大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON272 キリン・サントリー統合~統合は市場にどのような影響をもたらすか?~大前研一ニュースの視点~

2009年7月24日

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食品・飲料大手
キリンとサントリー
経営統合へ
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●キリンとサントリー統合の障壁となるのは?


 14日、食品最大手のキリンホールディングスは、2位のサント
 リーホールディングスと「経営統合へ向け交渉の初期段階にあ
 る」と発表、交渉入りを正式に認めました。


 両社は持ち株会社の統合案を軸に調整を進め、年末にも合意、
 来春以降、経営統合に踏み切るとのことです。


 両社が統合すると、世界でも最大級の食品・飲料メーカーが誕
 生することになります。日本国内の注目度はかなり高いようで
 すが、私としては幾つか懸念している点があります。


 まず、「統合比率」をどのように決めるかという点です。今回の
 ニュースが発表されてからキリンの株価が上昇しています。


 これはサントリーが非上場会社のため、サントリーに対する魅
 力・期待値も含めて、キリンの株価に反映されたと見て良いと
 思います。両社が統合するときには、その統合比率を計算する
 ことになります。


 すでに株価が上昇したキリンにとっては、ある意味、有利な条
 件になる可能性が高いでしょう。


 一方、サントリーは非上場のため市場価格がついていませんから、
 自ら評価・算定する必要があります。おそらくDCF法
 (Discounted Cash Flow法)などを用いて企業価値を算出する
 ことになると思いますが、不利な立場にあることは変わりません。


 サントリーの佐治社長は「対等の立場」を強調していますが、
 この点について両社がどのような妥協点を見出すのか? 
 これは、解決しなければならない問題の1つだと思います。


 またもう1つ、統合過程の中で私が懸念しているのは、両社の
 カルチャーの違いです。


 この数年間でキリンという会社は、いわゆる欧米型の合理的な
 会社に生まれ変わりました。


 業界でいち早くEVA(経済的付加価値)などによる緻密な収益
 管理を導入し、オーストラリアを始め海外で積極的に買収を重
 ね、どんどん世界へ進出するという動きを見せています。


 一方のサントリーは、比較的「おっとり」している会社だと思
 います。


 サントリーホール、サントリー美術館、サントリーミュージア
 ム、サントリー音楽財団、サントリー文化財団を運営するなど、
 文化事業にもかなり力を入れています。


 こうした事業も、サントリーが非上場会社であれば誰からも文
 句を言われることはないでしょうが、両社が統合するとなると
 話は変わってきます。株主総会で指摘を受ける可能性もあると
 思います。


 統合比率をどう定めるのかという点、そして正反対とも言える
 異なるカルチャーをどのように統合していくのかということが、
 キリンとサントリーが統合する上で大きな課題だと私は見てい
 ます。


●キリンとサントリーが統合しても事業シナジーは殆どない


 また根本的な問題として、両社の統合が進んだとしても、その
 拡大した規模に値するほど事業のシナジー効果が得られるか?
 という点についても、私はいささか疑問を感じています。


 確かにキリンとサントリーが統合すれば、規模だけで見ると世
 界の食品メーカーの中で第5位に躍り出ることになります。


 しかし、どちらも国内市場に強いだけであり、世界のマーケッ
 トでの存在感が大きいとは言い難いのが実情です。世界の食品
 メーカーの売上高トップを見ると、


 1位:ネスレ、
 2位:ユニリーバ、
 3位:ペプシコ、
 4位:クラフト・フーズ


 いずれも世界的な規模で活躍している会社です。


※「世界の主な食品メーカーの売上高(08年度)」チャートを見る


 これらの会社と統合するならば、世界の食品マーケットに対し
 ても影響力は大きいでしょうが、キリンとサントリーが統合す
 るだけでは、日本国内で圧倒的なナンバー1になるだけで終わ
 りです。


 世界の食品マーケットには殆ど影響はないと私は思います。
 そういう意味では、「何のために統合したいのか?」
 私にはよく理解できません。


 さらに言えば、日本国内のマーケットにおける影響も、それほ
 ど強くないのではないかと私は思います。確かに企業規模は圧
 倒的になりますが、お互いに弱いところを埋め合うような事業
 シナジー効果があまり見えてきません。


 ビール市場を見ても、キリンがサントリーと統合することでア
 サヒを圧倒できるとも思えません。


 サントリーはウイスキー市場に強みを持っていますが、キリン
 にも「シーバスリーガル」というブランドがありますし、何よ
 り市場が縮小していくのは間違いありませんから、大きな期待
 はできないでしょう。


 お茶などのドリンク市場ではシェアが拡大する可能性はありま
 すが、双方のブランドが争っていることで良い相乗効果が生ま
 れているとも言えます。


 統合されれば逆効果になる可能性もあるかも知れません。また、
 流通コントロールという点に目を向けても、すでにどちらの会
 社も強力な流通網を作り上げていますから、大きなシナジー効
 果を生むとは思えません。


 ただ非上場を貫いてきたサントリーが他の企業との統合に向け
 て動き出したということは、サントリーの佐治社長はかなりの
 危機感を持っていたのだと思います。


 そして、キリンを選んだというのは、「やるからにはとことん世
 界と戦いたい」という意思表示だと私は感じました。


 これまで見たように課題は山積していますが、今後、世界のマ
 ーケットの中で活躍するために、キリンとサントリー統合後の
 「絵」をどのように描いていくのか、注目していきたいと思い
 ます。


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