大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON334「日本は中国に「朝貢」か?~「矮小」日本に国民は耐えられるのか?」

2010年10月22日

日中関係 廊下の椅子で日中首脳会合
 中国反日デモ 3都市で数千人規模デモ
 中国共産党 中央委全体会議が開幕
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 ▼ 椅子に座っての会合など、屈辱以外の何物でもない
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 菅直人首相は4日、ブリュッセルで開いているアジア欧州会議
 (ASEM)首脳会合の夕食会の後、中国の温家宝首相と会場の廊下で
 椅子に座る異例の形で会合しました。


その中で両首脳は、戦略的互恵関係を進展させることを確認し「今の
状態は好ましくない」との認識で一致。また今後、北京でハイレベル
協議を開くことでも合意したということです。


一方、中国から日本へのレアアース(希土類)の輸出が滞っている
問題で、通関手続きに新たな条件が追加されていることが13日、
 明らかになりました。


 書類の不備の指摘や全量検査も続いており、輸出業務にさらに支障が
 出ているということです。


 この背景には日本の外務省の思惑も存在していると私は見ています。
 丹羽駐中国大使によってトップボジションを奪われた形になった
 外務省の官僚が、民主党の方針に反発し、意図的にこうした事態を
 招いたのではないかと感じます。


 信じられないことですが、丹羽駐中国大使の更迭があるまでこのような
 サボタージュは続くのではないかと私は思います。


 それにしても、今回の菅首相のとった行動には情けない限りです。
 温家宝首相とまともに会合の場を持てないからと言って、ホテルの
 廊下でバッタリ会って、そのまま椅子で会合をしたなど、日本外交
 始まって以来の「屈辱」だと思います。


 同時に、今の民主党政権には外交の力が明らかに不足していることが
 明白になったと言えるでしょう。


 このような「屈辱外交」の結果、事態が好転するならば良いのですが、
 中国側の態度を見ているとそれも望めません。


 結局、中国が主導権を握って「ミーティングも中国がしたい時にする」
 ということになってしまっています。


 日本政府はこれに対する怒りすら感じず、事態は少し好転した、
 「フジタ」の社員が開放された、などと述べている始末です。


 一方の中国政府は依然として外務省が、愛国的な行動を許容する姿勢
 を見せています。中国の四川省成都など少なくとも3都市で16日、
 数千人規模の反日デモがあり、日系スーパーのガラスが割られるなど
 しています。


 小泉元首相が靖国神社に参拝した際にも同じようなことが起こりました。
 中国の中にもこうしたデモ活動に批判的な人はいますが、今の状況を
 みていると圧倒的に劣勢だと思います。


 10月11日号のTIME誌には「Asia's New Cold War(アジアの新しい冷戦)」
 というタイトルで、釈放された中国人船長がVサインをしている写真が
 大きく掲載されていました。これを見ると中国がこの漁船の船長を
 英雄扱いしている様子が伺えます。


 また香港の新聞でも一面を使って、尖閣諸島の返還を要求する反日
 報道が大きな写真と共に掲載されていました。このような刺激的な
 新聞を目にしてしまうと、他の街にも波及してしまう恐れがあります。


 中国政府は「止める気になれば」このような反日運動をいつでも
 止められます。実際、5年前に同じようなことが起きたときには、
 矛先が中国政府に向いてきた途端、すぐに反日運動は止んでしまいま
 した。つまり、今のところは「適当に」やらせているのでしょう。


 日本政府はこれに対して毅然とした態度で臨むべきだと思いますが、
 しばらくは止まらないと思います。おそらく全治一年くらいの影響が
 出るのではないかと私は見ています。


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 ▼ 岐路に立たされている日本。中国にどのように対するべきか?
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 中国共産党の第17期中央委員会第5回全体会議が15日、北京で開幕
 しました。


 2011~15年の経済政策の運営方針を定める「第12次5カ年計画」草案が
 主要議題となりますが、習近平国家副主席が党中央軍事委員会の副主席
 に就任し、「ポスト胡錦濤」の地位を固めるかどうかが焦点となる見通し
 です。


 今後の習近平国家副主席の日本に対する態度がどのようなものになるのか、
 未だ計り知れないところはあります。


 「中国共産主義青年団」出身の胡錦濤国家主席に対し、習近平氏は
 党高級幹部の子弟グループ「太子党」の出身です。しかし、おそらく
 胡錦濤国家主席と同様、日本に対する態度は厳しいと予想できます。


 おそらく、これは「世代」が交代しないと解決するのは難しいかも
 知れません。胡錦濤国家主席や習近平国家副主席の世代は、若い頃の
 教育の中で、中国の苦しい状況について中国共産党に矛先が向かない
 ように、「日本が悪い」ということを徹底的に叩き込まれています。


 夜中にテレビをつけると、日本軍がいかに悪いことをしたのかという
 映像が流れていた時代に育ったのです。


 こうした教育を受けた世代が対日関係を改善しようという気持ちに
 なるのは非常に難しく、これらが「一方的な国家によるプロパガンダだ」
 と分かる世代にならなければ、対日関係は悪くなる一方だと私は思います。


 経済的な側面で見れば、これまでの日本と中国の関係性は「そこそこ
 良かった」と言えるでしょうが、レアアースの問題が突出してきて
 事態は変わりつつあります。


 日本の生命線になる部分を自分たちが握っていると分かったので、
 中国側はそう簡単には関係性を復旧してこないでしょう。


 対して、今の民主党政権も日本の経済界も、中国に対抗する「カード」
 は殆ど持っていません。


 しかし、それでも日本側にも対抗手段がないわけではありません。
 中国向けに輸出している部品や機械の中には、中国企業にしても日本
 のものを使わざるを得ないものがあります。


 これらについて、中国と同様「全量検査」などを行うことは可能です。
 もちろん、これを実行すれば貿易全面戦争に発展する可能性はあり
 ます。


 それを理解した上で、日本は実力行使をするべきか否か、それを考える
 タイミングに来ていると私は思います。


 今の屈辱的な状況を許容すれば、場合によっては「今後100年」に
 影響を及ぼすかも知れません。少なくとも中国側は、盧溝橋事件以来
 100年間の恨みを晴らしたいという気持ちを持っているように感じます。


 対抗する道を選ぶのか、それとも米国に対するのと同じように中国にも
 「貢ぐ」姿勢に切り替えるのか、日本は岐路に立っています。


 もし中国に屈する形を選ぶとしたら、矮小化した日本で日本国民は
 耐えていけるでしょうか?


 この点、十分に考慮してもらいたいと思います。同時に将来、
 日本にアジテーション型のリーダーが出現したときには、かなり危険な
 ファシスト的な国家が登場する可能性があるということも念頭に置い
 ておくべきだと私は思います。


 これらの状況を踏まえ、日本政府には「今、日本は瀬戸際にあるのだ」
 という強い危機感を持って対応してもらいたいと感じます。


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