大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON277 新しい国づくりができるか!?~鳩山新政権誕生への期待と不安~大前研一ニュースの視点~

2009年9月4日

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民主党・鳩山代表
寄稿論文に対し批判相次ぎ
日米安保
核密約文書 日本政府が公開中止要請
FTA問題
JA全中 民主党・小沢氏に抗議
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●米国との関係性は、倦怠期の夫婦関係のごとく


 民主党の鳩山代表が27日付の米ニューヨーク・タイムズ紙
(電子版)に寄稿した論文をめぐり、米国内に波紋が広がって
います。


 「米国主導」の世界経済の体制を批判的にとらえ、アジア中心
 の経済・安全保障体制の構築を強調した内容が、米側の目には
「現実的でない」と映るとのことです。


週末の総選挙で大勝し、鳩山代表が首相になることは間違いない
 と思います。ただ首相になる身であればこそ、今回米国から批判
 を受けている点については、事前にもう少し考慮してもらいたかった
 と私は感じます。


「米国中心の世界経済体制が昨年からの世界的な経済危機を引き
起こす原因となった」という内容までなら米国もここまで反応
しないでしょうが、「アジアの共通通貨を作る」というのは明らかに
米国を刺激してしまいます。


 基本的に、米国と距離を置くという考え方は正しい、と私も思います。
 ただし、それを米国に正面から主張してはいけません。


 拙著「最強国家ニッポンの設計図」の中でも述べていますが、
 例えるならば米国との関係性は「倦怠期の夫婦関係」のような
 ものとして維持するべきだと思います。そのうちに少しずつ
 米国以外の国との関係性を深めていくようにするのです。


 この点については、私は「最強国家ニッポンの設計図」の中で
 わざわざ1章分を割いて説明しました。理由は簡単です。


 これまでの歴史を振り返って見ても、明確に米国から距離を置
 くという意思を示した人は、必ず米国からの強い反発を受ける
 からです。


 バッシングや批判を受けるだけでなく、時にはスキャンダルを
 リークされることもあります。


 最も代表的な例は、田中角栄氏でしょう。いわゆるロッキード
 事件と呼ばれるスキャンダルは、米国の上院多国籍企業小委員
 会(チャーチ委員会)における公聴会にて発覚していますが、
 背景には米国の意図が隠されていたと私は見ています。


 また、田中角栄氏ほどではありませんが、アジア共通通貨など
 を含む構想「宮沢プラン」を掲げた宮沢喜一氏も、米国から
 激しいバッシングを受けました。


 正直に言って、鳩山代表がここまで政治的な判断ができない人
 だとは思いませんでした。


 鳩山代表は、大学・大学院で計数工学を専攻し、学者としても
 活動されていたようですが、今回の寄稿論文を見ていて感じるのは、
 まさに「学者の立場であり、政治家としての立場をわかっていない」
 ということです。


 この点については、麻生首相のスタンスを見習ってもらいたい
 と私は思います。


 麻生首相も、外務大臣の頃には「自由と繁栄の弧」という本ま
 で出版し、トルコやカザフスタンから日本に至るまでの
「拡大大東亜共栄圏」のような構想を発表していました。


しかし、首相になった途端、一切口にしていません。首相の
 立場でそのようなことを言えば、中国や米国から激しいバッシング
 を受けることを分かっているからでしょう。


 鳩山代表にも、「首相(政治家)の立場としてどのように外交に
 臨むべきか」という点について、今一度再考していただきたい
 と思います。


●外務省改革、農業改革、に着手して欲しい


 前回紹介した、私が2003年に自民党から依頼されて執筆した
 マニフェストの中でも述べていますが、日本が抱える最大の問題は
「行き過ぎた中央集権」による強い権限をもつ官僚制度です。


「核密約」についての公文書の存在について米国と揉めている
ようですが、これなども日本の外務省の対応がお粗末過ぎる
一例だと言えると思います。


 60年の日米安保条約改定に伴う「核密約」に関する米公文書を
 非公開とするよう、日本政府が米国に要請していた問題で、
 外務省の児玉和夫・外務報道官は26日の記者会見で「米政府と
 の個々のやりとりについては、その有無も含めて、米政府との
 信頼関係にもかんがみ、お答えすることは差し控えたい」と
 述べたとのことです。


 政権が交代してもこの問題は引き続き議論の対象となるでしょう
 が、民主党政権にはぜひ外務省の改革に着手してもらいたいと
 思います。


 今回の外務省の主張を端的に表現すれば、「日本政府はこれからも
 “とぼけ続ける”方針なので、情報公開法で時効になったとはいえ、
 米国も公開しないで欲しい」というものです。これが日本の外交的な
 正式対応とは情けない限りです。


 あまつさえ、72年の沖縄返還に伴って日米間で交わされたとされる
「密約文書」をめぐる情報公開訴訟においては、元外務省側の立場に
いた吉野氏(元外務省アメリカ局長)に「(密約文書の)写しは
 とったと思う」という指摘を受けているというのですから、
 目も当てられません。


 26日、全国農業協同組合中央会(JA全中)は、民主党の小沢一郎
 代表代行が、「日米自由貿易協定(FTA)推進への反対」を批判
 したことについて抗議声明を発表していますが、私はここでも
 民主党に活躍して欲しいと思います。


 今回の「小沢氏VS JA全中」の争いについて言えば、小沢氏に
 対してJAがあれだけ反発しても、今回の総選挙では問題なく
 議席が取れたのは「小沢氏の勝ち」だったということです。


 これを契機に、ぜひ民主党としてJA全中を完全に解体する
 意気込みで臨んでもらいたいところです。


 日本の農業には、専業の農民が冷遇されているという問題が
 あります。


 だから、日本では専業農民の人口が縮小してしまうのだと思い
 ます。


 その一方で、収入の2割くらいで農業を営む「農民まがいの利権屋」
 のような兼業農民が優遇されています。これは、相続税や固定資産税
 などの税制優遇措置を見ると明らかです。


 もし小沢氏が、JA全中を含む、こうした兼業農民の利権構造全体を
 壊すことができたなら、日本の農業を正常化することにつながると
 私は思います。


 可能であるならば、同時に農林水産省の改革も進めてほしい
 ところです。そこまで実行できれば、日本の景色が変わるでしょうし、
 自民党は永遠にこの部分には入ってこられないでしょうから、
 民主党として優位に立つことにもつながるでしょう。


 結局、JA全中や農林水産省にしても、外務省と同じように根本的な
 「体質」そのものに問題があります。部分的な改善ではなく、
 根こそぎ解体するくらいの改革を実施しなければ意味がないと
 思います。


 JA全中から批判を受けても、小沢氏は「相手にする必要がない」
 と述べていたそうですが、これはまさに見識です。ぜひその勢い
 のまま、日本の農業の改革に着手して欲しいと思います。


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