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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON380「ロシア外交~アップサイドの見込めるこの国に全力を注ぎこめ」

2011年9月16日

 ロシア軍事演習
 大規模軍事演習をカムチャッカ付近で実施へ
 武器使用・輸出議論
 自衛隊の武器使用、緩和すべきとの見解


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 ▼日本外交で最も優先すべきは、アップサイドが見込めるロシア外交
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 ロシア国防省は9日、9月中旬に極東のカムチャツカ半島付近で
 大規模な軍事演習を行うことを明らかにしました。


 最大で1万人の兵員と50隻以上の艦艇、航空機が参加し、
 ロシア太平洋艦隊によるミサイルや魚雷、砲弾の発射訓練、
 海兵隊の上陸訓練などを実施するとのことです。


 前原氏が外務相の際に関係を悪化させたため、相変わらずロシアの動きは
 日本に対して逆噴射する様相を見せています。


 かつて自民党政権の時には、2島先行返還でロシアと合意していました。
 前原氏の就任直前にも北方4島の少なくとも一部返還をロシア側も認めていましたが、
 今はそのような状況ではなくなってしまいました。


 特にロシアにとって、欧州側のリスクが薄れてきているため、
 さらに日本にとっては厳しい環境になりつつあります。
 ロシアはEUとの関係性が良く、最近ではフランスから空母を購入するなど、
 軍の近代化を欧州と共に進めている風潮さえ見えます。


 強化された軍事力が向かう先の1つが、極東です。
 これは現実的にほぼ日本に向けられていると解釈すべきでしょう。


 中国との外交問題に大きな課題は残されていませんし、
 北朝鮮とは仲睦まじいロシアですから、「極東」で残されているのは
 日本しかないのです。


 米国に対しては強い態度に出すぎると反発を受けて面倒だと考えている
 でしょうから、当面は北方4島問題で生意気な態度を示している日本に
 強い姿勢を見せておこうと考えているのだと思います。


 ロシアの軍事勢力の約半分が日本に向いている、という印象です。


 野田首相はさっそく米国・中国との会談を予定しているようですが、
 私はロシアとの問題解決、関係性改善を優先するべきだと考えています。


 というのは、ロシアとの関係を改善することが
 最も「アップサイド」があるからです。


 中国と関係が良くなっても、せいぜい「戦略的互恵関係を強めましょう」
 で終わりです。米国とは従来の日米関係が少し進化するくらいで、
 やはり大きなアップサイドはないでしょう。


 この点、普天間基地問題が解決しても、大きな影響はないと私は見ています。


 日本の外交でアップサイドが見込めるのは、ロシアだけです。
 アップサイドが見込めるところに全力を注ぎ込むのが常識です。
 私は鳩山元首相が就任した際にも、同様のアドバイスを送ったのですが、
 結局実行されませんでした。ロシアとの問題は放っておくと悪化する一方です。
 今、手を打つべきだと私は思います。



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 ▼武器輸出三原則の緩和は、産業界への配慮の表れ
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 民主党の前原誠司政調会長は7日、ワシントン市内で講演し、
 国連平和維持活動(PKO)などに参加した自衛隊が近くにいる他国部隊を
 保護できるよう武器使用基準を緩和すべきだとの見解を表明しました。


 前原政調会長は松下政経塾の出身で、以前からこのような主張を
 していましたので、この発言内容自体には驚くことはありませんでした。


 ところで、「武器輸出三原則」は佐藤栄作元首相が最初に述べた定義から、
 いくつかの変遷を辿っています。


 佐藤栄作元首相の時、武器輸出を認めない国として規定されたのは以下の3つです。
 ・共産圏諸国
 ・国連決議で武器輸出が禁止された国
 ・国際債紛争当事国、その恐れのある国


 しかしハト派の三木武夫元首相の時、
 三原則対象地域以外も武器輸出を慎むという、
 事実上の全面輸出禁止が政府見解になりました。


 その後、中曽根元首相は米国への武器技術供与は三原則の例外として、
 最近では小泉元首相が米国との弾道ミサイルの防衛システムの共同開発・生産は
 三原則の例外扱いとしました。


 前原政調会長の狙いは、佐藤栄作元首相が最初に定義したレベルに戻そう
 ということでしょう。おそらく、背景には産業界からの圧力もあると私は見ています。
 武器輸出三原則を緩めることで、厳しい状況にある産業が活性化することもあります。


 かつては軍産複合体産学協同という名の下、軍事と産業界が共同体として
 機能したこともありました。


 最近の防衛関連の装備および整備維持経費の推移を見ると、
 新しい装備品が伸び悩み、整備維持経費だけで保っている状況がわかります。
 専守防衛という姿勢でいる以上、この傾向は一層強まるだけでしょう。


 メーカーにとってもこの状況を打破する1つの方法が、世界に対して武器を輸出
 できるようにすることです。前原政調会長は、武器輸出三原則の緩和によって
 それを狙っているのでしょう。


  しかし私に言わせれば、これが政調会長として今最も優先させるべき事項
 ではありません。前原政調会長にも、今一度、事の優先順位を考えなおして
 もらいたいと思います。


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