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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON386「ロバート・ガルビン氏が死去~巨人の死とこれからのアメリカ外交」

2011年10月28日

 米モトローラ
 ロバート・ガルビン氏が死去
 米経済
 経済を外交政策の中心に


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 ▼30年に渡って、日本に影響を与え続けたと言っても過言ではない男
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 米通信機器大手モトローラ・モビリティとモトローラ・ソリューションズは
 12日、分割前のモトローラで会長兼最高経営責任者(CEO)を務めた
 ロバート・ガルビン氏が11日、死去したと発表しました。89歳でした。


 創業家出身で、90年に会長を退任するまでモトローラの経営をリード。
 モトローラを通信機器や半導体を含めた世界有数の電機大手に育てました。


 ガルビン氏と言えば、日米貿易交渉でその名を轟かせた人物です。
 特に日米半導体協定交渉では米国側代表の一員として大きな影響力を発揮し、
 日本側の代表の一員であったソニーの盛田昭夫氏と交渉しました。


 これによって日本は半導体を失うという結果につながりましたので、
 正直言って日本にとってみれば「悪役」以外の何物でもない存在だった
 と思います。


 盛田氏がガルビン氏と手打ちの条件として合意したのは、少なくとも
 日本が半導体の2割を海外から購入するというものでした。


 日本市場での海外製品の比率をためる一環として、日本は韓国へ
 ライセンスを渡し、LG電子やヒュンダイに作らせることになりました。
 今となってみれば、日本が半導体で韓国に寝首を掻かれる最初のキッカケ
 になってしまったと言わざるをえないでしょう。


 盛田氏とガルビン氏は非常に仲が良かったのですが、客観的に私が
 見ていた限りで言えば、ガルビン氏は日本にとって厄介な存在だった
 と思います。
 半導体関係だけでなく、通信関係で日米関係がこじれたときにも、
 常にガルビン氏の存在がありました。


 携帯電話が普及し始めた初期の頃、関西ではいわゆる「モトローラ方式」
 という、全国一律のフォーマットから外れたものが普及しましたが、
 これはガルビン氏の働きかけによって米国からの政治的圧力がかかった
 結果でした。


 ガルビン氏はまさに「政商」のように動き、日本への圧力をかけ続けた
 人物です。日本に市場開放、自由貿易を求め続けたアメリカ合衆国
 通商代表部(USTR)のカーラ・ヒルズ氏なども、「政商」ガルビン氏から
 してみれば上手に利用した相手だったと言えます。


 日米貿易の歴史を振り返ると、忘れることができない巨大な存在であり、
 敢えて強調して言えば、日本は30年間に渡ってガルビン氏に振り回され
 続けたと言っても過言ではないと思います。それだけの巨人でした。


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 ▼米国が経済を外交政策の中心とするとき、外国への圧力がある
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 クリントン米国務長官は14日、インドやブラジルなどの新興国は
 経済を外交政策の中心に据えており、米国も見習う必要があると指摘しました。


 「強い経済が世界における米国の指導力を支えてきた」と述べ、
 外交政策のあらゆる側面に経済の視点を取り入れるための見直しを進めている
 と明らかにしました。


 このように米国が外交政策の中心として経済を掲げるときには、
 「要注意」だと私は思っています。


 基本的に、米国の外交政策の中心は国防にあります。
 様々な理由、背景はありますが、結果として米国があれだけの数の戦争に
 参加する点を見ても、やはり国防ロビーの人たちが外交を支配していると
 言えると思います。


 その米国が外交政策の中心として経済を、というのはほぼ間違いなく
 「外国に対する圧力」をかける時です。かつての日米貿易戦争を見ても、
 現在の米国から中国への働きかけを見てもよく理解できると思います。


 そしてこの動きは一時的なものであり、またすぐに国防が外交政策の中心に
 据えられる可能性は十分にあると見ておくべきでしょう。


 英フィナンシャル・タイムズ紙が「米国が中国に覇権を譲る日」という
 長大な論文を発表していました。
 その中で発表されていた米中のGDP推移【予測】によると、
 今後25年~30年かけて、購買力平価ではなく実際のドルベースでも
 中国が米国のGDPを上回るとされています。


 現時点で米国が経済に注力したいと感じるのは、まさにこの発表にも
 あるような中国の台頭によるところが大きいと感じます。
 哀しいかな、日本のGDP推移(予測)を見ると、中国どころか米国にも
 大きく及ばず、ほとんど横ばいが続くと見られています。


 ただし、この予測の通りにはならず、中国や米国が伸び悩む可能性も
 十分にあると思います。かつて米国の未来学者ハーマン・カーン氏は、
 同じような図を示し、「2000年には日本が米国をGDPで上回る」
 「21世紀は日本の時代だ」と述べていたことがあります。


 ところが、現実は誰もが知っている通り、大きく異なっています。
 このような図を見る時にはあくまで「参考程度」とするべきでしょう。
 米国にしても図の通りに成長できるかは分かりませんし、
 中国はさらに「コケる」可能性が高いと私は感じています。


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