大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON359「被災地復興策~政府は新しい「東北の強み」を内外に示せ!」

2011年4月22日

被災地復興
住宅建築制限を延長
政府の対応
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 ▼被災地復興の2つのプランとは?
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菅政権は東日本大震災の被災地復興をめぐり、無秩序な乱開発を防ぐ
 ため、現在2カ月以内となっている住宅などの建築制限期間を最長
 8ヶ月に延長する方針を固めました。


 また各地の農地を集約して大規模化を進める一方、壊滅した小さな
 漁港も拠点ごとに集約するための法案を今国会に提出する方針を固め
 ています。


 東北地方を新たな「食糧供給基地」と位置づけ、攻めの復興策を目指す
 考えです。


 涙ぐましいくらいに私が提言したアイデアが採用されています。提言
 した立場として、いくつか補足しておきたいと思います。


 まず基本的なアイデアは、土地の低い場所には公的な施設や緑地を置き、
 人は高台に住むという方針にあります。漁民の人たちにも高台から
 通勤してもらい、漁港を集約するスタイルです。


 このアイデアの実現にあたって、個々人が「自分の土地だから、好き
 に建築していいだろう」ということになってしまうと全体設計が崩れ
 てしまいます。


 それを避けるために政府は、住宅などの建築制限期間を現在の2ヶ月
 から8ヶ月へ延長する方針なのです。


 ここから先、大きく2つの方法が考えられます。1つは政府が土地を
 買いあげて、明確なプランのもと大々的に開発を行うというものです。


 この方法も悪くはないのですが、「土地を買いあげる費用」や「土地を
 新たに開発する費用」など莫大なコストがかかるのが難点です。


 もう1つの方法が、オーストラリアで採用されている「フラットプレ
 イン」というコンセプトです。


 オーストラリアでは、洪水などによって水没した地域は歴史的に把握
 できているので、該当する土地を販売する際には「洪水で水没する
 危険性がある」ことを明文化することが義務付けられています。


 これにより土地の価格は安くなりますが、万一洪水に襲われたとしても
 「その危険性を承知で購入した」のだから特段補償を迫られることは
 ありません。


 日本に当てはめて考えれば、「津波プレイン」といったところでしょう。
 政府は「津波に襲われたら水没する危険性がある土地」として「指定」
 するだけで良いのです。


 現地を見てきた人によると、今回の東北地方の津波被害も驚くほど
 正確に「被害が及ぶ範囲・地域」の予想は当たっていたとのことです。


 であれば、このような地域に「津波プレイン」の考え方を適用して
 用途制限をかけるのも不可能なことではないでしょう。


 それでも危険地域内に「住居」を構えたいという人がいれば、
 「自己責任でやってください」と言えると思います。


 この方法は政府が「土地を全て買いあげる費用」を負担する必要が
 ないのがメリットです。


 今回の震災による被害状況を見ると、地震そのものによる被害よりも
 津波による被害がより大きいのです。


 この点に鑑みても「津波プレイン」的な発想は現実的で、
 かつ資金的にもリーズナブルで良いと私は思っています。


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 ▼復興のためにも、日本政府はコミュニケーションのミスをなくせ 
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 東北地方の復興にあたり、工場や支店などを東北から別の場所へ移す
 などした企業を呼び戻すためには、東北で「新しい産業を興す」必要
 があると考えている人もいると思います。理論的には理解できるので
 すが、私は現実的には難しいと感じます。


 東北地方はこれまでにも「バイオ」「地熱発電」を始め、東北発の
 新しい産業を興すことを何度かチャレンジしてきましたが、
 どれも成功したとは言い難いです。


 東北大学の金属材料研究所などは世界的に見ても最先端の研究をして
 いて、新しい鉄鋼素材の開発などを行っていますが、それでも実際
 には産業として実を結ぶには至っていません。


 なかなか新しい産業が立ち上がらない中で、電子部品の開発など
 昔ながらの産業に依存する形になっていました。それが今回の震災で
 拠点を移してしまわれる可能性に直面しているのが現状です。


 こうした経緯を見ても「新しい産業を興す」ことよりも、放射能汚染
 の問題を解決し海岸沿いに豊かにある海産物をいち早く復興させる
 ことを優先させるべきだと私は思っています。


 また、現在外国人が日本から一時退避をしていて、多くの外国人が
 日本に来ることを恐れている状況にあります。


 この点について、アジアの拠点としての日本(東京)の立場が危うく
 なるのではないかと懸念している人もいるようですが、私はそれほど
 心配していません。


 というのは、今回多くの外国人が日本国外に退避してしまったのは
 「勘違い」によるものであって、現実的に東京がそれほど危険な状況
 になったためではないからです。勘違いの理由が明確になれば、再び
 外国人は東京に戻ってくると思います。


 それよりも問題なのは、外国人に勘違いをさせてしまった日本政府の
 コミュニケーション能力にあります。


 結局、「日本政府は原子炉について事実を公開していないのではないか?」
 「本当は公開している以上の大きな事故なのにそれを隠蔽しているの
 ではないか?」という疑いを抱かれているというのが、根本的な問題です。


 外国人や海外からのこうした疑念に対して、日本政府はこの期に及んで
 福島第1原子力発電所の事故評価をチェルノブイリと同等の「レベル7」
 に引き上げると発表しました。そして「やはり日本政府は隠していたのか」
 との評価になったわけです。


 事故発生当初から私は今回の事故レベルは「レベル6」だと主張して
 きました。


 今でも福島第1原発の事故レベルは「レベル6」が適切だと思います。
 当初は「レベル4」だと発表していたのに、ここに来て「レベル7」
 に引き上げたのは、最悪の意思決定だったと私は思います。


 せっかく復興の道が見えても、政府のコミュニケーションのミスに
 よって世界から誤解を受けてしまっては元も子もありません。


 これからの復興のためにも、政府には改めて国内外から誤解を招かな
 いような正しい情報開示と情報提供の徹底を図ってもらいたいと強く
 願っています。


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