大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON329「民主党代表選~トリッキーな財源捻出論ではなく、「民の見えざる手」で富の創出を!」

2010年9月17日

 民主党代表選
 財源捻出で小沢氏案に否定的
 菅首相
 ---------------------------------------------------------------
 ▼ 「国有財産の証券化」は議論する価値すらない
 ---------------------------------------------------------------


 14日、菅直人首相が、民主党代表選で小沢一郎元幹事長を破り、再選
 を果たしました。私が、代表選中にニュースを見て感じていたことは、
 そもそも2人の議論の内容そのものが的を射ていなかったと思います。


 菅首相は、小沢一郎前幹事長が政策財源を捻出するため提案して
 いる国有財産の証券化について「場合によっては流動性が少なくなり、
 国債より高い金利になるのではないか」と否定的な見解を示しました。


 小沢前幹事長は以前から「無利子国債」による財源捻出という、私に
 言わせれば「意味が分からない」政策を提案していました。


 「無利子国債を購入してくれたら、相続税を免除する」という形で
 お金持ちに国債を購入してもらおうという政策とのことでしたが、
 これは何の変化ももたらしません。


 そもそも現在の国債は主に「郵貯」「銀行預金」を通じて買い支えられて
 いますから、国債購入の手段が「間接的」から「直接的」に変わるだけ
 だからです。


 今回提案している「国有財産の証券化」による政策財源を捻出すると
 いう方法は、この「無利子国債」よりもさらに「意味不明な政策」だと
 私は思います。


 そもそも「国債とは国有財産を証券化したもの」です。国に万一の
 事態が発生したときには、国有財産を売却してでも返済に充てるという
 意味を持っています。


 この上さらに「国有財産を証券化して」「国債とは別の形」で販売すると
 なると、一体どちらの優先順位が高いのか?と問いたくなります。


 日本が債務不履行に陥った場合、どちらが優先されるのでしょうか?
 当然、「国債」が優位であるべきでしょう。


 しかしここで矛盾が生じてしまいます。国債によって「理論的」には
 抵当に入っているはずの国有財産を別の形で証券化し、それを国債の
 抵当としては認められないとすれば、その時点で日本国債は暴落して
 しまうでしょう。


 分かりやすく言えば、「金目になるもの」だけを国債ではない形で証券化
 してしまうので、国債の担保には「値打ちのないもの」しか残らないという
 ことです。


 国債とは、国の財産であり将来の税収を裏づけに発行されるものです。
 もし小沢前幹事長が言うように「証券化」を進めたとして、国債の不履行
 という事態になったら、小沢前幹事長はどうするつもりなのでしょうか?


 国債をバックアップしてくれるのは、「値打ちのないもの」だけです。
 敢えて言えば、残された財産は我々日本国民しかありませんが、まさか
 国民を担保に差し出すとでも言うのでしょうか?


 小沢前幹事長に対しては呆れるばかりですが、こういう「意味不明な」な
 議論が無制限にマスコミに流れ、誰もそれを指摘していないことにも
 私には危機感を持っています。


 -----------------------------------------------------------------
 ▼ 600兆円の資産も、正味現在価値がマイナスでは意味が無い
 -----------------------------------------------------------------


 この議論に関して言えば、小沢前幹事長だけでなく、学者の中にも勘違い
 の見解を述べている人がいます。


 私が日本国債のデフォルトについて警鐘を鳴らしているのに対して、
 「900兆円の負債に対して、日本には600兆円の資産があるから大丈夫だ」
 という学者がいます。


 しかし私に言わせれば、彼らが言う600兆円の「資産」に本当にそれだけの
 価値があるのか、本当に証券化できるのか疑問に思います。


 彼らが言う600兆円のうち、財務省が「国有財産」として発表しているのは
 約100兆円で、その内訳は以下のようなものです。


■行政財産
 ・公用財産(24.6兆円):防衛施設など
 ・公共用財産(0.72兆円):皇居外苑、新宿御苑
 ・皇室用財産(0.48兆円):皇居、赤坂御用地
 ・企業用財産(8.8兆円):立木林、工作物


■普通財産
 ・政府出資等(62.2兆円):独立行政法人、国立大学
 ・土地(5.4兆円):在日米軍使用用地、地方自治体への貸付


 ざっと見るだけでも、防衛施設として自衛隊が証券化できるとは考え
 にくいですし、皇室用財産などに手をつけようものなら右翼が黙って
 いないでしょう。


 国有林は現時点でも売ろうとしているのに買い手がいない状態ですから、
 将来の見込みも薄いでしょう。東京大学にしても「ブランドだけ」なら
 売却可能かもしれませんが、試算されている価格はつかないでしょう。


 そして残りの500兆円の資産として挙げられているのは「港湾」や「国道」
 などで、さらに現実的ではありません。日本がいざというときに、国債
 を持っている国民に「あなたには秋田県のどこぞの村の道路3メートル分
 を支給します」と渡すつもりなのでしょうか?


 私は拙著「日本の真実」の中で、「日本は必要のない港湾をたくさん
 作っていて国際競争力に欠ける」「約1250の港湾のほとんどが赤字だ」
 と書いたことがあります。


 すると、国土交通省・港湾局の方から訂正の指摘を受けました。それは
 「ほとんどの港湾が赤字」ではなく、「全ての港湾が赤字」が正しいと
 言うのです。これには私も驚きました。


 600兆円の資産を証券化したいと言っても、キャッシュフローを生まない
 ものを証券化しても意味がありません。


 私に言わせれば、キャッシュフローを生まないものは正味現在価値として
 マイナスです。この点を理解していない人が多すぎる気がします。


 ゆえに、「かんぽの宿」の売却にあたっても「なぜこんなに安く売るのか?」
 という発想になるのです。


 いくら投資していたとしても関係はなく、赤字でキャッシュフローを
 生まないならば正味現在価値はマイナスだと認識するべきです。


 こう考えれば、東京大学にしても収入となる授業料・入学金以上に国が
 補助金を使っていますから、正味現在価値はマイナスです。


 代表選中にニュースを見ていると、小沢前幹事長の攻勢に対して、菅首相
 が守勢に回っているような展開だと報じられていましたが、両者ともに
 「議論」以前の問題です。


 この程度のことを理解できずに「的はずれな議論」で舌戦を繰り広げて
 いるなど、愚の骨頂でしょう。


 そんな小沢前幹事長が「米国人は単細胞だ」という趣旨の発言をしたと
 して、TIME誌で批判されているかと思えば、菅首相の方は「円高以上
 の問題に気づいていない」「抜本的な対策をせずに、バンドエードを貼る
 ような対策しかしていない」とBusinessWeek誌から指摘を受けています。


 私は何度も述べていますが、「円高=悪」ではありません。国に力がある
 と認められているわけですから、それを利用すれば良いのです。


 例えば「世界一安い住宅を輸入する」ということも可能になるのです。
 金利をゼロにしても富は生まれない、規制撤廃して抜本的な対策を打って
 眠っているお金を起こす必要がある、ということを理解して欲しいと思います。


 私は「民の見えざる手」「心理経済学」という言い方で、何度も同じ趣旨
 のことを説明していますが、BusinessWeek誌から手厳しい指摘を受ける方が
 効果的かもしれません。


 今回の代表選でわかったように、今後 「的はずれ的」な議論はもうやめに
 してほしいと思います。民主党は不毛な党内抗争に明け暮れるのではなく、
 国民のための政治の実現に邁進してもらいたいものです。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点