大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON295 米グーグルVS中国政府~市場に迎合せず、ブランド価値を守ることで得られる潜在顧客

2010年1月22日

 米グーグル
 中国政府に検閲撤廃を求め
 人権活動家のメール情報取得に中国からサイバー攻撃
 -------------------------------------------------------------
 ▼ 米グーグルが中国市場から撤退する判断は、「アリ」だ
 -------------------------------------------------------------


 インターネット検索最大手の米グーグルは、ネット情報の一部を表示
 させないようにしている中国政府に対し、検閲無しでの検索サービスの
 運営を求める方針を明らかにしました。


 また、クリントン国務長官は12日、グーグルが中国からサイバー攻撃
 を受けたと説明している問題について、中国政府からの説明を期待する
 との見解を表明しています。


 いつ封鎖されるのかは分かりませんが、これまで中国国内でインター
 ネット検索をしても閲覧できなかった天安門事件の写真をはじめ、
 人権や反体制に関する情報がグーグル中国版を通じて閲覧できるように
 なっています。


 これは今後の米中関係にも大きな影響を及ぼす問題に発展する可能性が
 高いでしょう。人民元の切り上げ、米中間の通商問題等の経済問題に
 ついて米中政府の対立、あるいは米議会・世論における中国の人権問題
 への批判拡大などが予想されます。


 中国という国は、国家・役人主導でハッカーやサイバー攻撃を仕掛ける
 人たちを総動員できるという「凄さ」を持った国です。今、米グーグル
 や米ヤフーが大規模なサイバー攻撃にさらされています。


 これまでは中国政府の言いなりになって閲覧規制などに協力してきた
 米グーグルですが、中国から強力なサイバー攻撃を受けたとしても、
 これからは「中国政府の言いなりにはならない」という強い「企業姿勢」
 を示しているのだと感じます。


 では、米グーグルが中国市場から撤退するという事態は本当に起こり
 得るのでしょうか? 中国という巨大な成長市場から抜けてしまうのは
 痛手だと感じる人も多いでしょうが、私に言わせれば、中国市場からの
 撤退は「アリ」だと思います。


 確かに中国という市場は、成長度から見ても規模から見ても魅力的な
 市場だと言えるでしょうが、現在でもBaidu(バイドゥ)など米グーグル
 よりも高いシェアを誇るサイトがありますから、それほど固執するべき
 ではないと思います。


 また、仮に一度袂を分かってから再び仲直りする時が来るとすれば、
 その時には中国政府はオープンな政府になっている時でしょう。


 かつてウォール・ストリート・ジャーナルとシンガポール政府が仲違い
 をしたことがありましたが、その事例を見ても時が経って状況が変われ
 ば自然と仲直りできてしまうものだと分かります。


 中国側の政治家も代わり、米グーグルの経営者も変わっていれば、
 案外すんなりと手を組むことができると私は見ています。


 -------------------------------------------------------------
 ▼ 今、グーグルが企業姿勢を強く示すことは世界の共感を得る
 -------------------------------------------------------------


 確かに現時点で手を引いてしまうと、一度シェアを失うことになるので
 大変な側面はあると思います。しかし今のような中途半端な形で継続
 していくのは、やめるべきでしょう。


 そして、もし今、米グーグルが中国市場からの撤退を決定すれば、
 私は世界的に米グーグルの支援者が増えることにつながると思います。


 おそらく、なぜ米グーグルは自らの主張を曲げてまで中国の言いなりに
 なっているのかという憤りを感じていた人は世界中に数多くいるはずです。


 ここで米グーグルが毅然とした態度で中国政府の言いなりにはならない
 という「企業姿勢」を示すことは、このような憤りを感じていた人たち
 の共感を得ることにも繋がると思います。


 中国市場という巨大なマーケットは「企業収益」を考えると捨てがたい
 魅力的な存在です。


 しかしながら、それだけを理由に米グーグルが持つ基本的な「企業姿勢」
 を一方的に犠牲にするべきではないでしょう。


 今回の米グーグルの批判精神を受けて、


 中国政府が米グーグルに歩み寄ることはあるだろうか? 
 あるいは、
 今後中国政府が諸外国企業への対応を変化させるだろうか? 
 という議論もあるようですが、どちらも答えは「NO」だと思います。


 中国政府の頭の中には「自国民の暴動を抑えることが最優先」という
 ことしかありません。だからこそ自由にグーグルを活用されて収拾が
 つかない状況になるのを恐れているわけです。そこには米グーグルに
 歩み寄るという発想も、諸外国企業への対応を改めようという発想も
 ないと思います。


 このような中国政府の状況を考えても、米グーグルが短期的には
 「企業収益」を犠牲にすることになったとしても、自らの「企業姿勢」
 を貫くことに私は賛成です。「企業の姿勢」と「企業の収益」は必ずしも
 比例するわけではなく、どちらかを一方的に犠牲にするべきではないと
 思います。


 そのタイミングに合わせて両者のバランスを判断していくことが大切だ
 と思います。その意味において、今回の米グーグルの「中国撤退も辞さ
 ない」という企業姿勢を強調したバランス感覚は素晴らしいものだと思
 います。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点