大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON315 庶民派「菅新首相」誕生~最優先課題は日本経済の立て直しだ!

2010年6月11日

菅新首相
 菅直人氏を第94代首相に指名
 4日・衆参両院本会議
 -------------------------------------------------------------
 ▼ 菅直人新首相の船出は上々
 -------------------------------------------------------------


 民主党は4日に開かれた両院議員総会で菅直人氏を新しい代表に選出し、
 その日の午後、衆参両院本会議で行われた総理大臣指名選挙で菅氏が
 94代総理大臣に指名されました。迷走を極めた鳩山内閣が9ヶ月足らず
 で退陣し、民主党の政権担当能力への信頼が大きく揺らぐ中、国勢の
 舵取りを担うことになります。


 私は菅直人総理大臣の選出としては、まずまず良かったと感じています。
 というのは、鳩山政権から引き継ぐダメージが小さく抑えられている
 からです。


 もし残っていれば大きな波乱を巻き起こす可能性があった小沢幹事長も
 退任したこと、そして鳩山政権が9ヶ月にも満たないという短命政権で
 あったことは、菅氏にとっては追い風になると思います。


 また鳩山元首相が残した「ピュアな民主党に戻って欲しい」という明確
 なメッセージの受け手として、民主党の創業者の一人である菅氏は適任
 だと言えるでしょう。


 菅氏の特徴を挙げると、非常に「庶民的」という点です。私も何度か
 選挙の応援演説に行ったことがありますが、菅氏を応援する有権者を
 見ていてもその特徴はよく現れていました。


 菅氏は山口県の出身で東京工業大学では私の後輩になります。山口県から
 9人目、東工大出身者では初の総理大臣ということです。東工大という
 大学はエンジニアを養成する大学であり、本来、総理大臣を輩出する
 ような大学ではありません。


 菅氏が在籍していた当時、大学では学園紛争の真っ只中でした。私は
 ちょうどMIT(マサチューセッツ工科大学)に留学して博士号を取得
 したタイミングでした。


 東工大に戻って教鞭をとるという選択肢も考えていましたが、断念しま
 した。「大学は学生運動によって完全に封鎖されてしまっているので、
 もう1年戻ってくるのは待ってくれないか」と東工大の研究室の助教授
 から相談を受けたことを覚えています。


 菅氏はその時の学生運動に積極的に参加していたとのことですが、その
 ような経験によって東工大というエンジニアを養成する大学出身であり
 ながら代議士を志したのではないかと私は思います。


 共同通信によると「新首相に期待する」は57%、「民主党の支持率」は
 36%になっています。


 民主党の支持率は一時的に20%を割り込んで自民党を下回っていまし
 たが完全に抜き返しました。


 菅氏はこれから選挙に向けて調子を上げていき、余程のヘマをしない
 限り選挙までつつがなく乗り切っていくと私は見ています。


 -------------------------------------------------------------
 ▼ 菅直人新首相の課題、そして期待すること
 -------------------------------------------------------------


「菅直人新首相には期待できるのか?」と多くの国民が考えていると
 思います。まず菅氏に期待できる点は、学生運動の頃から変わらない
「庶民の味方」「下から目線」という立場でモノを考えられることで
しょう。


 菅氏は厚生大臣だった頃、薬害エイズ問題に取り組み、結果として
 経営悪化した株式会社ミドリ十字を救済合併による消滅に追い込んだ
 ことがあります。


 この時の対応はまさに「庶民の味方」「下から目線」で、国民から
 高評価を受けていました。


 一方、菅氏の課題としては「経済に弱い」ことが挙げられるでしょう。
 実は、菅氏は東京のバブル崩壊のトリガーを引いた人物の一人だと言え
 ます。


「このままでは庶民が家を持てなくなる」と主張し、銀行に対して窓口
規制や総量規制をせざるを得ないように追い込んだ主唱者の一人が、
当時の菅氏でした。


その後10年以上も日本経済は低迷し続けました。「庶民の味方」という
考え方に根ざした菅氏には悪気はなかったと思いますが、やはり経済に
対する「弱さ」があったと指摘されても仕方ないでしょう。


 経済に限らず菅氏について少々不安に感じているのが、「庶民の味方」、
「下から目線」という考え方が「大衆迎合」につながり、それゆえに
「大局的なモノの見方」ができなくなる可能性があるという点です。


 菅氏が銀行の窓口規制や総量規制を推し進めた当時、確かに日本経済は
 極端なバブル状態でした。


 それにしても、銀行の窓口規制や総量規制を大々的に行ってしまったら、
 その後どのような事態を招いてしまうのか?ということを大局的に考え
 て欲しかったと思います。


 世界の構図が今どうなっているのか?経済を良くするためには経済の
 膨らし粉をふくらませる必要があり、どうしたらそれが実現できるのか?


 こうした全体像を把握し大局観を持つスキルが今の菅氏には欠けている
 と私は思います。


 また今抱えている問題への対応を見ていて心配しているのは、若干「体
 制迎合」の兆しが見えることです。


 例えば、普天間の問題では日米同盟が最重要課題だと最初から決めつけ
 ているようですが、これを機に日米同盟の見直しという選択肢もある
 はずです。


 また国民新党による郵政改革法案を受け入れる姿勢も盲目的に過ぎると
 感じます。


 もし菅氏が「体制迎合」してしまったら、自民党と何ら変わりません。
 菅氏が首相になる意味も民主党が政権を担う意味もなくなってしまいます。


 これから首相として「体制迎合」してしまうのか、庶民の味方になると
 いう意味で「大衆迎合」を貫き通せるのか、注目したいところです。


 もう少し経済の勉強をして、元々持っている「庶民の味方」、「下から
 目線」というスタンスと上手くバランスを取って政策を進めてくれれば、
 菅氏は首相として良い仕事をしてくれると思います。


 もちろん個別案件の処理については閣僚の力量にもよりますが、
 枝野氏・前原氏・岡田氏・長妻氏などは、昔から「反小沢」という
 立場の同志であり、上手く連携できるでしょう。


 菅新首相が何よりもやるべきは、日本経済の立て直しです。毎年、私は
「日本国勢図会」という本を送っていただいて目を通していますが、
「2010/11年版」にはさすがにがっくりきてしまいました。


 掲載されている指標は「右肩下がり」ばかりです。ざっと見たところ
「右肩上がり」だったのは「国債残高とGDPに対する比率」だけと
 いう皮肉な状況です。菅新首相にはぜひこの状況を打破していただき
たいと期待します。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点