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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON290 いくつできるんだ中国100万人都市!~リーダーは明確な産業政策を描き、農村問題を解決せよ~大前研一ニュースの視点~

2009年12月4日

 中国人口調査
 都市人口比率45.7%
 中国国勢調査
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 ▼ 世界に類を見ない経済発展を成し遂げた中国経済の特徴とは?
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 中国政府が実施した国勢調査によると、08年末の総人口は
 13億2802万人。うち都市で生活する人は6億667万人、
 農村住民は7億2135万人で、都市人口の比率は45.7%。


 09年以降も都市への人口流入は続いており、
 都市人口比率は5割に迫っているとのことです。


 改革開放以来、中国では都市化と都市の大規模化が進め、
 2007年末には100万人都市が100都市を数え、2025年には220に
 達すると言われています。


 約20年の間に100以上もの100万人都市が生まれるのですから、
 これは驚異的なスピードだと言えるでしょう。


 世界に類を見ない中国経済成長の特徴はここにあります。それは
 大都市の誕生が中国の経済成長を支える根幹だ、ということです。


 中国の場合には、農民から調達した「土地」を商業地や住宅地に
 転化させることで大都市化と経済成長が促されました。


「土地の使用目的」を変えるだけで、税金を上げることなく富が
 創出されるという事例は世界を見渡しても他に思いつきません。


 それ以外にも外資系企業が中国に参入してきたことで経済成長は
 加速しました。しかし中国経済を支える根本は大都市化にあり、
 それゆえその都市の市長と関連する議員が絶対的な権限を持つと
 いう構造になっています。


 ここに中国が抱える問題の1つが隠れています。それは大都市が
 それぞれ暴走しており、そこにいる役人が不正に手を染めている
 ということです。


 今年の6月から開始された重慶の腐敗一掃運動では、犯罪組織の
 大規模な取り締まりが行われ数千人の逮捕者が出ています。


 逮捕者の中には、市司法局長や市公安局副局長など、共産党の
 地方幹部も含まれていたと言われています。


 このような事態になることは容易に想像できます。大都市化に
 よって都市では莫大な金持ちが生まれる一方、役人の給料は低い
 ままだからです。


 役人にしてみれば、「農民から取り上げた土地を商業土地や住宅地に
 転化させたから、お前たちは金持ちになれたんだ」という言い分な
 のでしょう。


 そんなことを言うと裏でお金をもらえるという図式が出来上がり、
 役人の「マフィア化」が中国経済発展のエンジンを担うような存在
 になってしまったのだと思います。


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 ▼ これからの中国に求められる人材像とは?
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 中国が抱えるもう1つの問題は、大都市化されず残された7億人に
 及ぶ農村人口をそのまま放置しているということです。


 より正確に言えば、中国としては問題を認識していても放置する
 以外の良い解決策が思いつかないという状態です。


 今の中国が持つ経済力と技術力があれば、農業を近代化して農村
 人口を減少させることは簡単ではないのか?と感じた人もいるで
 しょう。確かにその通りなのですが、実はその後が問題なのです。


 もし中国が米国と同様レベルの生産性になるように農業の近代化を
 進めたら、おそらく農業人口を1/20に減らすことが可能です。


 7億人の農業人口は数千万人になると思います。しかしそのとき、
 残りの6億数千万人が「失業」に陥ってしまいます。


 さすがの中国でも、6億人を越える人たちが都市に雪崩れ込んで
 きたら大変な事態になります。100万人都市が400や500も出来て、
 今のようにそれぞれ勝手気ままにやられては収拾がつきません。


 こうした背景があるために、本当は米国並みの農村の近代化を図る
 技術も経済力もあるのに中国は「農村の近代化」ができない宿命に
 陥っています。


 私は中国を訪れるたびに、各所から経済顧問になってくれと頼まれ
 ることがあります。


 中国には広大な「土地があるだけ」になっていて、それをどう活用
 したら良いのか分からないというのです。


 広州や重慶、その他の地域でもよく耳にしたのが「ウチは中国の
 デトロイトになりたい!」という類の発言です。何度もそうした話
 を聞かされた私にしてみれば、中国に4つも5つもデトロイトは
 要らないだろうと思ってしまいます。


 問題は「中国のデトロイトになりたい」というイメージしかなく、
 それを実現するためのプロセスを理解している指導者がいないと
 いうことです。


 単に農民から収奪した土地を活用して経済バブルの波に乗って
 一儲けしました、というだけの人材では全く役に立たないと
 思います。


 これからの中国の都市政策は、産業政策と合わせて遂行していく
 ことが必須になってきます。


 例えば日本向けのBPO事業で急成長している大連のように、
 「具体的な産業政策」を掲げそれを5年~10年かけて育てていくと
 いうことです。


 私は広州や重慶などが「中国のデトロイト」になることも可能だと
 思います。地道な戦略を練り、日本の部品メーカーを80社~90社
 くらい呼び込んでくることができれば、「デトロイト」になることは
 できるからです。


 中国に行ってあれこれと相談を受けて、少し手伝いなどをしている
 と「もっと、こうしたら良くなる」という発想が次々とわいてきます。


 中国が抱える人口問題は非常に悩ましい問題です。この十数年間、
 中国は圧倒的な経済成長を成し遂げました。


 しかしこれまでの経済成長の延長線で考えていても、人口問題・
 都市問題を解決することはできないでしょう。具体的な産業政策を
 立案しそれを長期間に渡って育てていけるような人材が、これから
 の中国には求められています。


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