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〔大前研一「ニュースの視点」〕#139 《景気「いざなぎ」超えでも実感がない》当たり前の理由

2006年11月17日

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景気拡大 「実感がない」77.7%
景気の拡大期間
今月で「いざなぎ景気」超える見通し
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●今の景気回復に実感が伴わないのは、当たり前のこと


7日、帝国データバンクは、かつての高度成長期の
「いざなぎ景気」の期間を超えることが確実となった今回の
景気拡大について、調査した企業の77.7%が「実感がない」と
回答したとの調査結果を発表しました。


未だにこんな記事が新聞の紙面を飾ることに、私はいささか
呆れてしまいます。


このような報道だと、さも「なぜ景気回復をしているのに、
実感だけが伴わないのか?」という印象を受けてしまいますが、
これは物事の一面しか見ていない結果に過ぎません。


景気回復の実感がないのは、実は、当たり前のことなのです。


理由は、2つあります。
1つは調査を行っている世代間の格差問題に根ざしていると
思います。


日本は、世代間の所得・資産格差が大きい国です。
ですから、若い世代に聞いてみたところで、実際にお金を
持っていないのですから「実感」が伴うわけがありません。


もう1つは、今回の景気回復が「いざなぎ景気」などとは
比べモノにならないほどの低成長に過ぎないからです。


景気回復の期間に焦点をあてて、
いざなぎ景気の57ヶ月(1965年10月~1970年7月)を
上回りつつあるというという見方をしていますが、
経済成長率に目を向けてみると全く違う事実が見えてきます。


戦後の55年体制から回復を見せた日本の景気は、
55年~70年にわたる好景気時代に突入しました。


この期間に、いわゆる「神武景気」「岩戸景気」、
「オリンピック景気」、「いざなぎ景気」が含まれています。


※「日本の景気の波と実質GDP成長率の推移」チャート
「日本の景気の波と実質GDP成長率の推移」チャート


このときのGDP成長率は、毎年8%前後で、
現在、破竹の勢いで成長を続ける中国と同じくらいの
急速な経済成長率だったのです。


それから、石油危機を経て80年代後半のバブル景気を迎えます。


このときのGDP経済成長率は、4%前後でした。
そしてバブルが崩壊し、ご存知の通り、90年代後半には
戦後初のマイナス2%というマイナス成長に転落したのです。


現在の景気拡大局面は02年2月からスタートし、
期間的には「いざなぎ景気」を超えようとしているわけです。


では、今の景気回復とは、一体どのくらいの
経済成長率(実質GDP成長率)なのでしょうか?


実は、今の経済成長率は、1%弱を行ったり来たりという
水準に過ぎません。


つまり、政府が言うところの景気回復(好景気)というのは、
単にマイナスになっていないという意味でしかないのです。
8%もの経済成長を誇った「いざなぎ景気」と比べられる
ものではないのは明らかでしょう。


経済成長率1%前後の「ちょぼちょぼ景気」でしかないのです
から、景気回復(好景気)への「実感がない」というのは
当たり前なのです。


●マネー・サプライと金利による経済政策では、
景気は回復しない


では、未だに低成長を続ける日本において、
本当の意味で景気回復(好景気)を実現するために
打つべき手は何でしょうか?


ポイントは、個人資産1,500兆円という巨大なダムを
決壊させることでしょう。


勘違いしてはいけないのは、
日本は低成長だからといって「お金がない」のではないのです。
むしろ、年配の方などはかなりの貯蓄がありますし、
「お金がある」というのが正しい見方でしょう。


だから、この1,500兆円を市場に引っ張り出すことができれば、
あっという間に景気回復が図れると私は見ています。


そして、この1,500兆円が市場で有効に使われるかどうかは、
個人の心理的な要因によるところが大きいと思います。


つまり、個人個人が、
いかにいい気持ちでお金を使えるような政策・施策を
打っていくことができるかどうかという点がポイントです。


この点を分かっていないと、マネー・サプライと金利に頼った
政策を打ち出すことになってしまいます。


札束をどんどん印刷し、金利を下げることで、
市場をお金で満たそうとするわけです。
しかし、この方向性では上手くいかないでしょう。


なぜなら、先ほども述べたように、日本は低成長ではある
けれども「お金は溢れるほどある」状態だからです。
そんな状態なのに、さらにお金でジャブジャブにしようと
しても全く効果は薄いと思います。


だから、馬鹿の一つ覚えのようなマネー・サプライと
金利頼りの政策ではなく、例えば、いかにたくさんの
貯蓄をしている年配の方々に気持ちよくお金を使って
もらえるようにできるかという観点から具体的な施策を
考えていくべきだと思います。


築30年近い家に住んでいる多くの年配が抱えている
建て替え需要に応えるような施策を考えてみるのも1つの
案になりえるでしょう。


「いざなぎ景気」ほど実感がないなどという一面的な
事実(数字)を見るのではなく、きちんとデータを見る目を
養うことが大切でしょう。


経済成長率では「いざなぎ景気」には遠く及びませんが、
日本がバブル崩壊のマイナス成長から脱して、
プラスに向かっていることは確かです。


政府は1,500兆円の莫大な個人資産を有効に使う施策を
考えてもらいたいものだと思います。


     以上


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