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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON375「原発再稼働と日本の将来~歪んだ対立構造を作らず本質を見よ」

2011年8月12日

原発再稼働問題
 再稼働新基準は「事故調報告の1、2年後」
 ストレステストを厳しく批判新潟県・泉田知事 
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 ▼日本の産業界の将来と子供の未来は、本来対立するものではない
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 菅直人首相は先月21日の参院予算委員会での答弁で、原発再稼働のための
 本格的な安全基準について「(東京電力福島第一原発の)事故調査・検証委員会
 の報告が出た1年か2年後、新しい基準をつくることになる」との見解を示しました。


 また同日、海江田経産相は菅直人首相の「脱原発」発言について、
 「首相が個人的な意見だと言っているので、それを共有しているかどうかは、
 鴻毛(こうもう)より軽いと思う」と述べ、脱原発を内閣として共有する
 必要はないとの認識を強調しました。


 まず本質的な点を指摘しておくと、「再稼働の基準=ストレステストの結果」
 であるべきで、ここを外していては問題外です。


 そして菅総理の言うところでは、事故調の報告から1年~2年ということですから、
 端的に言えば「今から3年間は原発無し」ということです。


 これは、もはやテロリストの所業だと私は思います。
 これから3年間、原発を一切使わないとなると、
 日本の産業はどうすればいいのでしょうか?


 この点を顧みず「脱原発」を旗印に強い姿勢を崩さない菅総理に、
 自民党の有力議員や民主党内部からも批判の声が上がっています。
 中には菅総理を諌めるために、
 「今年の夏の間に1回~2回、ブラックアウトが起きればいい」
 という過激な意見もあるようです。


 菅総理を追い込み過ぎると「脱原発」を公約に解散総選挙に出るから危険だ、
 ということを私は何度か指摘しています。これに対し、国民も「脱原発」が
 日本の産業に影響を与えるのはわかるだろうから菅総理が勝つとは限らないのでは?
 という意見も聞こえてきます。


 菅総理を始め、一部の人が思い描いているストーリーは次のようなものでしょう。
 ・世界唯一の被爆国である日本だからこそ、核なき世界を主導すべき
 ・再生可能エネルギーを国家戦略として取り組むべき


 こうしたビジョンを訴求するために、子供を抱えた母親が登場して
 「この子の将来のために脱原発を・・・」と泣いて訴えるわけです。
 切り札としてこのような演出も使うのではないかと私は見ています。


 本来、子供の明るい未来と日本の産業界の発展は対立するものではありません。
 日本の産業界がボロボロになってしまえば、企業にも家庭にも影響するのは当たり前です。
 それは子供たちが生きる日本の将来に影を落とします。
 論理的に考えれば、誰にでもすぐに理解できることです。


 しかし政治の世界は、「本来対立していないものでも対立させてしまう」のです。
 「お母さん、“産業の発展”と“あなたの子供の未来”、どちらが大切なのですか?」
 と問いかけるわけです。そして「今年の夏、電力危機と言われながらも
 何とか乗り越えることができました、あとたった12%の節電で原子力がなくても
 やっていけるのですよ」「核なき世界を一緒に創りましょう」と背中を押せば、
 多くの人は「脱原発」に傾いてしまうのではないでしょうか。


 実際、読売新聞と日経新聞は反対していますが、朝日新聞は「脱原発」に賛同しているほどです。
 選挙に臨む候補者の中にも母親は多いでしょうし、一気に菅総理のシナリオに飲み込まれる
 可能性は十分あると思います。もう少し冷静に、日本の産業界の将来、
 日本の産業界の養成についても考えるべきだと私は強く感じています。


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 ▼ストレステストは、福島の反省が活かされていなければ無意味
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 また、ストレステストについても実施内容に大きな問題があると私は思います。
 経済産業省原子力安全・保安院は先月21日、原子力発電所の安全性を確認する
 ストレステストの実施計画の修正を原子力安全委員会に提出し了承されたとのことですが、
 あの程度の内容を了承してしまうとは「原子力安全委員会」として恥ずかしくないのか?
 と言いたくなります。


 新潟県の泉田裕彦知事も同様に感じたようです。
 泉田知事は先月26日、政府が定期検査中の原子力発電所を再稼働する条件として実施する
 ストレステストについて「気休め以外の何ものでもない」と厳しく批判しています。


 泉田知事の指摘はもっともで納得できるものです。
 保安院の提出したストレステストは欧州型をベースにしたもので、
 そこには「福島第一原発事故」の反省が活かされていないというのです。
 「福島の反省が活かされていなければ意味が無い」と指摘しています。


 泉田知事は原発を抱える全国の知事の中で、オピニオンリーダーの立場にある人です。
 彼の発言は大きな影響力と意味を持つと考えて良いと思います。
 これにより、今回のストレステストの地元での受け入れはほぼ不可能だと言えるでしょう。


 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は「ストレステストの実施を歓迎する。
 IAEAにもレビュー(評価)の機会を与えてもらいたい」と述べ、
 テスト結果をIAEAが評価することに意欲を示しているとのことですが、
 もはやその流れはないと私は見ています。


 原発問題を考えるに当たって、感情論だけで脱原発に傾くのも問題だと思いますし、
 またストレステストにしても、それを実行する意図・意味はどこにあるのかを
 冷静に判断する必要があると思います。


 政治家や官僚の発表内容を鵜呑みにせず、国民一人ひとりが物事の本質を見極める考え方を
 身につけることが大切だと改めて感じます。


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