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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON284 日中GDP逆転の衝撃~自滅しつつある日本経済~大前研一ニュースの視点~

2009年10月27日

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 中国経済
 対中直接投資
 9月は78億9900万ドル
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 ▼ 95年頃から日本経済が停滞した理由とは?
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 15日、中国商務省は9月の海外から中国への直接投資額が前年同月
 に比べ18.9%増の78億9900万ドル(約7060億円)になったと
 発表しました。


 2カ月連続のプラスで、増加率は8月の7.0%より大幅に拡大して
 います。世界経済が底入れしたとの見方が広がり、対中投資が再び
 活発になり始めています。


 また、中国政府が株式相場対策を相次いで打ち出しており、政府系
 ファンドが中国工商銀行など国有大手商業銀3行の株式を買い増す
 方針を明らかにしています。


 中国が国家ファンドによってPKO(プライス・キーピング・
 オペレーション)を実施しようとしているのが見て取れます。
 そして、全体的な兆候として中国投資が戻ってきているのは間違い
 ないと私も感じます。


 同時に、中国が200兆円の国家ファンドを使って世界中の企業を
 買収し始めている実態も明らかになってきています。


 2009年10月26日号のFORTUNE誌のカバーストーリーは、
 ずばり「CHINA Buys the World」というものでした。


 80年代、日本企業がロックフェラーセンターやコロンビアピクチャー
 を買収した際には米国では日本についての議論が盛んでしたが、
 今の中国も同じ道を辿っているようです。


 世界が目を見張るほどの成長を続ける中国、そして米国・日本と
 いう3国についてこの十数年間の経済成長の実態を見てみると非常
 に重要なことに気づかされます。


 私は「日米中のGDPの推移」のグラフを見るたびに、これほど
 「日本経済の実態」を明らかにし、そして「新しい経済原論」の
 重要性を物語っているものはないと感じます。


※「日米中のGDPの推移」 チャートを見る


 グラフを見て分かるように、70年代~80年代日米は共に順調に
 GDPが成長し続けていました。


 しかし、94年頃から「日本だけ」がGDPの成長が止まって横ばい
 になっているのが分かります。


 そして2003年頃から急成長を見せる中国に、遅くとも来年には
 追い抜かれることがほぼ間違いない状態です。


 94年頃というと「バブル崩壊によってお金が失われたのだから
 しょうがない」と考える人もいるでしょうが、それは違います。


 なぜなら、バブルが崩壊した当時でも個人金融資産は、1000兆円を
 越えていました。GDP成長が止まってからの十数年の間にも、日本
 の個人金融資産の残高は増加する傾向にありました。


 だから、決して「お金がなかったから」経済成長が止まったわけで
 はないのです。ここが非常に重要なポイントです。


 日本のGDPは約500兆円ですから、本来、個人金融資産は500兆円も
 あれば十分です。


 もしこのバブル崩壊後に増加した金額がマーケットに出てきていれば、
 おそらく米国と足並みを揃えて経済成長を継続できたと私は思います。


 では、ある意味では過剰とも言える個人金融資産をマーケットに
 引っ張り出すにはどうすればいいでしょうか? 拙著「心理経済学」
 でも述べているように、不況や危機において消費者は身構えています。


 だから、景気後退や財政問題等の先行きが暗いことを想起させるの
 は逆効果です。そうではなく、消費者心理をリラックスさせること
 が重要なのです。


 例えば「今、車を購入してくれた人には重量税や取得税を免除する」
 という対策なら、自動車業界の活性化につながるでしょう。または
「築30年以上の住宅の建て替えをする場合には税率を優遇する」
 という対策なら、住宅の建て替え需要を喚起できると思います。


 北海道で道路を建設しても沖縄で橋を架けても、「消費心理は刺激
 されない」ということを政府・役人は理解するべきです。どうすれば
 個人消費を活性化できるのか?という視点を持って対策を打つこと、
 これが最も重要な命題です。


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 ▼ たった1枚のグラフから読み取れることの重要性
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 さらにもう1つ、この十数年間の日本経済の停滞から学ぶべきことは、
 旧来の「マクロ経済学」は現代の経済において効果を発揮しないと
 いうことです。


 現代の先進国においては「金利の上げ下げ」や「マネーサプライの
 増減」によって景気が回復しないことは、日本が証明したと言って
 も過言ではないと私は思います。


 私に言わせれば、未だに「金利の上げ下げ」や「マネーサプライの
 増減」によって経済をコントロールしようとするのは、19世紀の
 時代遅れの経済学者です。


 そして10年遅れで米国が「日本と同じ轍を踏み」始めています。
 オバマプランで実施しているのは、低金利政策と資金供給量の増加
 というマクロ経済学の施策です。


 なぜ日本と同じ過ちを犯そうとするのか、私には理解できません。
 米国のGDPも直近では成長が横ばいになってきていますが、
 これは一時的なものではなく、日本と同じ「間違った道」を歩み
 始めた証拠だと私は見ています。


 また、「ゼロ金利政策」は銀行の経営体力を回復させるどころか、
 むしろ逆効果だということにさえ気づいていない人が多すぎます。


 銀行はゼロ金利になると、貸し出し先を積極的に探す努力をしなく
 なります。なぜなら「金利0%」で預かっているわけですから、
 利回り1.5%程の国債でも買っておけば儲かるからです。


 例えば「金利3%」になれば、銀行は4%で貸し出す先を必死に探す
 でしょうが、その必要はないのです。実際、この数年間、私は必死
 になって貸し出し先を探している銀行など見たことがありません。


 このようなことは、「経済理論を鵜呑み」にせず、実際に起きている
 ことを自分の目で見て分析すれば、すぐに気づけることです。


 こうした間違った理論にも基づいていたから、十数年経っても経済
 が回復しないのです。政権を担当する立場になった民主党にしても、
 この事実を全く理解していないと私は思います。


 経済を活性化させる必要があるのに、さらにまた民主党は「増税」
 や「赤字国債」という方法を採用するというのですから、私には
 信じられません。


 これまで失敗してきた自民党を批判し、自分たちは違うということ
 を見せられる千載一遇のチャンスが台無しです。


 麻生政権で通過した補正予算約15兆円を見直した結果、予算の
 執行停止などで約3兆円の財源を確保したと発表したとのことですが、
 これなども15兆円全てを削減対象とするべきです。3兆円目標など
 と定められている時点で、役人に舐められているのだと私は思います。


 最近、私は欧州の人と話をしていて「日本は20年前に世界地図
 から自然と消えた」という趣旨のことをよく言われます。


 これは的を射た表現だと思います。「日米中のGDPの推移」の
 グラフから読み取れるように、まさに日本は「自滅」したという
 ことです。


 日本復興のシナリオを描くには、「日米中のGDPの推移」から浮かび
 上がる「日本の実態」を直視し、旧来のマクロ経済学ではなく
 「新しい経済原論」が機能しているということを理解することが
 第一歩になると私は考えています。


 このたった一枚のグラフから読み取れることの重要性を感じてもらい
 たいと思います。


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