大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON287 木を見て森を見ずの愚~一歩先を見据えた者が世界標準をつくる~大前研一ニュースの視点~

2009年11月13日

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 娯楽メディア業界
 音楽配信市場、米で拡大続く 「iPod」向けがけん引
 電子マネー 楽天 ビットワレットを子会社化
 米ペイパル、来年にも日本参入


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 ▼ ゲオが好調な理由と、今後の課題
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 米国では音楽、動画など娯楽コンテンツのインターネット配信が
 量的拡大を続けています。


 7~9月期には米アップルが四半期ベースで過去最高益を更新。高機
 能携帯電話のアイフォーンや音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」
 向けの音楽・動画配信は2ケタ成長が続いています。


 一方日本では、レンタルDVD店を展開するゲオは6日、10年3月期
 連結決算の営業利益の予想を上方修正しました。前期比17.4%増
 の120億円と、過去最高益を見込んでいるとのことです。


 米タワーレコードの低迷する様子を見ていると、ネット配信を通じて、
 iPodなどを使って音楽・映像をダウンロードして楽しむ時代へと
 移り変わってきていることは、誰の目にも明らかです。


 そのような中、レンタルDVD店を中心に事業展開をしているゲオ
 が好業績を見せているのは、なぜでしょうか?


 ゲオとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の業績比較を
 見てみると、07年に売上でゲオがCCCを上回り、さらにこの1年
 で急速に営業利益でも肉薄してきているのが分かります。ゲオが
 採用した戦略は、圧倒的な低価格によるシェアの獲得です。


※「ゲオとCCCの業績比較」 チャートを見る
  


 私は以前から言ってきたことですが、記憶媒体がVHSテープから
 ディスクに変わったことによって、レンタルビデオ(DVD)店は
 殆ど無料でレンタルを実施しても利益を残せる仕組みに変わりました。


 テープの場合には10回くらい再生するとテープが擦り切れてくる
 ことがありましたが、ディスクの場合には何度再生しても劣化する
 ことはありません。ということは、レンタル料は極限まで安くする
 ことができるはずです。


 ゲオはこの点に着目したのです。他店では300円~400円のレンタル
 料だったものを、クラシック映画を中心に100円という低価格の
 料金設定をしました。この値段設定によってかなりのシェア獲得に
 つながったと思います。


 また実際には100円のレンタルを5~6枚同時にレンタルすること
 が多いので、1回当たりの平均レンタル料金は500円~600円くら
 いですから、利益の面で見ても悪い数字ではないでしょう。
 こうした戦略が功を奏して、ゲオはCCCに追いつく勢いを見せています。


 ただし、今後は同じ戦略は通用しないと私は見ています。2011年以降、
 本格的に光ファイバーが整備されるようになると、音楽・映画はネット
 を通じてダウンロードする文化へと一気にシフトするからです。


 この時代の変化を見誤ってしまうと、これまでの好業績が水泡に
 帰す可能性もあるでしょう。


 今、私のオフィスから建設中の東京スカイツリー(第2東京タワー)が
 見えます。600メートルもの見事な建造物が完成する頃には、
 皮肉なことに光ファイバー網が整備されていることになります。


 すなわち、東京スカイツリーの存在意義はなくなります。残念なこと
 ですが、時代の先を読めていない代表的な例の1つだと言わざるを
 得ません。


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 ▼ 電子マネーの世界共通通貨を目指せ
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 5日、楽天は電子マネー「Edy(エディ)」を運営するビットワレット
 を子会社化し、電子マネー事業に本格参入すると発表しました。
 また、インターネット専用決済サービスの大手、米ペイパルが来年
 にも日本に参入するとのことです。


 楽天がEdyという電子マネーを使って、どこまで広い視野を持った
 戦略を取れるのかという点が気になります。


「楽天市場」などでEdyによる決済を可能にする、コンビニエンス
 ストアなどとの連携を強化するなどと言われています。


 もちろんそれは大事なことですが、「楽天市場」だけに拘らず、
 電子マネーの世界共通通貨を作り上げるくらい、大きな展開を
 考えてもらいたいと私は思っています。


 私は過去に何度も述べてきましたが、電子マネーの世界ではソニー
 が戦略を間違わなければ世界を制することも可能だったと思って
 います。


 というのは、Edy、Suica、ICOCA、PASMOなど数多く存在する電子
 マネーですが、全ての規格の裏で使われているのがソニーの
「フェリカ」という技術だからです。


 90年代にフェリカの開発に成功したソニーは、この技術を単なる
「部品」として見なしてしまいました。


 その結果ソニーは、香港の「オクトパス」やJR東日本の「Suica」
 といった電子マネーに利用されるための「部品」を納入する、
 「1つのメーカー」の立場を超えることができなくなったのです。


 当時もしソニーが「次世代のフォーマットとしてみなさん全員に
 提供するのはこれです」という風に仕切っていたら、今のように
 異なるフォーマットが溢れ、利用者が混乱することもなく、電子
 マネーのフォーマットは世界的に統一できたかも知れません。
 そうすれば、サイバー経済を揺るがすほどの巨大事業として展開で
 きたでしょう。


 しかし残念なことに、当時のソニーの経営陣はこうした発想が持て
 なかったのです。Edyという電子マネーは、ユーロ(Euro)・ドル
(Dollar)・円(Yen)に次ぐ第四の基軸通貨になってほしいとの
 願いから、その頭文字を取っています。少なくとも開発者には、
 世界を見据えた大きな志があったのです。


 電子マネーの世界共通通貨としての地位を確立することは、
 米アップルのiPodやiPhoneに匹敵する「プラットフォーム」を
 確立することだと私は思います。


 電子決済システムの大手米ペイパルも日本への参入を決めたとの
 ことです。楽天が電子マネー・電子決済の市場で、どこまでの展開
 を考えているのか、今後注目していきたいと思います。


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