大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON339「「農家もどき」では国民の胃袋を守れない~世界の最適地で農業を」

2010年11月26日

農業改革
農地法見直しに言及
菅首相
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 ▼ 農業は世界の最適地でやるべき
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菅直人首相は16日の衆院本会議で「若い人でも障壁なく農業に参加
 できるよう農地法など法体系も見直す必要がある」との見解を示しま
 した。


 また、農業従事者の平均年齢が65.8歳と高齢化していることにについて
 「わが国の農業は貿易自由化とは関係なく、このままでは立ちゆかなく
 なる」と強い懸念を示しました。


 私はすでに20年以上前に、拙著「大前研一の新・国富論」の中で
 この問題を指摘し、2005年までに改革する必要性を主張しました。


 国民の平均年齢、農民が抱える様々な問題を考えて、「農業は世界の
 最適地でやるべき」というのが私の一貫した主張です。


 「農民憎し」と考えるのではなく、私たち国民の「胃袋」を中心に
 論理的に考えると答えはそれ以外にないからです。


 今までのように農業利権だけで政治が成り立っているという状況が
 続けば、いずれ「国民の胃袋さえ守れない」という時代が来てしまう
 と私は思っています。


 農業従事者の平均年齢65歳とのことですが、米作農家に限って言えば、
 もっと平均年齢は高くなります。おそらく70歳に近いのではないで
 しょうか。


 農水省はこれまで適当な理由をつけて頑なに「農業の開放」を拒んで
 きました。


 そして、圃場工事で莫大な税金を使って農業整備基盤事業を押し
 進めてきました。


 しかしそれだけの資金を費やしても、農業の生産性はほとんど向上
 していません。おそらく、「やる気」がない人が増えているからだと
 思います。


 「(国内で)自由にやっていい」と言われても、オーストラリアや
 アメリカなど「農業最適地」で自由にやっている人を見てしまったら、
 モチベーションは上がらないでしょう。


 オーストラリアでの農業、大規模かつ効率的な機械化で日本とは比較
 にならないほど高い生産性を期待できます。


 広大な土地を使い少人数で大々的に機械化された農業を営んでいる姿を
 見たら、若い人はそちらでやってみたいと思うのが自然だと思います。


 中途半端に日本国内に固執するのではなく、「農業は世界の最適地で
 やるべき」という考えに基づいて農業を解放するべきです。


 日本の会社や農民が世界の農業最適地へ行き、そこで作ったものを
 国内に持ってくるという流れを作ることです。そして、間違っても
 日本国内に持ち込む際に「邪魔」をしないようにすることが重要です。


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 ▼ 日本には農業利権だけを主張する人が多過ぎる
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 例えばオーストラリアでは、大体「1キロ25円」くらいでコシヒカリ
 を作ることができます。


 しかしそれを「1キロ100円」で日本に輸入しようとすると、物流
 コストで一気に値段が跳ね上がってしまいます。


 というのは、日本の法律によって物流会社の選択にも様々な制約が
 あるからです。同じような障害は他にも沢山ありますが、自由にコスト
 競争力のある物流会社を選べないというのは代表例と言えるでしょう。


 また農業を取り巻く状況を見ると、もう少し大きな問題も見えてきます。


 この20年間で、農業従事者数が約900万人から560万人に激減し、
 耕作放棄地は約15万ヘクタールから40万ヘクタールと拡大する一方
 です。しかも、「土地持ち非農家」の割合が増えてきています。


※「日本の農業を取り巻く状況」(チャートを見る)
 → 


 農業従事者に対する税制が優遇されているため、一層この流れが助長
 されています。


 例えば、農業に従事していると、農地の遺産相続の際に相続税が
 かかりません。


 正確には相続者が30年間に農業に従事すれば相続税が免除される
 ことになっています。


 また農業従事者は青色申告者と同様、一般の事業者と比べて多くの
 ものを経費に算入することができます。


 このような事情もあって、農業利権だけを持っていて実際には農業に
 真剣に携わっていない人が一向に減りません。私に言わせれば、日本
 は「農民もどき」が多過ぎると思います。


 実際のところ、専業農家は全体の2割くらいでしょう。農業利権だけ
 を主張している人が500万人くらい居るはずです。


 今、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を推し進める動きが活発化
 していますが、この辺りの法整備を含めてばっさりと改善していけば
 話は前に進んでいくでしょう。


 そして、本気でTPPにより「際限ない自由化」を実現しようと思うなら、
 「農業は世界の最適地でやるべき」という考え方は大切だと私は考え
 ています。


 現実的に日本の若者が国内で農業に従事する、というのは考えづらい
 と思います。まだバングラデシュの若者が日本に来て日本で農業をやる、
 という方が納得します。


 日本の若者がオーストラリアなど国外の農業最適地で農業に携わり、
 そこから日本に農作物を輸入するという流れをぜひ実現してもらいたいと
 私は願っています。


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