大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON275衆院選直前特別企画第2弾!~マニフェストを「マジメ」に受け止める必要がない~大前研一ニュースの視点~

2009年8月21日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
選挙戦
民主党マニフェスト
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●マニフェストを「マジメ」に受け止める必要がない


 「野党第一党として政権を担当する」そう公言して憚らなかった
 民主党によるマニフェストが発表され、世間では色々な意見が
 あるようです。


 実現できるのか?
 あるいは、仮に実現したとして本当に日本を変革しうるのか?
 というような疑問を感じている人もいるでしょう。


 ですが、私に言わせれば、マニフェストが発表されたところで、
 それを「マジメに」受け止める必要はないと思います。


 確かに形式的には、我々国民はマニフェストを参考にして投票
 するということになっています。


 しかし、実際は違います。例えば、前回4年前の総選挙の際
 自民党に投票した人は、マニフェストに賛同したから投票した
 のでしょうか?


 私は必ずしもそうではないと思います。
 なぜなら、もしマニフェストに賛同したというのが最も大きな
 理由であったなら、もっと怒れる国民で溢れかえっているはず
 だからです。


 結局この4年間を振り返れば、マニフェストで発表されたこと
 など、すっかり忘れられてしまっています。


 おそらく今回の民主党にしたところで全く同じです。さらに言えば、
 マニフェストの内容そのものに目を向けても、むしろ「忘れられた
 ほうが良い」と言うほどお粗末なものだと私は思います。
 何よりも、マニフェストとしての大前提・体裁が整っていません。


 例えるならば、「七夕の短冊」のようなものです。民主党の有力
 議員がそれぞれ好き勝手に思いつきを述べたものを、誰かが中
 心となってまとめるでもなく、単につらつらと書き綴っただけ
 の「アイディア集」です。


 皮肉なことに民主党自身が「インデックス2009」と記している
 ように、まさに「インデックス=索引」にしか成り得ないでしょう。
 そこには、民主党としての哲学・考え方というものが全く感じ
 られません。


 そもそも今の民主党の内情を考えてみれば、一貫した哲学や
 考え方を求めること自体が難しいというのも事実かも知れません。


 社会党左派、日教組などの労組出身者、自民党からの脱落組、
 さらには田中真紀子元外相まで所属する状態です。組織として
 一貫性を保つことなど、不可能に近いでしょう。


 重要なことは、今回のマニフェストにしても、どうせ選挙が
 終われば忘れられる存在だということです。


 前回の自民党のマニフェストを未だに記憶していて、実現され
 ていないことについて追及した野党もいなかったように、歴史
 は繰り返されると思います。


 総選挙前にマニフェストが世間の注目を集めるのは、政治評論
 で生計を立てている政治学者の人たちにとっては活躍の場と
 いうことになりますし、マスコミでも話題にできますから、
 そういう意味では価値はあるのでしょう。


 しかし私に言わせれば、我々国民にとってはマジメに考える
 必要はないものですし、識者と呼ばれる人たちが議論を戦わせ
 ているのもムダなことだと思います。


●高速道路の無料化?民主党の哲学のなさが露呈した


 民主党のマニフェストには哲学がないために、一部に評判が
 悪いということになると、すぐに意見を変更することがあります。
 こういう姿勢を見ていると、本当にだらしないと感じてしまいます。


 13日、民主党の岡田克也幹事長は、衆院選マニフェストに盛り
 込んだ高速道路の無料化について「首都高速道路、阪神高速道
 路は無料化するつもりはない」と明言したとのこと。


 マニフェストには「原則無料化」と記載し、無料化の対象とな
 る路線や区間を明示していなかったということですが、幹事長
 がこれでは情けない限りです。


「30兆円もある道路公団の赤字をどう返済するのか?」という
 指摘や、「首都高速や阪神高速を無料にするとCO2の発生が
 多くなる」という一部の学者からの指摘を受け、それによって
 意見が左右されたのでしょう。


 これなど、いかに不勉強で、自分たちの哲学・考え方を持って
 いないかを露呈したようなものです。


 学者が指摘するCO2問題は、おそらく短期的な現象であり、憂慮
 すべき事項ではありません。一時的に無料化するだけなら、
 その期間に利用が集中するでしょうが、永続的に無料となれば、
 いずれ大きな波は落ち着きます。ですから、将来にわたって
 CO2の大量発生を問題視するなど私からすれば不思議でなり
 ません。


 また首都高速や阪神高速の無料化については、
 「首都高速や阪神高速こそ無料化すべき」だと私は思っています。


 首都高速や阪神高速は、確かに交通量が多く混雑します。
 だからこれまでは、有料化にすることで一般道路との均衡を保って
 きたわけですが、行政はさらに次の段階を考えるべきです。


 高速道路も一般道路も無料ということになれば、一時的に高速
 道路が混雑するかも知れませんが、必ずどこかで高速道路と
 一般道路の利用は均衡します。「どちらの方が得か?」ということを、
 一般の人が判断し始めるからです。


 その上で、例えば、首都高速について言えば、現在の2車線ずつの
 路線から片側4車線に変更するというのは非常に有効だと私なら
 考えます。


 首都高速は周りの16車線から2車線へと集約されるという設計に
 なっていて、これが混雑の原因だからです。


 片側4車線にすれば、現在よりも遠回りになる地域が出てきま
 すが、そういう時こそ一般道を使えば良いのです。どちらも
 無料であれば、このような形で均衡が生まれてくると思います。


 もちろん、単に無料化するだけでは知恵がありません。私は
 以前から、「プレート課税」という代案を提言していますが、
 約30兆円と言われる道路公団の赤字を返済する方法を同時に組
 み込むべきですし、それを考えるのは当然のことだと思います。


 他人に言われたらコロコロと意見を変えるというのではなく、
 民主党として一貫した自分なりの哲学・考え方をしっかりと
 持ってもらいたいと強く感じます。


 そして、マニフェストとしての最低限の体裁・大前提くらいは
 整えていただきたいところです。


 次週は、自民党のマニフェストについてと私が考えたマニフェスト
 について意見を述べたいと思います。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点