1月期の純損益は30億円の黒字を目指す考えです。


 エルピーダが倒産した際に、私は「限界供給者の悲哀」という言葉を
 使って説明しましたが、今回のSUMCOも全く同じ状況に陥ったと
 言えるでしょう。


 限界供給者は、景気の良いときは黒字、景気が悪くなると赤字、という
 ように業界の景気動向に経営が左右されてしまう存在です。


 SUMCOと業界トップの信越化学の業績推移を見ると、売上高・営業損益
 などほぼ同じカーブで推移しているのが分かります。
 
 信越化学が上がればSUMCOも上がり、信越化学が下がればSUMCOも
 下がります。
 
 ただし下がった時には、SUMCOだけが赤字に転落します。
 
 今までと同じようにシリコンウェーハを作っていても、信越化学と同じ
 ビジネスモデルの構造になってしまい、「同じ構造で規模が小さいだけ」
 という存在から抜けだせません。
 
 つまり一生、限界供給者の悲哀を味わうことになります。


 


 信越化学とは「異なるビジネスモデルの構造」を確立することが必須だと
 私は思います。
 
 同じような立場にあったマイクロン・テクノロジーはフラッシュメモリ分野に
 乗り出し、活路を見出そうとしました。
 
 産業再生をいくらやってみても、この「ビジネスモデルの構造」が
 変わらない限り、改善は見込めないでしょう。
 
 株式市場はこの辺りのことをよく分かっているので、
 信越化学とSUMCOの株価推移を見ても、ほぼ同じようなカーブで
推移しています。
 
 業績でも株価でも常に信越化学の後塵を拝する形で同じように推移する
 のみ、というまさに限界供給者の悲哀の典型例です。
 
 ビジネスモデルの構造を再確認するという意味では、先日社長交代が
 あったシャープについても同じようなことが言えます。
 
 15日の東京株式市場で、シャープ株が前日比28円安の503円と
 急落しました。
 
 14日は社長交代に関する会見があると伝わると、経営改革への期待
 などで22円高となっていましたが、この上げが帳消しになった格好です。
 
 シャープの場合、社長が交代しても町田会長が残るのかどうかが
 重要です。
 
 今回は町田会長も退任し相談役に退くということで、前回の社長交代
 とは違った形になりました。
 
 ニュースでは株価が4%上がったものの5%下がったといった面を
 強調していますが、もう少し長期的に見ると、全体的には下がって
 いる傾向にほとんど影響は出ていません。
 
 結局のところ、シャープにしても「何で飯を食っていくつもりなのか?」
 というビジネスモデルの構造が変わらない限り、今後の発展は
 難しいと私は見ています。


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 ▼ビジネスモデルに紐付く利益構造も重要
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 ACCESSが12日発表した2012年1月期連結決算は最終損益が43億円の
 赤字でした。
 
 携帯電話の需要がスマートフォンにシフトするなか、主力の従来型
携帯電話向けのソフト事業が低迷。


欧州など海外子会社の清算に伴う損失もあり、特別損失は45億円に
膨らんだとのことです。


 任天堂、ソニーのプレイステーションがスマホシフトで割を食ったのと同様、
 これは完全にスマホショックの影響です。


 また少し違う見え方ですが、ヤフーの井上社長の退任も同じ理由でした。


 スマホ対応に遅れたヤフーとして、この分野は若い人に任せようという
 ことで退任されました。


 従来、携帯電話の開発には莫大なコストがかかっていました。
1つの携帯電話の開発に50億円~100億円という時代もありました。


 そんな中、数社で共同開発しようという動きを見せていた矢先、スマホが
 登場して、あっという間にアンドロイドとiPhoneに市場がシフトして
 しまいました。


 ACCESSのように携帯電話で利益を上げていた会社にとっては、
まさに交通事故にあったような痛手でしょう。


 ビジネスモデルの構造・利益構造ががらりと変わってしまったのですから、
 ある意味、致し方ありません。


 ここを理解して、どういったビジネスモデル・利益構造にシフトして
 いくのかが問われています。


 その意味で、面白い動きを見せたのが全日空です。


 全日本空輸の伊東社長は日本経済新聞の取材に応じ、
今年本格稼働する格安航空会社(LCC)の売上高規模について5年後に
「1500億~2000億円を目指す」と述べたとのことです。


 「やらなければ、パイを奪われるだけ」だから、LCCに乗り出すというのが
 伊東社長の言葉だそうですが、非常に面白い人だと私は感じています。


 ただし、この新しいビジネスモデルの中で「ANAの利益構造で」勝てるのか
 どうか、という点が大きな課題でしょう。


 例えば、AirAsiaとANAではユニットコスト(1座席を1キロメートル運ぶコスト)
 が4倍違います。


 LCCの競合企業を見ると、一部を除いて、途上国の航空会社です。


 ANAのような会社がLCCに乗り出すとするなら、日本の航空会社という
 発想を捨て去る覚悟が必要だと思います。


アイルランドのライアンエアーは利益を出していますから、ANAが利益を
 出せる構造もあるはずです。


そこにゼロから生まれ変わったつもりで取り組むことです。


ANAが「カンタス航空を上回る利益を上げているジェットスター航空」
 のようになれるのかどうか。


売上を目指すのは構わないと思いますが、利益が伴う構造を作り出せ
 なければトラブルが増えるばかりです。


 ANAの今後に期待したいと思います。


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