大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON319「納税ばかりではない~日本人が知らない「国民データベース」のメリット」

2010年7月9日

 共通番号制度
 中間報告で3案を公表 閣僚検討会
 税制改革
 消費税、法人税めぐり議論


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 ▼ 住基ネット活用ではなく、ゼロベースで構築するべき
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税金と社会保障の個人情報を一つにまとめる共通番号制度について、
 菅内閣の閣僚検討会は29日、中間報告を正式に公表しました。


 それによると、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を活用して
 新しい番号を割り振る案が最も有力ですが、報告に対する意見を募った
 上で年内にも制度の詳細を決める方針とのことです。


 率直に言って私はこの案に反対です。まずシステム面で言えば、住基
 ネットというシステムが、融通が利かないコスト高のシステムであり、
 これを活用すべきとは思いません。


 また使用する番号や利用範囲などについて言えば、「税務」「社会保障」
 だけに留めるのではなく、もっと広範囲で考えるべきだと思います。


 各国の番号制度について見てみると、税務、社会保障に加えて、住民
 登録、選挙、教育、兵役など、幅広く「社会歴」全体に利用範囲を拡大
 することも可能だと分かります。


 


 さらに私としては、既往症やアレルギー情報等の医療情報も加えていけば、
 利便性は高くなると感じています。


※「各国の番号制度」のチャートを見る
 ⇒ 


 スウェーデンと韓国はほぼすべての項目を含めたオールインワンの制度
 になっています。イタリアは社会保障と教育が含まれていませんが、
 それでも広範囲に適用されていると言えるでしょう。


 日本で提案されている「税務」と「社会保障」への適用と聞くと、
 どうしても米国を思い起こしてしまいます。


 米国の場合には、日本の提案には含まれていない選挙に利用される
 ソーシャルセキュリティナンバーというものがありますが、その違い
 くらいのもので、おそらく日本は米国の猿真似をしただけではないか
 と私は思います。


 米国の真似などせず、ゼロベースで考えるべきだと私は強く思います。
 具体的には、まず医療まで含めて利用できる「公共サービスは全てこれ
 1枚で」事足りる制度にする、という大前提を決めることが大切です。


 私がかつて提案したのはまさにこの発想に基づいた「国民データベース」
 の構築です。


 住基ネットのような重たいシステムではなく、携帯でも利用できるくら
 い軽く、かつ選挙時には海外から投票ができるようなシステムを構築し
 ます。


 そして番号(ID)については、不規則な英数字の羅列ではなく、「声」
 や「指紋」などのバイオメトリクスの技術を活用します。


 住基ネットは捨てて新たにシステムを構築すべきです。残念ながら今回
 の3案のいずれにもこうした案は含まれていません。


 このまま住基ネットを活用して税金と社会保障だけを対象にしてしまうと、
 他の役所は自分自身で別のシステムを構築し、いずれ混乱は避けられない
 と思います。


 ゼロベースで作り直すほうが、効果・利便性も高いですし、実はコスト
 も安くなるのだと気づいて欲しいところです。


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 ▼ 今の民主党の政策は、選挙対策のためのその場しのぎに過ぎない
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 菅総理は先月30日、10%に引き上げるとしている消税率について、
 「年収300万、350万円以下の人には税金分だけ全額還付するやり方も
 ある」と述べ、必要な食料品などの税率を低いままに押し留めるなど
 の措置を検討する可能性を示唆しました。


 この議論を聞いて、「菅首相は大丈夫か?」と心配になりました。
 「年収200万とか300万円」と言ったかと思うと、別の場所では
 「300万円とか350万円以下」が税還付の対象になると語ったそうです。


 この発言の意図は、「(演説している)目の前にいる人たちに安心感を
 与える」というものでしょう。政策提案ではなく、選挙対策の演説の
 ために「口からでまかせ」を言っているに過ぎません。


 私からすれば、もっと真面目に取り組めと一喝したくなるほどお粗末な
 発言です。


 菅首相の言うような消費税に対して還付する方式は、現実的に機能しな
 いでしょう。私なら「年収250万円」の人とすぐに友人になって、私の
 買い物はすべて「年収250万円の友人に買ってもらう」ということをす
 るでしょう。


 こんなことが横行すると、年収は250万円だけど買い物は1000万円以上、
 などという事態も起こり得ます。


 そしてこれを管理するのはほぼ不可能です。コンピュータで対応するわ
 けにもいかないでしょうし、いちいち自分の年収証明書なるものを持ち
 歩くというのも現実的ではありません。


 こんな事態になってしまうなら、民主党お得意の「ばら撒き」施策で、
 「年収300万円以下の人には一律100万円を差し上げます」という方が
 よほど分かりやすいでしょう。100万円受け取る代わりに、1000万分の
 買い物をしてくださいと言えばいいだけです。


 菅首相が全く出口の見えない無意味な議論を展開しているかと思えば、
 枝野幹事長も不必要な発言をして混乱を招いています。


 枝野幹事長は、法人税率の引き下げに関し、租税特別措置の見直しを
 同時並行で進める考えを表明し、法人税収については「むしろ増える」
 と語り、大企業重視・企業優遇との見方を否定したとのことです。


 これなども「口からでまかせ」だと私は思います。体系的な考えを持って
 いる税制提案ではないために、誰かから突っ込まれると、その場しのぎ
 で言い訳めいた発言をしているだけだと感じます。全く深く考えた結果
 ではないでしょう。


 野党の頃、民主党はもっと根性のある政策を打ち出していたのに、今は
 全く落ちぶれてしまいました。菅直人首相にしても枝野幹事長にしても、
 もう少しまともな政策を考えなおしてもらいたいと思います。


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