大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON322「米国の早期景気回復は幻!?~新金融規制の行方に注目せよ」

2010年7月29日

  米景気への懸念表明
  FRBバーナンキ議長
  米金融規制改革法
  米国特有の規制になる可能性


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 ▼ 米国の早期景気回復は幻だった
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 FRBのバーナンキ議長は米国上院の公聴会で証言し、「米国経済の見通し
 は非常に不確実な状況になっている」と述べ、強い懸念を表明しました。
 
 住宅市場の不振と雇用情勢の改善の遅れなどが主な理由ということで、
 追加の金融緩和策を検討する可能性も示唆しました。


 正直に言って今回のバーナンキ議長の発表は、とても見ていられないもの
 でした。結論は「2番底」に陥ったということです。


 ですが、それでは「米国の景気は明るい兆しが見えてきた」「景気は
 上向いて来ている」といった、つい最近までの発言は一体何だったのか?
 と思ってしまいます。なぜ見通しが悪くなったのか?全くの突然で何ら
 脈絡はありません。


 住宅市場も商業用ビル市場も思わしくない状況で、特に雇用回復の遅れが
 目立っているようです。ただ私に言わせれば、雇用は現段階ではそれほど
 気にする必要はないと思います。


 雇用というのは「遅行指数」だからです。無理に雇用を回復させようと
 オバマミックスでは極めて社会主義的な政策を推し進めましたが、状況は
 一層悪化しただけでした。


 こうした状況を受けて、米国民の63%は「国が良い方向には向かっていない」
 と思っていて、国の将来性やオバマ大統領の方向性に対して疑問を感じて
 いるとのことです。


 今、米国が最も恐れていることは日本型の長期低迷に陥ることです。米国民
 の積極的な気質からして、日本ほど消費や投資を極端に控えることはないと
 思います。


 ですので、私は日本ほどの長期低迷にはならないだろうと見ています。
 リーマン・ショックからの想像以上に早い回復を思わせた米国ですが、
 現実はそれほど甘くはなく、ショートカットして景気回復を図ることは
 できなかった、その実態が明らかになってきたということでしょう。


 そして今の米国経済にとって、もう1つの懸念材料は「中国依存」の体質で
 す。約9000億円の輸出を誇る大豆を始め、半導体など様々な分野で中国が
 米国の経済を牽引しています。


 この中国の存在が、リーマン・ショック以降の米国にとって非常に大きな
 役割を果たしたことは間違いありません。


 中国バブルがはじけ中国経済に陰りが見え始めたとき、米国は大きな影響を
 受け、雇用はさらに悪化するでしょう。今米国は何かと中国の頭を叩いて
 いますが、忘れてはならないのは「米国にとって一番良いお客さん」は中国
 だということです。


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 ▼ ボルガー・ルール+消費者保護・借り手保護という考え方
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FRBタルーロ理事は米国議会で21日に成立した金融規制改革法について、
「多くの国が採用することはないだろう」と語り、この法に盛り込んだ
 ボルガー・ルールが米国特有の規制になることを示唆しました。


ここには2つの問題点があると私は思います。まず1つには、米国のグロー
バルな投資銀行が規制を逃れるために欧州に本社を移してしまう、あるいは
 欧州に別会社を作ってしまうという可能性です。


 国外でリスクテイキングできるとなれば、実質的にボルガー・ルールは
 「ザル法」になってしまうでしょう。


 もう1つには、米国の金融機関が規制で身動きがとれないとなれば、
 欧州勢が攻勢に出る可能性があります。


 米国に規制ができることで、逆に欧州に対して規制が効かなくなるという
 事態に陥ります。そうなれば米国側も黙ってはいないでしょうから、お互い
 に非難し合う形になると思います。


 また今回のルールを見ていて、特徴的だと感じたのは「個人レベル」のこと
 についても、消費者保護の方向で相当に細かい事項が今後定められていき
 ます。


 例えば、クレジットカードの発行や使用などの細かい点に言及しつつ、銀行
 側に問題があるのならすぐに報告するよう奨励し、その受け皿となる省庁を
 新設しています。


 また、住宅購入にあたり、住宅ローンの貸し手と借り手との情報格差でロー
 ンの借り手が不利にならないように、貸し手への情報開示を徹底させると
 ともに、契約内容の簡素化を求め、不適切な取引をした場合の貸し手への
 ペナルティーも今後具体的に検討されます。


 日本に伝えられているボルガー・ルールにはなかった「消費者保護」の観点
 は注目に値すると私は思います。


 タルーロ理事は「他国が採用することはないだろう」という見解を示して
 いますが、採用するかどうかは別として、少なくとも「研究」する価値は
 大いにあると思います。


 かつて1929年の世界恐慌の後、米国ではグラス・スティーガル法が定めら
 れ、銀行と証券の分離が規定されました。日本でもこれに倣い、1948年に
 証券取引法65条が定められました。


 しかし規制は段階的に緩和されてしまい、現在では無効化されています。
 そして今回のような金融危機を再び招く事態になってしまいました。


 リーマン・ショックの反省を活かすためには、「ボルガー・ルール+消費者
 保護・借り手保護」という考え方を世界の共通認識として持ち合わせるべき
 だと私は思っています。


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