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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON307 「郵政正社員化」の愚~さもしい選挙対策のつけは国民に

2010年4月16日

郵政問題
ゆうちょ肥大化に懸念
日銀・白川総裁
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 ▼ゆうちょが肥大化するかどうかは分からない
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日本銀行の白川方明総裁は7日の金融政策決定会合後の記者会見で、
 政府が進める郵政改革法案について「長い目で見て、我が国の金融
 システムに大きな影響を与える可能性があることを踏まえ、実行す
 ることが大事」と述べました。


 また「世界的に金融システムの安定をめぐる議論では、金融機関が
 大きすぎてつぶせないことが問題になっている」とし、ゆうちょの
 肥大化に懸念を示しています。


 この白川氏の発言内容はまさに「正論」です。しかし、ゆうちょの
 実態を考えると「本当にゆうちょは肥大化するのか?」と言うと、
 少々疑問の余地があります。預金上限を2000万円にしても、懸念
 するほどに他の金融機関から資金が集まってくることはないかも
 知れない、と私は見ています。


 ゆうちょにはそもそも1000万円の預金上限が設けられていたため、
 それ以上の資金を持つ人は、家族や親戚の名前を借りて口座を作り、
 そこにお金を預けていたという実態があります。それ故、ゆうちょ
 には日本の貯金人口を遥かに超える、2億5000万もの口座が開設さ
 れていました。


 小泉改革の郵政民営化によって、ゆうちょの口座の名寄せが進み、
 上限1000万円を超える分の預金をどうしようかと考えている人が
 大勢いるはずです。


 預金上限が2000万円になるとそうした人たちが口座の名寄せに際して
 「ゆうちょの口座間で資金を移動させる」ことが可能になります。


 白川氏が懸念するように他の金融機関からゆうちょに資金が流れる
 こともあるかも知れません。


 しかし、元々ゆうちょに多額の貯金をしている貯金者はゆうちょ以外
 の金融機関がない田舎だから、ゆうちょを利用しているという実情
 もあるので、実際のゆうちょへの資金流入額はそれ程大きくはない
 でしょう。


 結果としては、ゆうちょの口座数が「2億5000万口座から1億2000
 万口座」になり、資金移動はほとんどゆうちょの口座間で行われた
 ということで落ち着くのではないかと思います。


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 ▼ 郵便局の正社員化は、将来に禍根を残す大きな問題だ
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 日本のマスコミでは大きく取り上げられていませんが、ゆうちょの
 貯金上限の問題よりも、「郵政グループ20万人の非正規社員のうち、
 10万人を正社員化する」という問題の方がはるかに大きな影響力を
 持っています。


 郵政グループでは「パート」「契約社員」「正社員」という3つの
 雇用形態の人が働いています。この中で、契約社員の人は正社員に
 なることを目指して、一生懸命働いて努力しています。


 しかし一方で、正社員の人には上を目指すような努力の姿勢がほと
 んど見られないと私は思います。パートや契約社員を使って仕事を
 することに慣れきっていて、さらには生涯身分が保証される立場で
 すから、一生懸命努力しようという気持ちになれないのでしょう。


 これまでの郵政グループは、「正社員になりたい」という
 モチベーションを持って一生懸命働くパートや契約社員の人たちが
 沢山いるお陰で、コストを低く抑えて、事業を展開することができて
 いました。


 「全員が正社員になれます」と言われたら、おそらく正社員になった
 途端、一生懸命働かない状態になると私は思います。極端な言い方
 をすれば、郵政グループの中において正社員とは「パートや派遣を
 “あごで使って”自らは働かない人」という立場だからです。


 その上、生涯身分が保証されるわけですから、誰もが正社員になりたい
 と思うのです。


 今回の「正社員化」の問題を考える際には、2000億円かかると言わ
 れているコスト面だけではなく、「正社員になると働かなくなる」と
 いう点を見落としてはいけないと私は思います。


 10万人が正社員化して、お互いが他人をあごで使うことばかりを
 考えていたら、恐ろしい事態を招いてしまうでしょう。


 日本のマスコミがこの問題について正しいポイントを指摘していな
 いのは、非常に残念です。亀井氏、原口氏があっという間に話を
 進めていますが、これは将来に禍根を残す大きな問題です。


 これから先数十年の間に、まだまだ隠された問題が次々と出てくる
 ことになるでしょう。


 亀井氏や原口氏が選挙対策として今回の「正社員化」を進めている
 ことは明らかです。恩恵を被る10万人~20万人とその家族を含め
 て「100万票」くらいの影響を持つと思いますが、私に言わせれば、
 わずか100万票のためにこんな「さもしい」ことをやる政治家なの
 かと言いたくなります。


 これが彼らのやり方・真意であり、国民のことを考えた施策などで
 はありません。この問題は、将来、郵政グループに壊滅的な打撃を
 与える可能性があると私は思います。


 こうした問題の本質について国民一人ひとりが見抜く目を持てる
 ことが一番ですが、少なくともマスコミにはきちんと本質を理解し
 た上で報道してもらいたいと思います。


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