大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON395「税制改革~能が無い「ただの増税」を止め抜本的な改革を」

2012年1月6日

 社会保障と税 所得税最高税率 45%引き上げ検討
 2012年度予算案 一般会計総額90兆3339億円
 国債発行額 2012年度発行総額 174兆2313億円
 八ッ場ダム 建設再開決定を表明


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 ▼税制の抜本的な政策を打ち出せ
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 政府税制調査会の作業部会は20日、所得税の最高税率を現行の40%から
 45%に引き上げる検討に入りました。
 民主党税調と調整し、社会保障と税の一体改革「素案」に盛り込むこと
 を目指すとのことです。


 日本の限界税率である40%は米国の35%に比べても高い数値ですし、
 地方税を含めて実質的に50%と見ると世界のトップクラスの税率の高さ
 だと言えるでしょう。
 スウェーデン(約56%)、デンマーク(約55%)に続く数値です。


 しかし、スウェーデンやデンマークが国のサービスが充実していて
 全面的に国が面倒を見てくれるのに対して、日本は大して国のサービスも
 良くないのに、限界税率が高すぎると言わざるを得ません。


 現在の日本経済の状況からすると税率を下げるのは難しく、その中で
 何とか税収を確保したいと思ったとき、政治家は結託して
 「金持ちに八つ当たり」してしまえ、と考えているのでしょう。


 これは、喫煙家に八つ当たりした「たばこ税率」のアップと
 全く同じ構図です。
 これらの方法は反対票が少ないので、採択しやすいのだと思います。


 こうした動きを見ていると、日本の政治家や役人が主導すると、
 つくづく抜本的な改革策は出てこないものだと残念に思います。


 米国では次期大統領選の共和党候補者の一人であったハーマン・ケイン氏が
 「9-9-9」タックスプランという面白い提案をしていました。


 所得税、法人税、消費税を9%に統一するという案です。
 現行の所得税、法人税の税率を下げる代わりに、連邦消費税を新設しよう
 というのです。


 これを日本流に応用して私が提唱しているのが、所得税、消費税を10%
 に統一し、法人税を20%にする、という「ダブル10+20」案です。


 現行の3大税収(所得税、消費税、法人税)は約49兆円ですが、
 この方法を採用するだけで2009年度の租税総額約75兆円を
 カバーできる計算になります。


 これに加えて付加価値税と資産税を導入するべきでしょう。
 発展途上国の税制をそのまま成熟国に当てはめていると、
 徐々に効率が悪くなっていきます。


 この点を考慮し、どこから税収を得ていくのか、漏れのない公正な税制を
 抜本的に考え直すことが重要だと私は思います。


 「少しずつ消費税や所得税を上げていくだけ」
 「(反対票が少ないからと言って)たばこや酒などの懲罰的な税率を上げる」
 ではあまりにも能がありません。


 日本の政治家や役人にも、もっと知恵を出して欲しいところです。
 まだまだ日本には抜本的な解決策を提案できる人が少なすぎると
 残念に思います。



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 ▼民主党政権、マニフェスト総崩れ
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 政府は24日午前の臨時閣議で2012年度予算案を決定しました。
 一般会計の総額は11年度当初比で2.2%減の90兆3339億円で、
 6年ぶりに前年度を下回りました。


 ただし、東日本大震災からの復興経費を別枠で管理する特別会計を含めると
 予算規模は過去最大。


 歳入に占める借金への依存度も49%と過去最悪となっています。


 一般会計における税収・歳出・公債発行額推移を見ると、歳出が膨らむ一方で
 税収が減ってきているのが分かります。
 復興債は25年の特別会計にしてしまったため、予算には含まれないという
 のですから、この予算は「まとも」に判断できるものではないでしょう。


 一般会計歳出に占める主要経費の割合の推移を見ると、この50年間で
 国債費が20%を占めるまでに大きくなっているのが分かります。


 しかも民主党政権になってから、社会保障の負担が増加傾向にあります。
 かつての日本のお家芸であった公共事業に回っていくお金がありません。


 つまり今の日本では、政策的に使うお金ではなく、交付税や社会保障、
 国債の利払いなど構造的に出ていくお金が大きくなりすぎているのです。


 財務省が24日発表した2012年度の国債発行計画では、過去の国債の返済期限
 にあわせて別の国債に借り換えるものも含め、発行総額は174兆2313億円。
 当初計画としては、過去最大となっています。


 40万円の収入に対して174万円の出費をして、一人あたりの借金残高は
 1000万円に相当するなどと批判されていますが、致し方ないでしょう。


 ここまで悪化させてしまう現状を目の当たりにすると、民主党政権よりは
 自民党政権のほうが「まだマシ」だったのではないかと感じてしまいます。


 野田首相の対応を見ていても、財務省に背中を押されながら消費税を10%に
 上げるのが精一杯という様子に見えます。
 おそらく今はほとんど他のことを考える余裕が無いのではないかと思います。


 政府が発表している数値も、当てにならないものばかりです。
 あれだけ世間を騒がせた「事業仕分け」では何兆円規模の景気のいい話
 が出ていましたが、結局、数十億レベルで終わっています。


 民主党のマニフェストの柱であった八ッ場ダムについても、
 前田国土交通相が22日、八ッ場ダムの建設再開を表明しています。


 今回の八ッ場ダム建設再開を受けて、民主党の前原政調会長の政治生命、
 同時に民主党の政治生命もほぼ終わったと私は見ています。


 あれだけマニフェストに固執していて、かつて国土交通相を務めた時には
 まっさきにダムの建設を中止すると発言していたのに、今回の「再開」発表です。
 今後の影響力はなくなったと考えざるをえないでしょう。


 結局のところ、民主党のマニフェストはどうなってしまったのか?と
 問いたくなります。


 子ども手当は導入しましたが所得制限が設けられましたし、高速道路無料化
 については始めたら止めてを繰り返し、今は被災地だけは特別という
 訳のわからない形になっています。


 高校の実質無償化は実施されましたが、八ッ場ダムは建設再開、
 事業仕分けはわずか数十億円規模しか捻出できず、
 暫定税率の廃止もできていません。


 マニフェスト自体が「思いつき集」に過ぎませんから、全てを実行できない
 というのは最初から分かっていたことですが、それにしてもここまで
 執着心がないというのは如何なものかと思います。


 自民党とは何が違うのか?民主党政権になることで日本はどう変わるのか?
 全く見えてこないままです。


 ここまで民主党がだらしないのなら、
 「政権運営に慣れている自民党でいいじゃないか」と言われても
 仕方ないでしょう。


 ただ自民党の側もこれだけひどい有様の民主党にもかかわらず、
 政権交代にまで至っていないのは、自民党にも恥ずかしい内部事情があり、
 大きな問題を抱えているからです。


 今の民主党も自民党も当てにならないのなら、小沢一郎・元民主党代表が
 主張しているように新しい勢力を結集しようという動きになります。


 しかし私が見る限り、新しい政党の動きを見せる人たちは、
 やや保守的な傾向が強すぎると感じます。
 改革案などと言いつつも、中身を見ればモンタージュ写真よろしく、
 どこかで使い古されたパーツを集めてきたというものが多いように思います。


 野田政権も消費税を強引に10%に引き上げたら、長くは続かないでしょう。
 その後「一体誰が?」を考えると、暗澹たる気持ちになってしまいます。


 ダメな人とダメな人の組み合わせだけど、「もしかしたら」上手くいくかも
 知れないという感情を国民に抱かせて、
 一人、二人の新鮮な顔をいれるくらいが関の山かも知れません。


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