大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON358「風評被害と自粛モード~「説明下手」な政府がもたらした二次災害 」

2011年4月15日

放射線物質拡散予測を公開 気象庁HP
農畜産物被害 農産物出荷規制を見直し
食品輸入規制 日本食品の全面禁輸を一時検討 インド政府
 -------------------------------------------------------------------
 ▼放射線の危険性について、過剰反応しないこと
 -------------------------------------------------------------------


福島第1原子力発電所事故で、気象庁は5日、国際原子力機関(IAEA)
 の要請に基づいて同庁が作成した放射性物質の拡散予測をホームページ上
 に公表しました。


 気象庁の拡散予測は、「1ベクレルの放射性ヨウ素131が標高20-500メートル
 の高度で72時間放出された」という条件に基づき、気象情報などを加味して
 割り出されたものとのことです。


 また緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による
 甲状腺の被ばく線量の試算結果もあわせて公表されています。


 これらから放射性物質の拡散状況を見ると、浪江町や飯舘村は非常に危険なレベルに
 あると言わざるを得ないと思います。


 今回の拡散状況で特徴的なのは、放射性物質が一様に円形に広がっておらず、
 まるでブーメランのような形で広がっている点にあります。


 これは放射線の大きな特徴で、風の影響を強く受けた結果です。放射性物質
 が放出された際、強い風がどちらから吹いていたのか、それが拡散する範囲
 を決定します。


 福島第1原発から直近の地域では、甲状腺の被ばく線量の試算が
 約1000ミリシーベルトのという、非常に危険なレベルです。


 その1つ外側の地域では約500ミリシーベルトの被ばく線量と測定されています。
 このレベルでも、大騒ぎするほどではありませんが、念のために避難勧告を
 出すべきだと思います。


 先日私は福島第1原発から半径30km圏内の住人に対しては、一週間くらい
 帰宅しても平気なので、そのように伝えてあげるべきだと述べましたが、
 放射線量が減る見通しも立たない今の状況を見ていると、少々厳しくなって
 きたと感じます。


 ただし大げさに捉えるのではなく、放射線量の危険性について客観的な
 事実を把握しておくことも大切だと思います。


 先に避難勧告を出すべきだと言った500ミリシーベルトの放射線量とは、
 1年間外で放射線を浴び続けたとして、それを原因として発がんする確率が
 たとえて言えば、「1万人に1人」から「1万人に2人」になるというレベル
 です。


 おそらく毎日2箱~3箱喫煙する場合の方が、よほど肺がんになる確率は
 高いでしょう。


 このような事実を私たちが認識しているという前提で「どうしても
 帰宅したい人は、自分でリスクを知った上で自主的に行動してください」
 という米国型の方法もありかもしれません。


 -------------------------------------------------------------------
 ▼ 日本政府の情報の伝え方が、外国人の誤解を招いている
 -------------------------------------------------------------------


 枝野官房長官は4日、県単位で実施してきた農産物の出荷制限を改める
 方針を明らかにしました。市町村や各県の地域ごとに設定、解除できる
 ようにするとのことです。


 また、政府は8日、水田の土壌で、放射性セシウムの検出値が1キロ・
 グラム当たり5000ベクレルを超えると、コメの作付けを制限する
 方針を明らかにしました。


 県単位から市町村単位への変更に基本的に賛成ですが、農産物の出荷
 制限は「県単位ではなくできればロット単位で」というのが私の以前
 からの提言です。もう一歩踏み込んで欲しいところです。


 その上で「水洗い」する効果をもっときちんと伝えるべきです。「この
 くらいの数値なら、水洗いでここまで落ちる」という基準を示して
 くれれば、国民としても「安心して食べられる」心境になるでしょう。


 この後の展開として予想されるのは、放射線が地中の農作物に影響を
 与え始めるということです。


 まずほうれん草などの葉っぱに付着したものが問題となったわけですが、
 今後は「たまねぎ・じゃがいも・ごぼう」などへ連鎖していきます。


 この流れは自明です。ゆえに仮に「じゃがいもから放射性物質を検出」
 というニュースが流れても、一喜一憂せずに冷静に対処することが
 大切です。


 実際問題としては、地中にある茎が放射線に汚染された場合、葉っぱ類
 とは違い、水洗いしても効果はありません。その時の対処は改めて考える
 必要がありますが、過剰に反応するのは避けたいところです。


 また稲の作付けを制限する方針とのことですが、この適用範囲を福島県
 全体とするなら、これは過剰反応だと私は思います。


 国内が混乱しているだけでなく、海外でも放射性物質の流出について
 誤解され、日本製品に対する警戒が広がっています。


 インド政府は5日、福島第1原発事故に伴う放射性物質の影響を考慮し、
 日本からの食品輸入を3カ月間、全面的に禁止するとのことでしたが、
 8日にはまだ決定を下していないと発表しました。


 一方で欧州連合(EU)加盟27か国は8日、日本からの輸入食品の
 放射性物質検査で、EUよりも厳しい日本の暫定規制値を採用し、
 検査を強化することを決めています。


 これら諸外国の一見厳しく思える対応については、日本政府に責任が
 あると私は感じます。日本政府がもっと明確に指標を示していれば、
 このような事態はさけられたでしょう。


 「この地域までの農作物の出荷を禁止する」「外国に輸出されている
 ものは、こういうルートで出荷しているものだから安全だ」という
 ような情報公開です。


 日本政府からの抗議を受けて、インドは一度決定した食品輸入の全面
 禁止を「検討中」という段階に戻しました。これはインドにしても、
 情報が不足しているために「絶対的な自信」がないのだと思います。
 やはり日本の情報公開に問題があるということです。


 また「情報の伝え方」も誤解や過剰反応を生む原因になっています。
 今回の震災を「東日本」大震災と伝えていますが、このように伝えら
 れれば外国からすると「日本の半分はダメなのか」となってしまい
 ます。


 阪神淡路大震災では敢えて「淡路」を付け加え、激甚災害の大きさを
 強調するという手法を採用しました。


 今回もそれに倣ったのでしょうが、国内政治的に良くても、外交と
 しては失敗です。米国で言えば「東日本=東海岸(EAST COAST)」
 というレベルですから、誤解を招くのも当然です。


 日本政府の「伝え方」に問題があるために、外国人を不必要に不安な
 気持ちにさせています。


 現時点で言えば東京の放射線量は全く問題ないレベルですが、それでも
 外国人はきれいサッパリ東京から居なくなりました。


 お陰で外国人向けのホテルは閑古鳥が鳴き、日本行きの飛行機もガラ
 ガラといった状況です。


 被害範囲をきちんと限定して説明し、危険な地域・安全な地域を明確
 にしないとこの状況はずっと続いてしまうでしょう。


 さらには自粛ムードが手伝って、日本に訪れた外国人からすれば
 「イベントもほとんどが中止になって日本全体が暗くなっている、
 やっぱりひどい状況だ」という印象を持ってしまうのは当然です。


 地震によって大ダメージを受けた今、経済もコケたら目も当てられま
 せん。政府は情報を正しく公開すること、そして誤解を与えないよう
 に伝える方法について、もう1度考えてもらいたいと思います。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点