大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON324「無思慮に騒がず本質を見抜くこと~大前研一版「高速道路無料化」と「年金制度改革」のロジック」

2010年8月13日

 高速道路無料化
 高速無料化を最大4年間で実施
 基礎年金番号
 有効番号数が人口を123万件上回り
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 ▼ 高速道路無料化の“内容”を理解出来ない政治家
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前原国土交通相は先月30日、公約で掲げた高速道路の原則無料化に
ついて、2010年度から最大4年間で実施する方針を明らかにしました。


 昨年の衆院選マニフェストでは2年間の段階的実施を経て2012年度
 から完全実施する工程表を示していましたが、事実上、修正した形です。


 なぜ前原国土交通相が高速道路無料化について、不安定な姿勢を見せて
 いるのか私には理解できません。


 私は直接、高速道路無料化のロジックについて前原国土交通相に
 説明しましたし、エクセルで作成した計算式なども渡してあります。


 事態がこれほどこじれてしまった理由は、前原国土交通相が「まともに」
 高速道路を無料化しようとしているからです。


 しかしそれでは、道路公団をどのように処理するのか、あるいは同団体
 が抱える約30兆円の累積債務をどうするのか、という点に答えられま
 せん。また高速道路を無料化した後、修理などの負担は誰が負うのかも
 不明です。


 私はこの点についても説明しました。すなわち、高速道路は「国道0号
 線」として扱い、現在の国道予算(税金)の中に組み入れます。


 ただし、これだけでは累積債務を解消することはできないので、10年間
 プレート課税を導入するという方針も示しました。


 プレート課税とは、保有車両のナンバープレートに固定料金を課金する
 というものです。


 貨物車・乗用車・特殊車両などの種類別、自家用・営業用の用途別の
 マトリックスで年間の課金金額を決定し、例えば、営業用貨物車は
 20万円/年、自家用乗用車は3万円/年という金額を設定します。


 これを10年間継続すれば道路公団の累積債務を返済することができま
 すから、その後は国道予算の中でやりくりできるはずです。


 未だに「無料か否か」という部分だけに焦点を当ててしまい、出口の
 見えない議論を展開しているのは、あまりにお粗末に過ぎます。


 私は高速道路無料化のロジックについて、「こういう条件になるなら、
 次はこういう手を打つべき」といった具体的に落とし込んだ資料も作成
 して、前原国土交通相を始め、数人の政治家に説明しました。


 正直、この程度の内容を全部理解できないというのは、信じられない
 気分です。


 今になって「4年後には無料にするが、ただし阪神高速と首都高速は
 無料にしない」などと発言しています。


 これも本質からズレた議論になっています。混雑し過ぎるから無料化
 対象外にするのではなく、それも含めて無料化するべきなのです。


 その上で、例えば外から首都高速に入ってくる場合には「別途課金」を
 設けるなどの手を考えれば良いのです。実際、シンガポールや英国では
 こうした政策が実施されています。


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 ▼ 年金制度は個人退職勘定で「2階建て」に
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 日本年金機構が27日に公表した調査結果によると、有効な公的年金の
 基礎年金番号の数が20歳以上の推計人口を123万件も上回っている
 ことが明らかになりました。


 原因として、氏名が変わったのに気付かずに重複して番号を交付した
 ことや死亡記録が反映されず年金番号だけが残っていることが考えられ
 るということです。


 おそらく私の見立てでは今回発表された数字でさえ、大きく間違って
 いると思います。


 かつて長妻昭議員が「失われた年金」について調査をしていた頃に
 聞いた話では、基礎年金番号の数は「1億何千万どころか、2億以上に
 なる見込み」だということでした。私もこちらの数字の方が実態に近い
 のではないかと感じます。


 なぜ今回の発表がこんな小さな数字に綺麗にまとまっているのか、少々
 不思議です。私は基本的に日本年金機構が発表している数字を全く信じ
 ていません。


 そして何より今議論するべきことは、基礎年金番号の「数字」ではない
 でしょう。基礎年金番号が重複しているかどうかよりも、年金制度の
 運用を抜本的に見直す必要があります。


 現時点でここまで混乱してしまっているので、基本的に現在の年金制度
 については、「判明しているものは支払うけれども、数年後からは支払わ
 ない」という以外に道はないと思います。この点、もう謝罪する他あり
 ません。


 では今後どうするのか?と言うと、1974年から米国で開始した個人が
 自分自身で管理する年金制度にならざるを得ないでしょう。


 国家による福祉を放棄し、401k(確定拠出年金)に類似する個人退職
 勘定という自己責任の年金制度に税制上の優遇措置を与え、運用は自己
 責任で行うというスタイルです。


 これは年金を「2階建て」とする考え方です。1階部分は生活保障とし
 て税金でカバーし、2階部分は401kと同じく個々人が自分の計画に
 沿って拠出し、運用します。


 年金一元化など民主党は野党の頃、抜本的な年金制度改革を主張して
 いました。なぜ、今の民主党にはこのような根本的な改革をする発想が
 できないのかと残念に思います。


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