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解除された量的金融緩和政策~まずなによりも先に預金者に金利を
日銀は9日の政策委員会「金融政策決定会合」で、2001年3月に
導入した量的金融緩和政策の解除を決めた。
消費者物価指数が安定的に前年比ゼロ%以上になるなどの
解除条件が整ったと判断したとのこと。
日本の金融政策は5年ぶりに正常化へ向けた一歩を踏み出す
ことになるが、これまで国民が払ったツケは予想以上に大きい。
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●結局は銀行を庇護しただけの「ゼロ金利」
ストラテジストのピーター・タスカ氏は先ごろ米ニューズ
ウィーク誌において、マーケットではなく政府主導で
進められた日本のゼロ金利状態を「バビロニアの時代から
はじめての出来事」と皮肉りました。
これは言い得て妙な発言で、まさに有史以来の異常事態だった
わけです。
金融機関の金利の変遷を紐解くと、80年代は金融機関自らが
作り出した運用益の90%が、利子として預金者に還元されて
いました。
金利もおおむね常識的な範囲で、無担保コールローン金利は
80年代の終わりから90年代の初頭にかけて上昇、一時は7~8%
のときもあったのです。
そこで囁かれ出したのが、いわゆる金融危機。1992年以降、
金利は一気に下降線を辿り始めました。そして国が動くこと
になり、1999年にゼロ金利政策、2001年に量的金融緩和政策
を導入。
日銀は預金解約などの流動性危機を回避するために、各金融
機関が持つ日銀の当座預金にお金をジャブジャブと注ぎ込み、
短期金利はほぼゼロになりました。
お金浸しになった金融機関から「融資」といった形で市場へ
お金が回って景気が回復し、デフレ脱却となるだろうという
のが当初の目論見。
しかし、ヘタな融資をするとすぐさま金融庁に睨まれる状況も
あったために融資はそれほど活発化せず、結局は銀行の倒産を
防ぎ、収益を改善させただけの結果となったのです。
三菱総研の試算によると、1991年の金利水準が続いていた場合、
この低金利政策により家計から失われた利子所得の総計は
14年間で283兆円。
一方で金融機関の利子所得は上昇、そしてこの間に企業の
利子負担は264兆円減少したとのこと。
なんのことはない、低金利政策を通じ家計から金融機関及び
企業へと所得移転が進み、家計から失われた利子所得により
金融機関の不良債権と企業の過剰債務の処理が進んだ
と言うことです。
●世界上稀にみる「超低金利でも資産を預ける」国民性
今回、量的金融緩和政策の解除を決めたと発表がありましたが、
同時に「しばらくはこのままゼロ金利状態を続ける」との発言
もありました。
にもかかわらず1400兆円を超える個人資産が「ゼロ金利」を
甘受して、そのまま金融機関に据え置きになっています。金利
がゼロなのに預けたままにしていることは、まず間違いなく
他の国では起こりえません。
自らの金融資産に対して鋭敏な感覚を持つオーストラリアの
国民は、市場の動向に応じてアメリカ、欧州に目を向けて次々
と有利な金融商品に乗り換えていきます。
もしオーストラリアで日本のような政府主導の低金利政策が
実施されれば、皆すぐさま海外へ資産を移し、政府は崩壊の道
を辿るでしょう。
そのためオーストラリアの金融機関は資産の海外流出を防ぐ
ため、金利を一様に高く設定しています。
私も至るところで述べていますが、世界に目を向けると10%
以上の運用実績を誇るファンドも多々あるのです。
「国に預けておくほうが安心」という論理は、郵貯が投信を
買って儲けている事実のもとでは通用しません。
銀行や郵貯など、政府のやりたい放題がまかり通って利回りが
著しく悪いところに資産を預けておく状況に、私は日本人の
不思議を感じざるを得ません。
不思議なのはマスコミも同じ。量的緩和解除を報じる際にも、
貸出金に比べて預金が多い、預金超過である大手銀行では、
国債投資などの市場性運用の収益が金利上昇を受けて改善。
貸出金利も預金金利に先行して上昇する見通しで、利ざや改善
効果が期待できる、としています。
まさしく銀行側のスタンスに立った物言いで、「預金者に金利
を払う」という当たり前の感覚が欠落していることに私は愕然
としました。
あらためていいますが、金利はそもそもマーケットが決定する
ものです。量的金融緩和政策の解除を決めたことは正常化への
「はじめの一歩」に過ぎず、これでデフレ解消だ、金利上昇
だと騒ぐのは時期尚早といえるでしょう。
「当たり前」の状況になるまで、私たちは厳しく目を向けて
おく必要があります。
-以上-