大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON300 トヨタ・リコール問題・豊田章男社長米公聴会へ~真に問われているのは「トヨタの国際的な感覚」

2010年2月26日

 今週のニュースの視点は、「トヨタ自動車」のリコール問題について、
 豊田章男社長がどのような態度・姿勢で 米国に向かうべきなのか、
 大前研一が解説いたします。


 なお、下記の記事は米下院公聴会開催(2月24日:日本時間25日早朝)
 以前の2月21日(日)時点における大前の見解です。


 一方、一昨日、米下院公聴会に出席したばかりの豊田社長は
 どのような対応をしたのでしょうか。ぜひ見比べてみてください。


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 トヨタ自動車
 リスク対策で新たに専門組織を設置
 米運輸省調査を拡大
 豊田社長が米下院公聴会へ
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 ▼ 米公聴会は、豊田章男社長の人物を見極めることが目的
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 12日、トヨタ自動車が一連の品質問題を受け、事業を進める上で起こり
 うる様々なリスクへの対策を練るための専門組織を発足させたことが
 明らかになりました。


 また、複数の米メディアが報じたところによると、トヨタ車の意図し
 ない急加速が原因として、米当局に報告された事故死者数が34人に
 上ったことが分かりました。


 そうした中、トヨタ自動車の豊田章男社長が、大規模リコール(回収・
 無償修理)問題に関する米下院公聴会へ出席をする方針を決めたとの
 ことです。


 CNNなどを見ていると、今回のトヨタ問題を契機にしてトヨタを目の敵
 にしたような報道が目立っています。私は少々目に余る部分があると感
 じています。一方、こうしたアンチ報道に拍車をかけるように、トヨタ
 の元社員の弁護士が「トヨタには欠陥隠しの体質がある」ということを
 メディアに告発しています。


 この弁護士は米国下院から召喚状を受け取っていて、トヨタが「欠陥を
 隠す意図があった」という社内資料を提出するように求められていると
 聞きます。もしこうした資料が出てくるとなると、2つのパターンが
 考えられます。


 1つは米国トヨタ内で発生した問題について、米国トヨタの社長から
 隠蔽の指示があったというパターン。もう1つは、日本本社から直接、
 隠蔽の指示があったというパターンです。


 トヨタで弁護士をやっていたほどの人ですから、まさかデタラメを述べ
 ている可能性は低いと思います。どちらかのパターンの資料が出て来る
 のではないかと、私は見ています。


 また豊田章男社長に対しては、米国下院から公聴会に招致されています。
 まだ召喚ではなく、あくまでも「招待」という形式ですが、それでもこ
 の公聴会はかなりシビアなものになると思います。


 米国の気質から考えると、この公聴会の目的は「豊田章男社長が、今回
 の複雑で同時多発的な問題を解決できる人物かどうかを見極める」と
 いう1点にあるはずです。そして、もし「問題解決できる人物とは思え
 ない」という結論になれば、次々と資料請求をして召喚状を送りつけ、
 厳しくトヨタを追及して行くという方針になるでしょう。


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 ▼ 本当に問われているのは、トヨタの国際的な議論力
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 このような状況にあって、豊田章男社長としては米国下院の公聴会で何
 を述べるべきでしょうか? 


 「エクスキューズ」に終始するのではなく、「30年超に渡ってトヨタが
 米国で貢献してきたという事実・歴史を再認識し」「全社一丸となって
 今回の問題に対処する」という点を打ち出すことがポイントです。


 具体的には、私なら次のような趣旨を考えます。


・私たちは当初、自動車を輸出するという形で米国に進出しました
・しかし、これによって米国の雇用が失われるにつれて、
・米国政府の要請を受けて、米国内に工場を建設し、生産を開始しました
・今日では年間100万台以上も生産できる10箇所の工場を抱えており、
・その意味では米国の雇用創出に貢献できたと自負しています


・そして米国の方にも愛され30年以上も支持されてきました
・今回、世界中に広がった工場の中に目が行き届かないところがあり、
・またハイブリッドなどの技術革新も手伝って、
・トヨタとしての経営的な対応が追いついていなかったかも知れません


・これについては全社一丸となって原因を追及し、早急に解決します
・トヨタにはこうした問題を長期間放置するカルチャーはないし、
・私がその先頭に立って陣頭指揮をとっていきます


 間違っても、いきなり今回の問題を引き起こした技術的な部分について
 語り始めるべきではないと私は思います。米国政府の要請に応じて、
 米国内の雇用創出に貢献したということを主張し、トヨタという会社が
 米国人のことを考えてきたという点を事実として主張するべきです。


 単にエクスキューズだけを述べてしまったら、米国人には「単に言い訳
 ばかりを言う奴だ」となって、コテンパンにやられてしまうでしょう。


 実際のところリコールの数を見ると、トヨタよりもGMやフォードの方が
 多いのです。私に言わせれば、これでも「米国標準・他の米国企業並み」
 になったということです。平然とこの事実を述べるべきで、極端に下手
 に出すぎるのは得策ではないでしょう。


 この点を見ても今回の問題が発覚したからと言って、トヨタの企業力が
 著しく低下しているということではないでしょう。


 米公聴会は「豊田章男社長が問題解決できる人物かどうか見極める」と
 公言していますが、私からすれば「今回の公聴会で問われているのは、
 トヨタの国際的な感覚」です。米国人に対してどのように議論をすれば
 いいのか、「国際的な議論の力」が問われているのだと思います。
 
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  この大前研一のメッセージは、2月21日にBBT757chで放映された  
  大前研一ライブの内容を抜粋・編集し、本メールマガジン向けに
  再構成しております。
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 豊田章男社長は、安全性問題を謝罪、顧客に対する「誠実さ」をアピールし、
 また争点のひとつである電子制御システムについては問題があったとの
 見方を否定しました。


 しかし、リコールが遅れた理由や経営姿勢、電子制御システムの安全性
 への懸念等、必ずしも今回の公聴会で議員達を納得させられたわけでは
 なく、今後も注視する必要があります。


 ≪参考≫公聴会の要旨(NIKKEI NETより)


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