大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON367「国家安全保障~防衛省・自衛隊の任務を再定義し、21世紀型の脅威に備えよ!」

2011年6月17日

 大規模災害対策
 防衛省・自衛隊の役割を再定義
 サイバー攻撃
 サイバー空間の国際ルール確立を提唱
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 ▼大規模災害への対策も、国家の危機を守る意味で防衛省の役割にすべき
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 私はここ半年ほど防衛省・自衛隊の役割の再定義というテーマについて、
 考察しています。21世紀において「国家に危機が及ぶ」タイミングを
 考えてみると、例えば次の3つのパターンが挙げられると思います。


 1.外国からの兵器による攻撃
 2.地球による攻撃(大規模災害など)
 3.サイバー攻撃


 今現在の定義では、防衛省・自衛隊の役割は「兵器による攻撃」を受けた
 とき、国民を守るということになっています。


 今回の震災を受けて自衛隊が救助活動などに参加していますが、北沢防衛相
 の態度を見ていると、自衛隊の「主たる任務」としてではなく「義理で」
 出掛けているという印象を私は拭えません。


 私はここに疑問を感じるのです。国が危機に襲われたとき、防衛省が守るべき
 は「国」ではなく「国民」であるはずです。であれば、今回のような大規模
 災害から国民を守るのは防衛省の役割と考えるべきではないでしょうか。


 外国からの兵器による攻撃だけでなく、「大災害からも」国民を守るという
 防衛任務と定義されていれば、今回の震災対応も防衛省が「第1次任務」となり、
 担当が明確になります。


 実際問題として、警察や消防では大規模災害には対応しきれませんから、
 その意味でも防衛省が適任と言えると思います。


 この定義に基づいて普段から訓練していれば、今回の福島第1原発事故に
 対しても、もっと対応力を発揮できたはずだと私は見ています。


 米軍では日頃から放射線濃度がかなり高い場所で作業する訓練をしていますが、
 今の自衛隊ではそのような準備は米軍ほど徹底していません。


 防衛省の役割を再定義することで、自衛隊も日頃から米軍並みの訓練を実施し、
 準備を整えることは可能だと私は思います。


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 ▼ サイバー攻撃からの防衛も、国防の範囲として考えよ
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 大規模災害に加えて、もう1つ防衛省の役割に加えるべきなのが「サイバー
 攻撃から国民を守る」ことです。


 今、中国では数千人規模でサイバー攻撃ができる人材を育てて演習をしている
 という話を耳にします。


 あのITに疎い北朝鮮でさえ、サイバー攻撃ができるような3000人の人材を育て
 ていると言われています。


 昨年末、米外交公電を暴露した「ウィキリークス」編集長のアサンジュ容疑者
 の逮捕を要請していたスウェーデン検察庁のサイトがサイバー攻撃を受けました。


 さらには同国政府のサイトもサイバー攻撃を受け、数時間使えなくなるという
 事態に発展しました。


 こうしたサイバー攻撃を日本が受けたとしても、今の日本には責任を持って
 「犯人」を追跡する役割を担う人が明確でありません。


 日本という国の基幹システムを揺るがすような、あるいは日本の重要企業の
 情報が空っぽになるほどのサイバー攻撃を受ける可能性があるのに、それらに
 誰が対処するのか明確になっていないのです。


 ゲーツ米国防長官は4日、サイバー空間の利用について多国間で議論を深め、
 禁止行為などのルールを確立するよう提唱しました。


 米国ではゲーツ「国防長官」が発表していることから分かるとおり、こうした
 事態を「国防」の問題として捉えています。


 21世紀の戦いは兵器によるものだけでないということを認識し、「サイバー
 攻撃からの防衛」を「国防」として防衛省の仕事であると定義してほしいと
 私は思っています。


 米国もしかり、中国なども尖閣諸島の問題で揉めたときの対応を見ていると、
 この点についての理解は日本よりもはるかに深いと感じます。


 中国だけでなく、そのうち北朝鮮で訓練をうけている3000人のサイバー攻撃
 部隊が世に出てきたら、日本にとって非常に面倒な事態を招くでしょう。
 日本もいち早く認識を改めてもらいたいところです。


 そして、今すでに世界には恐ろしいサイバー世界の人種が存在しています。


 ソニーのオンラインサービス・プレイステーションネットワークから膨大な
 個人情報が流出した問題に関連し、スペイン警察当局は10日、不正アクセスを
 した疑いがあるハッカー3人をスペイン国内で逮捕したと発表しました。


 しかし捜査を進めた結果、不正侵入を図ったと見られるものの、大量の個人
 情報が流出した事件に関わった証拠は得られなかったということで、11日まで
 に釈放されたということです。


 疑いをかけられた3人は「アノニマス」と言われるインターネット上の巨大な
 ハッカー集団の一員ですが、彼らは3人の逮捕を受け、「われわれは大軍団だ。
 楽しみにしていろ」と、スペインへの報復を呼び掛けるメッセージを掲載して
 います。


 アノニマスという集団はサイバー社会の中で連帯感を持っている大集団で、
 ウィキリークス同様、かなりの組織力があると私は思います。彼らは国際
 連合軍のような組織体で、ハッカーとしてのプライドを持っています。


 北朝鮮から攻撃を受けるよりも、ある意味はるかに厄介で、例えるなら宇宙人
 から攻撃を受けるようなものです。こうした攻撃も、日本が国家として防衛
 しなければいけない対象なのです。


 現代における国防とは何か?をあらためて問い、防衛省・自衛隊は自らの役割
 を再定義するタイミングなのではないかと私は強く感じています。


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