大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON330「尖閣諸島問題~「中国の持病」を気にせず、実効支配のルールを主張せよ」

2010年9月24日

 尖閣諸島問題
 「中国は日本を試している」
 米アーミテージ元国務副長官
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 ▼ 尖閣諸島だけを対象に、日米安全保障条約の発動はあるか?
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米国の知日派として知られるアーミテージ元国務副長官は15日、
 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件を巡る
 中国側の厳しい対応について「中国は日本を試している」との見解を
 示しました。


 一方、中国外務省の姜瑜副報道局長は16日、中国内で散発する
 対日抗議行動について「中国の民衆が理性を持って合法的な方法で
 主張を表現すると信じる」と述べ、過激な行動を戒めました。


 当初中国政府は民衆を炊きつけていた節がありますが、今は少し
 「抑える」方向へ動いているようです。


 おそらく、中国政府に対して不満を持っている中国国民がこれに乗じて
 政府への抗議運動に転化するのを避けたいという意向もあるのだと思い
 ます。


 アーミテージ元国務副長官が言う「中国政府は日本を試そうとして
 いるので、毅然とした態度を示せ」という点は理解できますが、
 「尖閣諸島が日米安全保障条約の対象となっている」という考え方は、
 私は間違っていると思います。


 例えば米国の見解として「尖閣諸島は100%日本の領土だ」という
 ものだとしても、尖閣諸島が中国によって侵攻されたからと言って
 「日米安全保障条約が発動する」ということはないでしょう。


 尖閣諸島を契機として、地域紛争が発生すれば話は別です。例えば、
 沖縄などの地域紛争に発展してしまったら、日米安全保障条約の対象
 となるでしょう。しかし尖閣諸島だけの問題であれば、その可能性は
 極めて低いだろうと私は思います。


 日本にしても「尖閣諸島は歴史的にも国際法上もわが国固有の領土」
 という考え方ですから、対応するのは「海上保安庁」であり「自衛隊」
 ではありません。


 先日、蓮舫行政刷新担当相が「尖閣諸島は領土問題なので、毅然とし
 た日本国としての立場を冷静に発信するべきだ」と述べ波紋を呼びま
 した。すぐに前原外相に指摘を受けて発言を修正する事態になりました。


 前原外相が言うように「尖閣諸島は歴史的にも国際法上もわが国固有
 の領土」であり、ゆえに「領土問題は存在しない」というのが日本の
 見解です。


 この基本的なスタンスを採用するのであれば、そこから逸脱すること
 なく一貫性を持って臨むべきでしょう。


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 ▼ 実効支配のルールを前提に、大胆に解決策を提案せよ
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 では実際のところ中国側は何を要求してきていて、そして日本は
 どのような態度を示すべきなのでしょうか?


 まず中国側の対応としては「日本に対して、怒って抗議をする」と
 いうだけです。


 そこから武力行使に発展してはいません。おそらく、尖閣諸島だけを
 対象として武力行使にまで踏み切る可能性はほとんどないと私は見て
 います。


 日本としては、本気で調査をする気持ちがあるなら中国漁船を本国へ
 返さずに徹底的に調査をすべきでした。


 あるいは、中国漁船が体当たりをしてきている証拠の映像があるなら
 日本政府はそれを世界に開示するべきだと思います。逆に、日本の
 海上保安庁の船の方がぶつかっているという映像があるのなら、中国
 政府も速やかにそれを見せれば良いのです。


 もしかすると裏側で日本政府が中国政府に「証拠の映像」なるものを
 見せたのかもしれません。


 ただ、もしそういう映像があるなら、私は「国民」に開示するべきだ
 と思います。その上で国民が判断するというのが正しい手順ではない
 でしょうか。


 中国では企業が日本への旅行を禁止するなどの過剰反応を示していま
 すが、これはもはや「中国の持病の1つ」で何度も同じことが繰り返
 されています。


 この問題を解決するためには、まず実効支配のルールに則って毅然と
 した態度を示すこと、そしてそれを踏まえて、話し合いをする際には
 大胆なアイデアや考え方を採用するということだと思います。


 実効支配のルールから言えば、北方領土はロシア、竹島は韓国、尖閣
 諸島は日本に帰属することは間違いありません。まずここを明確に
 しておきます。ここで態度を曖昧にしてしまうと、話し合いが成立
 しません。


 そして、その上で「共同管理」を行うという提案をするのも良いで
 しょう。


 あるいは北方領土問題なら「3島を返還してもらう」というのも1つ
 の策だと思います。


 今の日本を見ていると、特に北方領土問題の解決についての主張に
 柔軟性がありません。あまりに頭が固くなりすぎていると私は感じます。


 先日、ロシアと隣国ノルウェーはバレンツ海と北極海での係争海域を
 2等分する形で最終解決し、同地域の開発でも協力する条約に署名し
 ました。


 ソ連時代から40年に及ぶ境界画定論争に終止符を打ち、天然ガスや
 石油など資源探査・採掘、漁場資源開発で協力を図るとのことです。


 これは1つのお手本だと思います。お互いのメリットになるように、
 このような解決策をぜひ日本でも模索してもらいたいと私は願って
 います。


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