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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON332「「労働者派遣法」派遣社員5割超が規制強化に「反対」~政治家は頭の中だけで考えず、事実・実態を知るべし」

2010年10月8日

 労働者派遣法
派遣社員5割超が規制強化に「反対」
武富士
自力再建断念し会社更生法を申請
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 ▼ 派遣社員に反対される法律。政治家は「実態」「事実」を知るべし
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政府が10月召集の臨時国会への提出を目指す労働者派遣法改正案に
 ついて、派遣社員の55.3%が「反対」と答えた一方、「賛成」は13.5%
 にとどまりました。


 労働者派遣法改正案に前向きな見解を示している朝日新聞社・NHK・
 福島みずほ社民党党首、そして菅首相に対し、私はこのアンケートの
 結果をよく見てみなさいと声を大にして言いたいところです。


 自民党時代の後期からこのような「社会民主的な考え方」を強く主張
 する人が出てきていましたが、今の民主党について言えば「目に余る」
 という他ありません。


 派遣の禁止について、派遣社員の過半数である55%が「反対」している
 のです。


 一体、「誰のための法律なのか?」と問いたくなります。請負社員になる
 と「反対」は41%に減少しますが、それでも「賛成」の20%を大きく
 上回っています。


 結局、派遣の禁止を声高に叫ぶ人たちは、何一つ実際の現場のことを
 理解していないということが証明されたと言えるでしょう。


 派遣社員が「派遣の禁止」に対して「反対」する理由は明白です。
 それは「派遣」で働くことができなくなるからです。


 派遣を禁止して正社員の雇用が増え、自分たちが正社員として雇用される
 のならば反対をしないでしょうが、現実として日本では正社員雇用は
 増えていません。


 そして、現実には次のような展開になることが予想されます。
 ・派遣として働くことを辞める。
 ・しかし、すぐに正社員雇用はされず、例えば3年間は準社員扱いになる。
 ・準社員の給料は派遣の時を下回る。
 ・3年後、正社員になれるかどうかも定かではない。


 派遣として働いていた時と比べると、準社員になったら月給が10万円
 程度少なくなるということも大いに有り得ます。


 確かに将来、社員として雇用されれば給料は派遣時代よりも増えるで
 しょうが、それは確約されていません。であれば、今「派遣」として
 確実に働いている方が良いわけで、「派遣の禁止などと余計なことをして
 くれるな」というのが正直な気持ちだと私は思います。


 かつて長妻昭前厚生労働相にも言ったことがありますが、こうした現場
 の実態・声が政治家のところに届いておらず、それを把握出来ていない
 ことが大きな問題です。


 政府は新成長戦略として「最低時給1000円」という方針を打ち出して
 いますが、これなども現場の実態を全く理解しておらず、私としては
 閉口してしまいます。


 現在の時給が900円前後の東京ならばギリギリ耐えられるかも知れませんが、
 時給600円~700円などの地方ではサービス産業が崩壊してしまうでしょう。


 ドイツなどでは最低賃金1200円前後でも成り立っているなどと、学者
 から入れ知恵されているようですが、今一度、日本の実態を自分自身で
 確かめてから考えてもらいたいと強く思います。


 一方、米国では「雇用問題」で日本とは異なった様相を見せています。
 2010年10月4日号のNewsweek誌に、「米国の雇用問題」について面白い
 記事がありました。


 失業率が10%近くに達している現状からすると、雇用需要が不足して
 いると思ってしまいますが、実はそうではないとのことです。


 医療などの新しい分野では雇用需要はあるものの、そのスキルを持つ人
 が少ないために結果として「マッチングされていない」というのが現在
 の状況だと言うのです。


 逆に金融関係、ハイテク、製造関係の人員は余っているものの、そこに
 は需要がなく、完全に需給バランスが崩れていると指摘しています。


 またもう1つの理由として、金融危機で住宅・不動産が大きく値下がり
 したため、転職しようにもそれらを売却することができないから「物理
 的に動けない」という人も多いとのこと。


 従来なら、持っている家を売却して、新しい職場の近くに新しい家を
 すぐに購入できたのに、それが今では難しいのです。


 職業機会はあるものの、「職種のズレ」「ロケーションのズレ」によって、
 結局、それらは絵に書いた餅状態になっているのが、現在の米国の雇用
 実態だということです。


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 ▼ 消費者金融という巨大産業が潰れたのは、政府の独りよがりだ
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 消費者金融大手の武富士は先月28日、自力再建を断念し、東京地裁に
 会社更生法の適用を申請しました。借り手が利息制限法の上限金利より
 多く支払った過払い利息の返還請求が相次いだ背景があります。


 武富士だけでなくアイフルも会社再建中で、消費者金融業界は壊滅的な
 状態だと言えるでしょう。


 政府は誰に頼まれたわけでもないのに勝手に法律を変えてしまい、この
 大産業を潰してしまいました。


 まず上限金利制限が定められたことで倒産に追い込まれる企業が現れ、
 次に過払い利息の返還請求によって、さらに倒産する企業が相次ぐ状態に
 なりました。


 今回、さらに改正貸金業法によって「個人の借入総額は年収等の3分の1まで」
 という総量規制が導入されました。


 所得がない人などは、例えば「旦那の年収の証明書」の提示が求められます。
 このような状況では、消費者金融は成り立ちません。


 とは言え、消費者金融産業そのものに対するニーズはありますから、
 結局、普通に借りられない人は、金利50%などの街の高利貸しで借りて
 いるのが実態です。


 法律で利息上限を20%と定めた意味は全くないと言えるでしょう。
 「現実」「実態」を知らない政府が頭の中だけでこねくり回して、
 産業そのものをつぶしてしまったのだと私は思っています。


 武富士の貸出残高と過払い金返済額を見ると、一部が過払い請求の対象
 となる「20%超の金利分の貸出残高」が未だに1000億円以上残っています。


 06年の約1.3兆円というピークは超えたものの、さすがに厳しいです。
 このような状況で生き残るのは、通常不可能です。


※「武富士の貸出残高と過払い金返済額」(チャートを見る)


 結局、独立系の消費者金融は殆どが破産に追い込まれ、今生き残って
 いるのはメガバンクの傘下にある消費者金融だけです。


 メガバンクはまともに融資・貸付をしておらず、お金が有り余っている
 からです。


 こうした事実を見ると、一連の法律改正は「メガバンクの差金」
 だったのかと疑われても致し方ないと私は思います


 日本という国は、税収約37兆円(09年度)に対して、約900兆円の
 借金を抱えています。


 なぜ「国」は税収の20倍以上もの借金を抱えているのに、「国民」には
 借金の上限を収入の3分の1までなどと言えるのか、私には不思議で
 なりません。政治家の頭の中は一体どうなっているのか、理解に苦しみ
 ます。


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