大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON333「「対独戦勝記念式典」や「前原外相失言」から見える日本の外交下手~問題の本質を認識し、時には狡賢く、そして慎重に!」

2010年10月15日

 中ロ関係
 対日戦勝の歴史観を共有
 ロシア情勢
 メドベージェフ大統領 モスクワ市長を更迭
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 ▼ 外交下手の日本。前原外相は危険極まりない存在だ
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 中国の胡錦濤国家主席は先月27日、ロシアのメドベージェフ大統領
 と会談しました。


 両首脳は戦略的協力関係の全面深化に関する共同声明に署名し、
 第2次世界大戦終結65周年に関する両国元首の共同声明を発表。
 旧日本軍の中国侵略に対する中露共闘が、現在の両国の戦略的な協力
 関係の基礎を築いたと強調しました。


 一方、前原誠司外相は先月29日、ロシアのメドベージェフ大統領が
 北方領土訪問の意向を表明したことを受け、「大統領が訪問すれば、
 日露関係に重大な支障が生じる」と駐日ロシア大使に伝えたことが
 明らかになりました。


 今回の「対日戦勝記念」という場に日本が参加せず、中国とロシア
 だけで行われてしまったのが私は残念でなりません。


 09年5月にモスクワで開催された「対独戦勝記念式典」には、日本と
 同じ立場にあるドイツのメルケル首相は参加していました。


 日本が参加せず中国とロシアだけで祝杯をあげているのを見れば、
 必然的に反日運動を盛り上げることにつながってしまいます。


 この点を踏まえ、日本としては少々狡賢いと思われても式典には参加
 するべきだったと思います。


 そして過去の歴史を語るとともに、「今は(式典が行われた)旅順に
 たくさんの日本企業が来ることで繁栄に貢献している」ということを
 アピールすれば良いのです。


 こういう主張をすれば、胡錦濤国家主席にしても無下にはできないで
 しょう。このような発想ができないのは、日本の外交的な知恵が足り
 ないからだと私は思います。


 また前原外相の北方領土に関する発言は、完全に「余計な」もので
 「逆効果」にしかならないでしょう。


 実は、今回のメドベージェフ大統領の北方領土訪問は、悪天候のため
 に実現していません。このままそっとしておけば良かったものを、
 前原外相が「大統領が訪問すれば、日露関係に重大な支障が生じる」
 などと発言してしまったのです。


 これに対してメドベージェフ大統領が怒って、「何が何でも北方領土
 を訪問する」という展開になってしまいました。


 ここまで相手を興奮させてはいけません。北方領土はロシアが実効
 支配をしているのだということを認識した上で、慎重な発言をして
 ほしいところです。


 来月APECの会合があり、メドベージェフ大統領は来日する予定です。
 今後ロシアが日本との関係性をどのようにしたいと思っているのか、
 この際の訪問順序で推し量ることができると私は思っています。


 もしメドベージェフ大統領が「日本との関係はどうでもいい」と考え
 てしまったら、日本(横浜)に来る前に北方領土を訪問するでしょう。


 すなわち、「ソウル⇒北方領土⇒横浜」という順序になります。一方、
 日本に弁解の余地を残そうと考えるなら、「ソウル⇒横浜⇒北方領土」
 となります。どちらのスケジュールを組むのか、注目したいと思います。


 いずれにせよ、これまでプーチン首相やメドベージェフ大統領が
 考えていた「2島先行返還」「面積等分」などの北方領土問題の解決策
 は、今回の前原外相の発言で白紙になったと見て良いでしょう。私に
 に言わせれば、「危険極まりない」外務大臣が誕生してしまったと
 思います。


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 ▼ ルシコフ市長の解任は、
   プーチン首相とメドベージェフ大統領の対立を意味するか?
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 ロシアのメドベージェフ大統領は先月28日、モスクワのルシコフ市長を
 解任する大統領令に署名しました。


 大統領は解任理由として「市長への信頼を失った」と指摘しましたが、
 同大統領は共和国や州など連邦構成体の守旧派首長を相次いで辞任に
 追い込み、中央集権の強化の動きを加速させています。


 エリツィン政権では、地方の市長は選挙で選出されるなど「地方分権」
 が推進されていました。


 しかし思うように権力が及ばず、地方分権のルールも統一化すること
 ができなかったため、結果として癒着・汚職が蔓延することになり
 ました。


 このような背景を受けてプーチン政権以降では「中央集権」を推進し
 ています。大統領直轄の7つの連邦管区を設置し、地方の市長は任命制
 へ移行しました。


 今回のルシコフ市長の解任は突然のことでしたが、メドベージェフ大統領
 はテレビ演説で上手に説明していたと思います。


 「実に残念ではあるが、信頼を置けないため、非常手段に訴えざるを
 得ない」という点を前口上で説明し、解任を伝えていました。


 ルシコフ市長と言えば、プーチン首相の「刎頚の友」として有名です。
 ルシコフ市長の妻・エレーナ・バトゥーリナ氏はロシアでも有数の
 資産家で、プーチン首相のスポンサーではないかとも言われています。


 プーチン首相の下、モスクワで狼藉の限りを尽くしたルシコフ市長は、
 市民に最も評判の悪い男でした。今回の解任についても、モスクワ市民
 からは「当然だ」「遅すぎた」という声が出ています。


 プーチン首相は2012年の大統領選挙への出馬の可能性を示唆して
 いますので、今回のルシコフ市長の解任はプーチン首相と
 メドベージェフ大統領の全面的な対立を意味すると考える人も
 いるでしょう。


 しかし私は今回のプーチン首相の「けろっとした」態度を見ていると、
 それはないと見ています。おそらくメドベージェフ大統領は演説の前に、
 プーチン首相に相談し、内諾を得てから発表したのでないかと思います。


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