大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON396「国に依存する地方~国債が買われる、その背景を考察する」

2012年1月13日

 欧米金融機関
 日米欧の政府が銀行と絆を強めるわけ
 ユーロ相場
 欧州債務不安で独歩安


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 ▼地方が国を破綻させようとしている現実を知るべき
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 先月23日付の英フィナンシャル・タイムズ紙は、
 「日米欧の政府が銀行と絆を強めるわけ」と題する記事を掲載しました。


 これは、三菱東京UFJ銀行がバランスシート上に抱える日本国債の保有残高が、
 企業や個人への貸出残高を初めて上回ったことを紹介。
 2012年は西側諸国でも国債購入圧力が高まるとして、主要なテーマの
 1つになると分析したものになっています。


 これは非常に良い指摘だと思います。
 銀行の本来の役割とは「産業の血液」であり、預かった資金を必要な
 ところへ流し、循環させていくことです。


 ところが、今の世界経済の情勢では、企業は自らの減価償却の中で
 投資をするとか、海外の現地銀行で借り入れるという方法をとるところ
 が多く、総じて産業界には資金ニーズがありません。


 一方で、資金ニーズがあるのは「国」で、多額の国債を発行しつづけ
 ています。だから、銀行は、現時点ではリスクを取ることなく利益を
 得られるので国債を買い続けているのです。


 しかし、国債が破裂するのを避けるために、いずれは国自ら買い支える
 しかないという状況になりかけているのが今日の状況です。
 いつかどこかで破裂しないのか?と言えば、当然このままでいけば
 将来的にはどこかのタイミングで破裂します。


 そして見渡してみると、日本だけではなく欧州の銀行も同じように
 国債を買いに走っています。今回のような金融危機が起こると、
 投資ニーズがなくなってしまいます。


 先進国には資金は集まってくるのに、高齢化と共に消費が減退し、
 投資ニーズもなく投資先が見当たりません。
 すると資金が向かう先は新興国ということになりますが、
 ここも投資リスクは高いため敬遠されがちです。


 ゆえに、資金ニーズが最もある「国」へ資金が流れ、国債が買われて
 いくという構図が出来上がっています。
 これはコントロールが不能な状況であり、非常に危険です。
 銀行が国債を抱えて破綻したらどうなるのか?
 今、まともに回答出来る人はいないでしょう。
 誰もが口をつぐんで見て見ぬふりをしています。


 これまで世界経済が「同時に」破綻したことは歴史的にもありません。
 1929年の世界大恐慌の時でもマーケットと銀行などは破綻しましたが、
 国債は今ほど影響力を持っていませんでしたから、
 国そのものが破綻する事態には至りませんでした。


 しかし今は世界的にほとんどの国債が大きくなっていて、
 ソブリン危機に見舞われる可能性は高くなっています。


 こうした状況を生んだ背景を考えると、どこの国を見ても
 「国民」に問題があると私は考えています。
 国民が政府に要求をぶつけすぎているのです。
 日本の場合で言えば、地方が国に依存するという形で現れていると
 私は見ています。


 日本では全ての国会議員は広義の地方出身で、国から地元に何かを
 還元させることが自らの仕事だと思っています。
 すなわち、国会議員が主導して地方が国を破綻させる手伝いを
 しているわけです。
 当然、これを削ろうとしてもほとんどの国民は反対するでしょう。


 これこそ、今の日本における中央集権の問題であり、道州制が必要
 となる理由です。「経済的に自立」した道州をつくり、その経済圏の
 中で生活できるようにならなければいけないと思います。


 地方が経済的に厳しい状況だからといって国に頼り切っているばかりでは、
 国家破綻への道を進むだけです。


 何となく優しい顔をしている地元利益誘導の政治家が、
 一番の「破壊者」であることを国民は知るべきだと思います。


 先日、大阪市の橋下市長と会ったときこの点を解説し、
 「大阪は今の地方が国家を破綻させる仕組みから離脱する」
 「その理由は・・・」
 ということを国民にも説明するべきだと話をしてきました。


 ぜひ、大阪には日本の地方が変革していく、
 その先陣を切ってもらいたいと思います。


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 ▼ユーロ安など、世界経済の動向は?
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 6日のニューヨーク外国為替市場でユーロが円に対して3日続落しました。
 一時は1ユーロ=97円87銭まで下がり、約11年ぶりの安値を更新しました。


 この日発表された昨年12月の米雇用統計で雇用者数の伸びが市場予想を
 上回り、ドルを買ってユーロを売る流れが加速した形など、
 新聞などでは何らかの理由付けをしたいようですが、
 私にはあまり意味があるとは思えません。


 その時々において騰落の理由を云々するよりも、長期的に見て
 どのように推移しているのかを把握するべきです。


 主要通貨に対するユーロの騰落率の推移を見ると、2002年以来、
 各国の通貨毎に特長的な動きをしていることが見て取れます。


 ユーロは主として発足以来、米ドルと英ポンドに対しては強い傾向にあり、
 今米ドルは少し戻してきているという状況です。
 なぜか、豪ドルに対しては一貫して弱い状況です。


 日本円に対しては、ずっと強かったものの、ここ数年で一気に
 情勢が変わり、弱くなっています。
 ニュースなどでは「円高」と騒がれていますが、ユーロ発足以前の
 欧州通貨単位ECU(エキュー)の頃と比べると、今のレベルは「円高」
 というレベルではありません。


 欧州経済危機に対して何かしらの答えを見出せず、年を越してしまった
 ために、やや円高に振れているという程度だと思います。


 また主要国の株価指数推移を見ると、ダウ平均は去年の1月に比べて
 5%程度上がっているのが分かります。
 FTSE100もそれほど悪い数字ではありません。
 それに対して、日経225と上海総合が、15%~25%と大きく落ち込んでいます。


 バブルがはじけてしまいましたから、上海はさらに今年も落ち続ける
 可能性が高いでしょう。


 英米の落ち込みが低いのは、国家財政は厳しくても企業の業績が良いからで、
 企業と国家が乖離してきている状況が現れてきたのだと私は感じています。


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