大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#129 ダイエー再建に隠された本質を見抜く

2006年9月12日

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 ダイエー再建
 丸紅が、イオン、ウォルマートと提携交渉
 10月上旬に売却先を決定する見込み
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●ダイエー再建を隠れ蓑にした、産業再生機構によるトリックとは?


ダイエーの筆頭株主の丸紅が、
ダイエー再建に協力する事業提携先として、
イオン、西友を傘下に収める米ウォルマートと
提携交渉に入ることが30日明らかになりました。


丸紅は8月4日付けで、産業再生機構からダイエー株を取得し、
筆頭株主になったばかりだった点を考えると、
産業再生機構が丸紅を選んだということ自体が
無意味だったのか?という疑問を
感じる人もいるかも知れません。


実は、このダイエー再建の背景には、
国が仕掛けたとんでもないマジックが
隠されているように思います。


そのマジックの前提となるのは、


「そもそも国が救済したかったのは、ダイエーではない」


ということです。


では、国はどこを救済したかったのかというと、
ダイエーではなくて、UFJ銀行なのです。


東海銀行と三和銀行が合併し誕生したUFJ銀行は、
それぞれの銀行がダイエーに貸付をしていて、
合計で約7000億円超の貸付金があったのです。


万一ダイエーがつぶれてしまうと、
連鎖してUFJ銀行もつぶれかねない状況でした。


この事態を避けるために、
産業再生機構がダイエー再建を見せかけたというのが
実態だと私は思っています。


ところが、ご存知の通り、
UFJ銀行は東京三菱銀行と合併することで、
結果として救済される形になりました。


UFJ銀行が安泰ということになって、
この時点で産業再生機構がダイエー再建を図る
本当の意味が失われたのでしょう。


だから、さっさと丸紅に売り抜けて、
「後はよろしく」といった
非常に無責任に思える態度になったのではないでしょうか。


このような結末になるのであったら、
最初からUFJに国民の金を貸して、ダイエーは解体し、
優良資産ごとに売却して、
当時2兆円超あった借入金を返済していくという
手段をとるのが本来の筋だったと思います。


UFJもダイエーに対する貸付金が処理できれば、
もともと東京三菱より収益性の高い会社でしたから、
三菱東京グループに吸収されることも
なかったのではないかと思います。


そして、自ら再建に手を挙げた丸紅にしても
ダイエーは手に余りますから、
早々にイオンやウォルマートと
提携交渉を行うということとなりました。


しかしこれは、ダイエーが産業再生機構入りする前から、
ダイエーを解体してイオンやウォルマートに
売却するという選択肢はあったわけですから、
結局この一連の騒動は
何だったのかと思わざるを得ません。


国民の目をダイエーに向けておきながら、
実はそれは国民にUFJに目を向けさせないための
フェイントとして利用していただけ、
というような「やり方自体」に
私としては疑問を感じざるを得ません。



●ダイエー再建の道はない。解体して、店ごとに売り払うべき。


では、ダイエー再建はどうするべきだったのか?


また、今提携先として浮上している、
イオンとウォルマートではどちらが適任なのか?
という点に関心が集まってくるでしょう。


私の意見としては、ずっと昔から変わっていません。


ダイエーの経営再建は不可能です。


だから、さっさと解体して、
優良な店ごとに売り払っていくという形を
取るべきだと思っています。


日本国内の主要な流通業者の経営指標を見ると、
売上高は


 1位イオン4.4兆円、
 2位セブン・アンド・アイ3.9兆円


で、時価総額では、


 イオン1.8兆円


に対して、


 セブン&アイ5.1兆円


となって逆転しています。


しかし、国内最大のイオンといえども、世界的に見れば、
ウォルマート、カルフール、テスコといった
米欧の企業に肩を並べられるレベルではないでしょう。


ですから、言葉は悪いですが、
調子に乗ってダイエー再建などに
乗り出したりしていると、自分が第2のダイエーに
なってしまうということさえあり得ると思います。


また、世界No.1のウォルマートにしても、
2002年に傘下におさめた西友の経営が
上手く行っていません。


西友の引き続きの赤字状態は、
ウォルマート式経営の
限界を示しているのではないかと思います。


これらの点を見ても、ダイエーは解体し
優良な店舗だけをイオンやウォルマートに
売却するという手段が最も現実的だと思うからです。


私は以前からダイエー再建の道はなく、
解体してお店ごとに売ってしまうべきだと
主張してきました。


しかし、結局、ダイエー再建はUFJ救済のための
カモフラージュとして、
国民の視線を逸らすことに利用されてしまい、
今はまた提携先を探すという
本来の道から外れたところへ向かおうとしています。


国が率先して
手品のようなトリックを用いてしまうから、
どんどん正当な道から
外れてしまっているように感じます。


逆に考えると、私たち民間側が、国の対応に騙されず、
本質を見抜く目を養っていくことが
益々大切になってきているのだと思います。


                            以上


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