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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON309 「政治ショー」はやめるべき~自民党公約「新卒完全雇用」と民主党「事業仕分け」の本質と問題点

2010年4月30日

 自民党
夏の参院選で「新卒完全雇用」を公約
事業仕分け
事業仕分け第2弾を開始
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 ▼ 完全雇用という概念自体、間違いの元だ
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 自民党は20日、夏の参院選公約で「新卒者の完全雇用」を目標に掲げる
 方針を固めました。企業に1人あたり年間100万円の助成金を支給する
「トライアル雇用制度」を創設、企業に積極的な採用を促すとのことです。


 こんな公約を掲げる自民党の神経を疑いたくなります。それほど、この
 公約は最悪レベルのポリシーだと私は思います。


 例えば厚生労働省の報告では、現在、大学新卒者で就職を希望する人は
 約40万人おり、うち実際に就職する人は32万人程度と言われています。


 なぜ全ての就職を希望する大学新卒者が就職できないのかと言うと、
 端的に言えば「就職できるほどの能力がない」からです。


 実際、どの会社を受けても落とされる人はいるものです。誤解を恐れず
 に極端な言い方をすると、特徴が薄くて、仕事をすることに対する気力
 や迫力、あるいは願望が全く感じられないような若者です。


 そういう人たちの雇用に対して助成金として100万円払うというのなら、
 もっと直接的に「生活保護」として支払う方が良いとさえ私は思います。
 それでもなければ、自衛隊で地獄の特訓でも受けてもらって、その人たち
 自身の変化を促すべきです。


 そもそも「完全雇用」という考え方そのものが「悪」だと私は思って
 います。世の中にものすごく能力の高い人ばかりが溢れかえっている
 なら分かりますが、そうでない限りは現実的に「完全雇用」は有り得
 ません。企業は慈善活動ではないのですから、企業側に求める人材像
 があるのは当然のことです。


 完全雇用を政治の公約にするなど、自由主義国家の政策とは言えません。
 信じられないくらい「社会主義的」だと思います。かつ、過去の歴史を
 振り返って見てもこうした政策が上手く機能した例を私は知りません。


 過去の歴史においては、あるブームが来たタイミングで一時的に人手が
 足りない状況になり、完全雇用が実現されたということもあったでしょう
 が、それを政治的な目的にすることは間違いです。


 同じ100万円というお金を使うなら、むしろ「どこに出しても恥ずかし
 くない人材を育成する教育制度の立て直し」のために使うべきだと思い
 ます。


 採用が決まらない人の雇用に対して100万円の助成金を払うというのは、
 例えるならば、文科省が作り出した不良品を買ってくれたら100万円の
 インセンティブを支払うというのと同義で、全く意味がない愚策だと
 言わざるを得ません。


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 ▼ 政治ショーとしての事業仕分けはやめるべき
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 政府の行政刷新会議は23日、「事業仕分け」第2弾を開始しました。
 28日までの前半で47の独立行政法人の151事業を対象に、事業の効率性
 や官僚OB天下りの実態を洗い出し、予算の無駄削減を図るとのことです。


 蓮舫氏と枝野幸男行政刷新担当相は、前回の事業仕分けでマスコミでも
 話題になり「味をしめた」のでしょう。今回も嬉々として取り組んで
 いるようです。


 しかし、前回の仕分けの結果として「やめる」という結論になったものの、
 未だにその多くが継続しているという点が大きな問題でしょう。


 道路関連予算にしても殆どが復活してしまっています。事業仕分け後の
 「フォロースルー」がなく、実行されていないことに国民が怒りを覚え
 ているということを認識するべきだと思います。


 今回も事業仕分け第2弾ということで、見せしめのごとく、派手なパフォー
 マンスを展開していますが、大切なのは「その後」です。


 マスコミには実際いくつ本当に無駄と見なされた事業を潰したのかを
 しっかりとフォローしてもらいたいところです。


 マスコミで話題になってはいますが、だからと言って蓮舫氏や枝野幸男
 行政刷新担当相の人気が高まるとも私には思えません。


 「素人」のような質問をしながら、現場で無駄遣いをバッサリ切り捨て
 ているつもりでしょうが、そんなことで解決できる問題ならば、行政が
 これほど水ぶくれすることもなかったでしょうし、自己目的化した省庁
 が天下り先を次々と作り出すといった事態になることもなかったでしょう。


 変な政治ショーはやめにして、最初の段階は専門家に任せるべきです。
 まずは専門家に任せて、具体的な政策の案が出てきたら、次に国会審議
 に移り、そこから政治家が担当するというのが本来の役割分担のはずです。


 本来、国会で議論するべき立場にある国会議員の人たちが、現場に出か
 けてテレビカメラを待ちながら「付け焼き刃的な素人レベルの質問」を
 して話題作りに励むなど、私に言わせれば殆ど「お笑い」です。


 表面的なパフォーマンスだけに目をむけるのではなく、政治家には政治
 家として果たすべき役割があるのですから、そちらに力を入れてもらい
 たいと思います。


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