大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON296 米金融規制の大転換!?~支持率急落のオバマ大統領の起死回生策になるか

2010年1月29日

 米オバマ大統領 就任1年間の平均支持率57%
 米金融規制 米銀行のファンド投資を禁止
 金融機関の事業規模、高リスク投資などを制限
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  ▼オバマ大統領の問題点は、権力を行使する実行力の欠如だ
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 18日、米調査会社ギャラップはオバマ大統領の就任から1年間の世論調査
 での平均支持率を発表しました。


 同日までの平均は57%で、第二次世界大戦後、大統領選を経て就任した
 9人の大統領のうちレーガン氏と同率のワースト2位とのことです。


※「近年の米国大統領の就任1年目の平均支持率」
  


 このニュースではオバマ大統領に対する否定的な側面が強調され過ぎて
 いるように、私には思えます。戦後の大統領で就任1年後の支持率が
 最も低かったのはクリントン氏です。ブッシュ(父)政権が経済を破壊
 した後を引き継いだため、後始末が大変だったのです。


 その後、クリントン氏は圧倒的な人気で再任されていますから1年目の
 支持率だけを見て、余り否定的に見てしまうのはどうかと思います。


 ただし米国民の中には、今回発表された支持率以上にオバマ大統領を
 選任したことについて懸念を抱いている人が多いとも思います。


 ブッシュ政権に対する反動として、正論を述べ説得力もあるオバマ大統領
 を選任したものの、いざ大統領になってみると実行力が伴っていない
 ことが明らかになってきています。


 意思決定、議会のコントロールなど大統領に求められるのは、まさに
 「権力」を行使することです。オバマ大統領の問題はここにあると思い
 ます。


 権力を行使せずに正論だけを述べていても物事は前に進みません。演説
 だけが虚しく響くばかりで、国は変わりません。個人的にはオバマ大統領は
 好きなタイプの政治家ですが、「述べていることは正論だが青すぎる」と
 感じます。だから、米国の議員も誰も言うことを聞かないという状況に
 陥っているのでしょう。


 米上院補選で共和党が勝利したことで、民主党の安定多数が崩れたと
 危惧する声もあるようですが、これ自体は致命的ではないと私は見ています。


 医療保険制度改革法案の一般教書演説前の成立に際して審議妨害を受ける
 可能性はでてきましたが、それでも民主党の圧倒的優位は変わらず、
 法案は通せるからです。


 しかし医療改革について肝心の民主党の中に対抗勢力があり、
 オバマ大統領がそれを抑えられていないことが問題です。


 内部のコントロールが完全ではなく、足元が固められていないのです。
 こうした点にもオバマ政権の問題点が如実に現れていると感じます。


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  ▼オバマ大統領の経済政策に対する逆風は強まるばかり
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 21日、オバマ米大統領は金融危機の再発防止に向けた新たな金融規制案を
 正式に発表しました。


 金融機関の規模や事業内容に一定の制限を設ける内容で、銀行にヘッジ
 ファンドの保有・出資などを禁止、大手金融機関の負債の規模に上限を
 設定するとのことです。


 意思決定力・実行力が問われているオバマ大統領ですが、もしこれが
 実現できたならば一気に形勢が逆転すると思います。
 それくらい、この金融規制案には大きなインパクトがあります。


 新金融規制の概要をまとめると以下のようになっています。


・銀行への規制:高リスクの投資を規制、自己資金勘定での高リスク
 投資を制限する
・銀行・投資銀行への規制:「大きすぎてつぶせない」状況をなくすため
 に、市場借入(負債)に上限を設ける


 ヘッジファンドや未公開株を手がけるファンドの所有、投資を禁止すれば、
 いま銀行が行っている業務の半分は出来なくなります。


 さらに、高リスクかどうかは別として自己資金勘定での投資を制限すれば
 ゴールドマン・サックスなど、ウォール街の投資銀行の利益は激減する
 でしょう。


 今期ゴールドマン・サックスは収益、利益の相当な割合を自己資金勘定
 から叩き出しています。銀行とも投資銀行とも呼べない有様ですが、
 規制が入ると収益、利益は一気に圧縮されることが予想されます。


 また、銀行に対して市場がまだまだ資金を提供しようとしても、市場借入
 (負債)に上限を設けることでそれを出来なくしてしまうというのも、
 かなり大きな影響があると思います。


 こうしたことが実現できれば、まさに利権の中心になっているウォール街
 を沈黙させることになりますから、オバマ大統領に実行力があるなら、
 ぜひやってみて欲しいと私は思います。


 しかし、さすがに影響力が強すぎてかなりの抵抗が予想されます。
 おそらくオバマ大統領そのものを潰しにかかる勢力も出てくると思います。


 また現実的な問題として、現在の金融システムはファンドを織り込み
 済みで動いているという点も見逃せないでしょう。


 一般の投資家から集めた資金だけで運用するというのは結果的には
 正しいのかも知れませんが、ファンドを通じての銀行貸出がなくなると
 世界経済を動かすための「潤滑油」として機能するものがなくなります。
 今の金融の実態から見ると、これは相当大きな問題です。


 オバマ大統領の経済政策への逆風の強さは、他でも感じられます。
 例えばオバマ大統領が望んでいるバーナンキ氏のFRB議長への再選に
 ついてもTIME誌が批判を表明しています。


 1月25日号のTIME誌によれば、TIME誌が昨年「マン・オブ・ザ・イヤー」に
 バーナンキ氏を選出したのは間違いだったとし、バーナンキ氏が不況の原因を
 作った張本人だとしています。


 また、1月25日号のBusinessWeek誌ではノーベル経済学賞も受賞した
 経済学者であるジョセフ・E・スティグリッツ氏が、オバマノミックス
 やガイトナー氏など、オバマ大統領の経済政策を痛烈に批判しています。


 オバマ大統領側を支えているのはボルカー元FRB議長ですが、こうした
 大きな逆風に対するには少々高齢に過ぎるように思います。今オバマ
 大統領が問われているのは、意思決定力であり実行力です。大きな逆風
 だと思いますが、米金融規制を実施し、大きな影響力を示してもらいた
 いと期待しています。


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