大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON350「大雪被害に見る行政の怠慢~「コミュニティ」で住民本位の行政を実現せよ」

2011年2月18日

大雪被害
各地で大雪被害深刻化
東北・北陸など
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 ▼ 除雪による事故を防ぐ対策を講じていないのは、行政の怠慢
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 日本各地で大雪被害が深刻化しています。除雪作業が間に合わず列車
 が運休するほか、雪の重みによる家屋の倒壊や除雪作業中の事故など
 が相次ぎ、特に高齢化が進む地域では人手不足が事態を深刻化させて
 いることから、行政も除雪費用に予算を振り分けるなど対応に追われ
 ているとのことです。


 東北地方や北陸地方で記録的な大雪が続き、地域によっては雪を捨てる
 場所もないということが問題になっているということです。


大雪被害の本質的な問題は大きく2つだと私は見ています。


 1つは「高齢化」です。例えば、80歳を超える高齢者の方が屋根の上
 に登って1メートル以上の除雪作業に悪戦苦闘するのですから、危ない
 のは火を見るより明らかです。実際、今年になってすでに100人以上
 の死亡者が出ているそうです。


 また建設業者への除雪継続可能年数調査によると、6年以上除雪継続
 が出来ると回答したのは最も数値の高い青森県でさえ約26%でした。


 長野県は約12%、群馬県に至っては約3%に過ぎません。こうした
 事態も高齢化による影響です。


※「建設業者への除雪継続可能年数調査」
→  
 もう1つの問題は「利権化」です。私のスノーモービル友達の中にも、
 除雪のライセンスを取得して、今は除雪が忙しいので遊びに来られない
 という人がいますが、建設業者にとってはより深刻でしょう。冬の間
 は建設作業がないので、実際のところ除雪作業がないと経営的に成り
 立たない状況になっています。


 では、これらの問題への対処策はないのか?と言えば、全くそんな
 ことはありません。例えば北海道では積雪を防止する「屋根に取り
 付けるルーフヒーター」というものがあります。


 屋根そのものを温めて雪を溶かしてしまうので積雪・除雪が不要に
 なります。


 私に言わせれば、このような解決策は探せばすぐに見つかるにも関わ
 らず、何十年もの間行政は放ったらかしにしてきたのです。


 毎年、高齢者の方が除雪作業で数百人も亡くなっていますが、この
 悲劇を生んでいるのは行政の怠慢にあると私は思っています。行政が
 率先して構造的に投資を行い問題解決に乗り出せば、一気にこのよう
 な問題はなくなるはずです。


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 ▼ 産業基盤としての道州、生活基盤としてのコミュニティ
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 現実的に行政がこうした「地域」の問題を解決するためのキーワードは、
 「道州制」と「コミュニティ」だと私は20年以上も前から提唱しています。
 その考え方は次のようなものです。


 まず、国の役割を外交・国防、金融などに限定します。そして「産業
 基盤」の担い手として全国で11程度の「道州」を定めます。


 道州の単位を考える際には、単に市町村や都道府県の合併したもの
 として捉えるのではなく、産業基盤としての単位として考えることが
 大切です。


 例えば、沖縄と九州は同一の「道州」にするべきではないと私は提案
 していますが、沖縄は東シナ経済圏を睨んだ独自の産業基盤を持てる
 と思うからです。


 さらにこの道州の下に「生活基盤」を担う「コミュニティ」を置き、
 道州の権限の多くを委譲します。


 人口30万人くらいの単位が、生活基盤のまとまりとしては最適だろう
 と私は思っています。そうすると、全国で約400のコミュニティが誕生
 することになります。


 コミュニティのコンセプトは「キャンプ場」のようなものです。
 キャンプ場の利用者が場所代(入場料)を支払うように、コミュニティ
 に属する個人や家庭、企業は場所代として納税します。


 代わりにコミュニティは、例えばキャンプ場が水を提供し掃除をする
 のと同様に、住民の暮らしのために生活基盤を整備し、ゴミの処理や
 治安活動のほか、地域医療、教育、高齢者保護などサービスを提供し
 ます。


 これまで国や県、市、郡、町、村がバラバラになってキャンプ場の
 役割を担ってきたわけですが、それを統合して住民の暮らしに関する
 すべてをコミュニティが担当します。


 国民は揺りかごから墓場まで、あらゆる相談事をコミュニティの窓口
 を通して解決できるようになるのです。


 このとき大切なポイントになるのは、「財源を自主確保」することです。
 すなわち、コミュニティの財源はコミュニティの中で確保するシステム
 を作らなければいけないということです。


 そのために、コミュニティにはキャンプの入場料として、そこで生活
 する者および事業を営む者から、所得税と固定資産税を徴収する権限
 を付与します。


 所得税は全国一律とすべきでしょうが、固定資産税の税率はコミュニティ
 で調整できるようにしても良いと私は思います。コミュニティで徴収
 される税金は「安定した暮らしのための“木戸銭”だから、暮らしの
 ために使われる」べきであり、そういう認識を共有することが大切で
 しょう。


 現在のように国が税金を徴収して景気対策などの名目でバラ撒きを
 行っても、税金を払っている人の暮らしが良くなるわけでもなく、
 一向に大切な問題の解決にはつながっていません。


 あまつさえ、利権化の温床になっているケースすらあります。この
 構造を根本的に見直すべきなのです。


 高齢者の人が除雪作業によって命を落とすという様なことがなくなり、
 安心して生活できる地域社会を実現するためにも、少しでも早く
 道州制・コミュニティを実現してもらいたいと願っています。


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