大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON370「地方は如何に生き残るか?~福島復興ビジョンと漁業権が投げかける地方の問題」

2011年7月8日

福島復興ビジョン検討委
 エネルギー自立を盛り込み
 水産業復興
 被災地産業への参入希望14社 
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 ▼福島県の脱原発は、日本を2分する可能性のある危険な見解
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 有識者で構成する福島県復興ビジョン検討委員会は2日、「脱原発」を基本
 理念に盛り込んだ提言案をおおむね了承しました。


 これは、基本理念の3本柱として「原子力に依存しない、安全・安心で持続的
 に発展可能な社会づくり」などを掲げたもので、近く福島県の佐藤雄平知事に
 提出する方針です。


 福島県が「脱原発」を掲げるのは自由ですが、これは「日本を2分する」くら
 いの影響力がある意見だということを正確に認識しておくべきだと私は思いま
 す。福島県には石油はありませんし、地熱発電もそれほど大規模なものは期待
 できないでしょう。


 ということは、福島県が言う「脱原発」はただ単に東京都にエネルギーを供給
 するだけの原発はやめよう、ということを意味します。


 すなわち、福島県は自給自足で必要なエネルギーを太陽熱・火力・風力で
 賄っていくので、東京都がエネルギーを必要とするなら東京都に原子炉を作れば
 いいじゃないか、ということです。福島県が東京都の犠牲になるつもりはないと
 いう意思表示と捉えて良いと思います。


 福島県がこのような見解を示すことは自由だと思います。しかし、同時に「経
 済的な自立」も含めて考えなくてはいけないでしょう。


 現状、原発に限ると大阪府の電力は福井県、東京都の電力は新潟県と福島県か
 ら供給を受けています。大阪府、東京都に住む人々は、当然のことながら「感
 謝」の気持ちを忘れるべきではありません。


 ただ同時に、東京都が中心となって納めている「税金」があるからこそ、福島
 県などへの地方交付税が支払われているというのも事実です。


 もし福島県が東京都への「エネルギー供給」を断つのなら、東京都も福島県へ
 の「経済的な支援」を断つという決断を下すかもしれません。


 東京都や大阪府を中心にこの問題が議論されていけば、間違いなく日本を2分
 する大きな問題となるはずです。


 福島第一原子力発電所の事故を見ていれば、福島県の「気持ち」は十分に理解
 できます。それでも、今の日本の現状からすると今回の意見は、少々飛躍した
 考えだと言わざるを得ないと思います。


 エネルギーのことだけに目を向けるのではなく、経済的な側面も考慮しなけれ
 ばいけません。その意味では、福島県が道州制という選択肢に活路を見出すと
 なれば、また違った展開も出てくるかもしれません。


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 ▼「漁業権」はそれほど重要か?
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 水産庁は先月29日、東日本大震災で被災した地域で水産業への参入を希望す
 る企業が14社あったとの調査結果を発表しました。


 検討中または今後検討する、と答えた企業も8社あったとのことです。宮城県
 が提唱する「水産業復興特区」構想にとって追い風となりそうです。


 一方、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は、この宮城県の「水産業復興特区」
 という考え方について、「漁場に大きな混乱を招きかねない」と強い懸念を表明
 しています。


 全漁連が懸念しているのは、今自分たちが一元管理している中に新たに企業が
 参入してきたら「面倒だ」という、ただそれだけのことだと思います。全漁連
 というのは、そういうモノの考え方をするのです。


 彼らは事あるごとに「漁業権」というものを主張しますが、実はこの「漁業権」
 という考え方・概念は、世界で広く認識されているのか疑問があると言えます。


 例えば米国では、「釣る」能力・スキルそのものがプロとアマチュアでは差があ
 るのだから、アマチュアが漁場に入ってきても問題ないというスタンスです。
 一般の人(アマチュア)が釣りたいのなら好きなように釣らせても大きな問題
 にはならないだろうと言うのです。


 カナダでは漁業資源を確保するために、ある一定の大きさ以下の魚はリリース
 するよう制限をかけています。あるいは「釣る」行為自体に年間50ドルの支
 払いを課す場合もあります。それでも「漁業権」という概念はありません。


 漁業権という権利・概念に固執することなく、世界の状況を見て、企業として
 も参入したいならすれば良いし、若い人で漁業に携わってみたいと思うなら思
 い切ってやってみてもらいたいと私は思います。


 そもそも私に言わせれば、漁業権という概念を認めたとしても、今の日本の現
 状から言えば、それを問題視する必要はありません。


 なぜなら、現実的に日本で流通している魚の半分は輸入で、漁獲と養殖を含め
 た生産をみても養殖の割合は小さくありません。


 一方、海に出て採ってきた魚の漁獲量は減少傾向にあります。このような状況
 なのに、日本には2900もの漁港が必要なのか?という点について、私は約30年
 前から問題を指摘しています。


 このような主張をするたびに私は全漁連から、激しい反発を受けてきました。
 いい加減、時代の流れ、世界の情勢を見て、日本の漁業も変革をしても良い時
 期ではないかと思います。


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