大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON368「脱原発~「現象」ではなく実態を正確に伝えるリーダーシップの不在がもたらす混乱」

2011年6月24日

イタリア原発政策
 国民投票で原発再開凍結へ
 国内原発政策
 反原発は「集団ヒステリー」発言
 -------------------------------------------------------------------
 ▼イタリアの状況は、ドイツや日本とは大きく異なる
 -------------------------------------------------------------------


 原発再開の是非を問うイタリアの国民投票は、13日、原発反対派が
 9割を超えて圧勝し、新規建設や再稼働が凍結される見通しとなりま
 した。投票不成立を目指したベルルスコーニ政権への大きな打撃です。


 今回のイタリアの国民投票は、原発の是非を含め4つの議案が題材と
 なっていました。ベルルスコーニ首相の免責を求める法律改正も含ま
 れており、総じて言えば「反ベルルスコーニ投票」だったと言えるで
 しょう。


 原発に関しては9割以上の反対となり、世界中への影響が予想されます。
 原発への依存度が高いフランスでは、もはや脱原発の選択肢を取る
 ことはできない状況です。


 ゆえに今回のイタリアの国民投票を受けて、フランス国内では「自分
 の国だけ原発を放棄し、フランスからエネルギーだけ購入するのは、
 イタリアは都合が良すぎるのではないか」という不満が出てきている
 とも聞きます。


 さらにはフランス国内でも、「本音を言えば、国内で原発は抱えたく
 ない。フランスでも国民投票で原発の是非を問うべきだ」という意見も
 あるそうです。


 日本に目をむけると、イタリアのニュースを受けて、やはり同じよう
 に日本国民にも原発の是非を問うべきだという意見があります。


 しかし、この種の意見を述べている人の多くは「実態」を理解して
 いないと私は見ています。


 イタリアの原発は全部で4基ありますが、この4基はすでに停止して
 います。今回の投票でイタリア国民に問われたのは、「今ある4基は
 永遠に停止とし、その上で新しい安全な原発を4基作る」という
 ベルルスコーニ首相の提案です。


 この実態を理解していれば、イタリア国民の9割以上が反対するのも
 頷けると思います。今稼動している原発を止めるかどうかという判断
 ではないからです。この点、ドイツや日本では全く条件が違います。


 ドイツの原発の中にはイタリア同様すでに停止しているものもありま
 すが、「一時的に」止めているだけというものもあり、それを永遠に
 停止するかどうかは難しい判断になります。


 日本の場合にはさらに難しい状況なのは明らかです。イタリアと日本の
 実態の違いを理解せずに議論を進めても、意味はないと私は思います。


 また原子力発電の是非を問うなら、同時に電気料金の値上がりについ
 ても議論しなくてはいけないと思います。


 例えば、2007年の主要国のkWhあたりの家庭用電気料金を見ると、
 イタリアよりも高額なのは、原子力発電の割合が低くクリーンエネル
 ギーを主体とするデンマークとオランダだけです。


 日本はイタリアの75%程度で、米国・韓国は半額以下です。韓国は
 政治的な補助によるもので、米国の場合には自由競争の結果の低価格
 になっています。


 ※「主要国のkWhあたりの家庭用電気料金」
→ → 


 デンマークやオランダを見れば分かるように、クリーンエネルギーは
 高額です。ソフトバンクの孫社長をはじめ、クリーンエネルギーを
 推し進めようとしている人は多いのですが、この料金問題についても
 きちんと議論すべきでしょう。


 現在、日本の太陽光発電、風力発電はどちらも全体の1%にもなりま
 せん。これらを20%程度まで引き上げるとなれば、相当大変です。
 太陽熱・風力による発電では、電気料金は格段に上がることを覚悟
 すべきでしょう。


 -------------------------------------------------------------------
 ▼ 石原伸晃幹事長は、リーダー失格だ
 -------------------------------------------------------------------


 自民党の石原伸晃幹事長は14日の記者会見で、イタリアの国民投票
 で原発反対派が多数だったことについて「あれだけ大きな事故が
 あったので、集団ヒステリー状態になるのは、心情としては分かる」
 と語り、発言が取り沙汰されています。


 また、脱原発と自然エネルギーの可能性をさぐる自民党の「エネルギー
 政策議員連盟」の初会合が14日開かれ、脱原発の急先鋒、河野太郎
 衆院議員が「原発一本やりの自民党を変える」と強調しました。


 河野議員としては、中曽根氏や与謝野氏に代表されるような古くから
 存在する「電力利権」議員へ対抗する姿勢を見せているのでしょう。


 自民党は原発を押し進めてきましたから、古い議員は何らかの形で
 「原発に絡んで」います。例えば、原発の誘致にあたり住民から反対
 運動が起こります。


 その住民に対して国から補助金を持ってくるというのが、自民党の
 古い議員の得意技でした。河野議員はこのような自民党の体質を変え
 ようとしているのでしょう。


 ただ私に言わせれば、「クリーンエネルギーの象徴」「脱OPECの目玉」
 として原発が果たした良い側面を全く無視しているのはいかがなもの
 かと思います。


 また時流に乗って鬼の首を取ったように自民党を批判してみても、
 おそらく自民党の中でリーダーシップを発揮することはできないで
 しょう。


 議員の仲間からは、「自分だけいい格好している奴」と思われている
 からです。ゆえに、首相指名される見込みはほとんどないと私は見て
 います。


 石原伸晃幹事長について、率直に言うと「リーダー失格」だと私は
 思います。「反原発」は国民の心の声であり、「集団ヒステリー」など
 ではありません。


 そんなことも分からない、感じ取れないのならリーダーになる資格は
 ないでしょう。


 石原伸晃幹事長の「集団ヒステリー」が「イタリア国民」「日本国民」
 のいずれに向けて発せられたものであれ、全く実態を把握していない
 と言わざるを得ません。


 今回のイタリアの国民投票は先ほど述べたように、4基の新しい原発
 を作るかどうかを問うものでした。


 現在稼動しているものを停止するわけではありません。ですから、
 イタリア国民の反応は充分理解できますし、極めて冷静な判断だと
 言えます。


 この実態を知らず、イタリア国民に対して「集団ヒステリー」と称し
 ているなら失礼極まりないでしょう。


 日本国民に対して言ったのならば、「なぜ日本国民が原発に不安を感じ
 ているのか?」を理解してほしいところです。


 それは原発の関係者が反省をせず、国民に分かりやすい形できちんと
 説明していない、という点が大きく影響していると私は思います。


 つまり、日本のリーダーがやるべきことをやっていないからであり、
 一言で言えば「リーダーシップの欠如」が原因です。そんな状況で
 あれば、日本国民は不安になって当たり前だと気付かないのでしょうか?


 いずれにせよ、石原伸晃幹事長の発言は、自分自身が「リーダー失格」
 であるということを物語っていると私は思います。


 必要なことは、イタリアの状況と日本の違いを正しく認識すること、
 そしてクリーンエネルギーを推奨するなら同時に価格についても議論
 すべきだということ。「現象」だけにとらわれることがないよう注意
 してもらいたいと思います。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点