大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON365「海水注入中断問題と核燃料の廃棄場所確保~現場で起きている事実を客観的に判断せよ!」

2011年6月3日

海水注入中断問題
吉田所長判断で実際は中断せず継続
福島第一原発
原子炉上空に放射性チリ
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 ▼処分されるべきは吉田所長ではなく、斑目委員長と武藤副社長だ
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福島第一原発への海水注入問題で、東京電力は26日、一時中断した
 と説明してきた海水注入を実際には中断せずに継続していたと説明し
 ました。


 これに対して菅首相は28日、福島第1原子力発電所事故を巡り、
 海水の注入を独断で続けた吉田昌郎所長について「事業者の判断で
 対応することは法律上、認められている。


 結果としても注入を続けたこと自体は決して間違いではなかった」
 と述べ、処分は必要ないとの認識を示しました。


 原子力安全委員会の班目春樹委員長は、「中断がなかったのなら、私は
 いったい何だったのか」などと不信感をあらわにしたとのことですが、
 「あなたが一体何者なのか?それはこちらが聞きたいことだ」と私は
 怒りを覚えました。


 さらには東京電力の武藤副社長が吉田所長の処分を検討していると
 聞き、ますます怒り心頭でしたが、それ以上に「このままでは大変な
 事態になる」と思い、民主党のしかるべき人物に連絡をしました。


 吉田所長を処分するなど、とんでもない話です。吉田所長は現場の
 鬼軍曹よろしく、3月11日の地震発生以後ずっと現地で指揮を
 とりつづけている「現場のリーダー」です。 


 万一、彼を処分するという事態になれば、彼と一緒に現場で死力を
 尽くして働いている仲間たちも「それならば一緒に現場を去る」と
 決断する可能性は高いと私は思います。


 そうなったら、本当に大変な事態を招くことになります。むしろ処分
 すべきは、原子力安全委員会の班目委員長と東京電力の武藤副社長の
 側だと声を大にして言いたいと思います。


 そもそも、海水注入が中断されたかどうかで揉めていること自体が、
 ナンセンスです。吉田所長の立場になって考えれば、「海水の注入を
 中断しろ」と言われてもやめるわけにはいかなかったはずで、それは
 原子力を理解している人にとっては自明のことです。


 あの状況で海水注入を中断してしまったら、再注入できなくなる
 可能性がありました。冷却できずに原子炉の温度が上がり、蒸気が
 発生します。


 結果、圧力が上がってしまい、海水を再注入できない事態になるの
 です。私が同じ立場でも、官邸から何を言われようが、殺されるまで
 注入をやめることはないと判断したと思います。


 実際には、東電の上役が「官邸には一時中断します」と言いながら、
 現場には海水注入の継続を指示していた可能性も高いのではないかと
 見ています。


 「海水注入の中断によってメルトダウンにつながった」と政府を批判
 していた自民党の谷垣総裁にとっては赤っ恥ですが、とっくにメルト
 ダウンは起こっていたのですから、私に言わせれば関係ありません。


 あまりにも政治的な影響が強くなったことに怖気づいて、現場の吉田
 所長を処分するなど、東京電力の武藤副社長には呆れるばかりです。
 日本国民からすれば、処分するどころか吉田所長は慰労すべき人だと
 私は思っています。


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 ▼福島原発の建屋はテントで覆い、同時に核燃料の廃棄場所を確保せよ 
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 東京電力は24日、福島第一原発の1、4号機の原子炉建屋上空で、
 放射性物質を含むチリを検出したと発表しました。


 東日本大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所3号機で、
 炉心を冷やす緊急システムの配管が破損した疑いがあることが、24日
 に公表された東電の解析結果から分かりました。


 この解析が正しければ、津波の到着前に重要機器が地震の揺れで壊れ
 ていた可能性があるとのことです。


 なぜ今頃になって、上空の放射性物質を含むチリについて議論が始まった
 のか少々理解に苦しみます。


 このチリは3月12日建屋の爆発時からずっと放出され続けているもの
 です。


 建屋上空に舞っている蒸気は、格納容器の底に穴が開き、水が溢れ
 出て、それが気化したものです。放射性物質を多分に含んでいる
 ことは明白です。


 だから私は早い段階から、例えて言えば東京ドームぐらい大きいテント
 を作って建屋を空からすっぽり覆い隠すべきだと主張してきたのです。


 実際に3月の段階でメーカーに電話をして、納期がどのくらいになる
 かを確認したところ、3ヶ月くらいだと返事ももらっています。


 この仕組みを成立させるための大前提は、クローズドな冷却装置の
 完成です。


 炉心から出てきた汚い水をもう1度戻して冷却するという、永久冷却
 ループを実現する装置が必要です。外から消防ホースで注入している
 間はテントを張ることができないからです。


 そのような状態を3年~5年キープして様子を見て、燃料が冷却され
 るのを待ち続けるしかありません。


 そして、同時に考え始めなくてはいけないのは燃料の廃棄場所をどう
 するのか?という問題です。おそらく、日本ではどこに持っていって
 も受け入れてくれる可能性は低いと私は思います。


 選択肢は2つです。1つは福島原発内に貯蔵施設を新設して、そこに
 埋蔵するという方法です。


 この事態を逆に利用して、半径5キロ圏内は立ち入り禁止にして、
 核燃料の廃棄場所として活用するのです。福島原発には、7号機・
 8号機の予定地が余っているので、そこを利用すれば良いでしょう。


 もう1つはロシアと平和協定を締結し、どこかのツンドラ地帯を廃棄
 場所として提供してもらうという方法です。おそらく、この2つ以外
 には選択肢は残されていないだろうと私は見ています


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