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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON310 国が国民の資産を没収!?~国がたくらむ日本の財政破たん回避策

2010年5月7日

財政問題
歳出入の差額
58.4兆円(13年度推計)
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 ▼ 日本人の集団心理が、逆に作用するときがいずれ来る
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 財務省は2011~13年度の歳出入の試算をまとめました。高めの経済成長
 と歳出削減努力を織り込んだケースでも歳出入の差額が13年度には
 58.4兆円に達し、民主党のマニフェストが財政を圧迫する構図が改めて
 鮮明になりました。


 今回財務省は3つのシナリオを発表しましたが、いずれの場合にも将来
 日本はハイリスクカントリーになる可能性が高いことを示唆しています。


 財務省が率先してこのような動きを見せることは、脳天気な民主党への
 牽制という意味でも非常に良いことだと私は思います。


 民主党は、何かといえば「マニフェストですから」と言いながら、相変
 わらず無駄遣いばかりを続けています。


 事業仕分けによって無駄遣いの削減をアピールしていますが、先週、指摘
 したように結局のところ「仕分け後のフォロースルー」が甘く、大きな削減は
 実施されておらず、「政治ショー」と化しています。
 これでは全く意味がありません。


 日本の過去10年の歳入と歳出の推移を見ると、差額が全く縮まって
 いないことが分かります。それどころか近年では歳入は漸減し、
 約40兆円の歳入に対して、差額は1.5倍近い58兆円になろうとしています。
 完全に破綻状態だと言えるでしょう。



 このような状況にあっても、現在のところは世界の国から見ると日本の
 国債は金利が低く保たれていて、デフォルトリスクが高い水準には
 なっていません。


 国債購入者が多ければ金利は低く、少なければ金利は高くなり、価格は
 下落します。日本には国債以外にこれと言った投資対象はなく、邦銀・
 生保・郵貯などが未だに国債を大量に購入しています。ゆえに、歳出入
 の差額がこれほど悪化していても、日本国債は低金利を維持できている
 のです。


 しかし、どこかのタイミングで日本国民が「貯金をしても、結局裏では
 国債を買っている」ということに嫌気がさして、郵貯や銀行預金をやめ
 ることがあれば、その時には国債の金利は上昇し、国債価格は下落します。


 現在の日本人の心理からすると「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と
 いう状況だと私は思います。しかし、将来「誰も渡らない」という状況
 になったら、日本人の強い集団心理が作用して、一気に国債以外のモノ
 へ流れる可能性も高いと私は見ています。


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 ▼ 日本のキャタストロフィーに対する手段は、どれも一長一短
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 事態の変化に備え、自分の金融資産を守るために国民が取りうる手段は
 次の3つです。


 1.国際分散投資
 2.不動産投資など(金融商品以外のモノ)
 3.タンス預金


 かつて平成維新の会で、私はタンス預金を推奨したことがあります。
 どうせ国に預けても無駄遣いされるのであれば、タンス預金の方が
 よほど安全だし、その方が国にとっても締りが出るからです。


 しかし、この策も万能ではありません。今後、国がどう対応してくるか
 を考えると、1つの可能性として「ハイパーインフレ」が考えられます。


 国が抱える800兆円の借金を帳消しにするくらいのインフレです。そう
 なってしまったら、タンス預金をしていても資産を守ることはできません。


 その場合には、国際分散投資をして「海外に資産を移す」あるいは
 「外貨預金をする」ことでリスクヘッジができるのでは?と考える人も
 多いと思います。が、実際には100%安全とは言い切れません。程度に
 もよりますが、「預金封鎖」をされてしまったら、これらの資産であって
 も没収されるからです。


 実際、アルゼンチンやブラジルの例では、シティバンクのブエノスアイ
 レス支店にドル預金をしていた資産であっても封鎖されたことがありま
 す。外銀まで預金封鎖の対象になることがあるのです。


 資産を海外に移す、あるいは外貨で資産を持つという手段は、確かに
 為替リスクを回避するには有効です。しかし、預金封鎖には耐えられま
 せん。


 日本でオペレートしている外銀に対して、どこまで日本政府が手をつけ
 るのかは予測不能ですから、この手段にも穴はあると言わざるを得ない
 でしょう。


 タンス預金は預金封鎖には有効ですがハイパーインフレに弱く、一方、
 国際分散投資はその逆の特徴を持っています。そうなると、不動産や
 金などのモノに換えておくという手段にも注目するべきでしょうが、
 もちろん完璧にリスクをヘッジできるわけではありません。


 いずれの方法にしても完璧な対応策ではなく、日本の将来のキャタスト
 ロフィーに対して、すべての可能性に一長一短があります。


 逆に言うと、そう国民に思わせているから、日本国債が未だに買われ
 続けているのだと言えるでしょうが、昨今のギリシャの財政状況の悪化
 を見ても、日本にしてもどこまで耐えられるのか、私は大いに懸念して
 います。


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