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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON280 亀井金融・郵政相~国民に期待されていることは何か認識せよ~大前研一ニュースの視点~

2009年9月28日

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元金返済猶予制度
亀井金融・郵政相
元金返済の猶予制度を検討
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●金融・郵政改革担当相として完全なミスキャスト


 15日、鳩山新政権で金融・郵政改革担当相に内定した国民新党の
 亀井静香代表は、党本部で記者会見し、業績の悪化した中小企業や
 個人に対し、銀行からの借金の元本返済を猶予する「支払猶予制度」
 (モラトリアム)を導入する考えを明らかにしました。


 また、日本郵政の西川善文社長に自発的な辞任を求める考えも示し
 ています。


 18日、これを受けて藤井裕久財務相は閣議後の記者会見で、亀井静香
 金融・郵政改革担当相が中小・零細企業などの債務返済を3年間
 猶予する制度の導入を打ち出したことについて「昭和の金融恐慌の
 ときにやったことがあるが、(今が)そういう状況なのか」と述べ、
 慎重な見方を示したとのことです。


 亀井氏を金融・郵政改革担当相に推したのは、おそらく小沢氏だと
 思いますが、この人事は明らかなミスキャストだと私は思います。
 そもそも亀井氏の考え方が民主党のそれと合致しているとは思えま
 せん。


 かつて小泉元首相と竹中氏に対して、亀井氏は植草一秀氏を擁して
 対立していたことがありました。


 植草氏の理論はケインズ経済学に影響を受けており、明確な理由が
 なくても道路建設などの公共事業を手がけることによって景気を
 回復させるというものでした。


 亀井氏も植草氏と同じような「ばら撒き論者」だと私は見ていますが、
 だからこそ民主党と相容れないはずだと思います。


 今回の選挙で勝利したのは「民主党」です。国民新党がマジョリティ
 を獲得した訳ではありません。私に言わせれば、そもそも民主党が
 国民新党と連立を組む必要性すらありません。


 あまつさえ、「ばら撒き論者」である亀井氏を金融・郵政改革担当相
 にするというのは考えられないことです。


 特に郵政民営化に関して言えば、小泉内閣で郵政民営化に反対し、
 自民党を離党した経緯がある亀井氏は、郵政が民営化される以前の
 状態にまで戻したいようですが、これは許してはいけないことだと
 思います。


 私自身は「郵政は民営化することなく廃止するべき」という意見を
 持っていますから、取り立てて小泉元首相の肩を持つことはありま
 せん。重要なのは、国民の意思をきちんと反映するということです。


 2005年の総選挙では「郵政民営化」を焦点に、小泉元首相が国民に
 是非を問い、その結果、自民党が圧勝しました。


 今回の総選挙では民主党が圧勝しましたが、決して「郵政民営化を
 否定する」ことを国民に問うたものではありません。


 であれば、民主党としては少なくとも当時の国民の意思として
 郵政改革を支持したということを尊重するべきです。


 それを簡単にないがしろにするような人事は、それ自体、国民を
 軽視した人事であり大きな問題だと私は思います。


●亀井氏が暴走して無駄な軋轢が大きくなる恐れ


 また金融担当相として亀井氏を評価したときにも、やはりミスキャスト
 だと言わざるを得ないでしょう。


 金融庁での記者会見で日本航空の経営再建問題について「日本の銀
 行や他の企業できちっと支援したり、出資したりするところが出て
 くるのが一番良い」と述べたとのことですが、戦略的な観点は皆無
 でありお話になりません。


 外資に買収されるくらいなら日本の金融機関が救うべきと亀井氏は
 考えているのかもしれませんが、金融担当相としてこれでは困ります。


 さらには、中小企業に繁栄してもらうために、業績の悪化した中小
 企業や個人に対し、銀行からの借金の元本返済を猶予する「支払猶
 予制度」(モラトリアム)の導入を検討していると発表する始末です。


 2008年から2009年にかけての主要行の不良債権比率を見ると、
 あおぞら銀行、新生銀行、りそな銀行をはじめとして不良債権が
 増えている銀行が多くなっています。


 このような状況において中小企業へのモラトリアムを認めてしまうと、
 返済できないままに倒産する中小企業が出てきたら、今度は銀行が
 大きく傷つくことになります。その時、金融担当相としてはどのよ
 うに対処するつもりなのでしょうか? 私には全く理解できません。


 そもそも法律として定められていない「支払猶予制度」(モラトリアム)
 について、安易に口にするべきではありません。


 つい昨日まで地元の広島で人気取りをしていた気分が抜けていない
 のでしょう。


「借りたお金を返さなくても良い」と言えば、一部の人からは熱狂
的な支持を得られるのは当たり前です。このような票田の集め方を
見ても、実に“自民党らしい”方法だと私は感じますし、国民が
 期待する民主党の在り方とは大きくかけ離れていると思います。


 私は90年代から多くの日本の政治家を見てきましたが、分類してみると


「困る人(周囲を困らせる人)」
「能力がない人」
「少しは期待できる人」


 の3種類しかいません。私に言わせれば、亀井氏は
 「困る人(周囲を困らせる人)」の代表格です。


 原口総務相が「持ち株会社と郵便局会社、郵便事業会社を一緒にする」
 と表明したことに対し、亀井氏は「原口さんに権限はない」と語り、
 郵政事業の見直しを自ら主導する姿勢を鮮明にしたとのことですが、
 これなども無意味に同僚との軋轢を大きく広げていると私は感じます。


 民主党としては今回の総選挙の勝利において、国民に期待されて
 いることは何であるのかをもう一度認識してもらいたいと思います。
 正直このまま亀井氏が暴走してしまうと、厄介な事態になるのでは
 ないかと私は危惧しています。


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