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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON262 米オバマ大統領の就任後100日間の評価~誠実に公約を守り「信頼感」を具現化~大前研一ニュースの視点~

2009年5月1日

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米核戦略
核戦略見直しを発表
オバマ大統領の「信頼感」の具現化
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●公約を守ることで、国民からの信頼感を得る


 23日、米国防総省から、核戦略の基本指針として2002年に策定
 した包括的報告書「核体制の見直し」を8年ぶりに更新する方針
 が発表されました。


 核体制の見直しというテーマは、米オバマ大統領が選挙キャン
 ペーン中から公約として掲げていたテーマの1つでした。米オ
 バマ大統領を評価すべき最大の理由の1つが、ここにあると思
 います。


 2009年5月4日号のTIME誌でも、「100Days」というタイトルで
 米オバマ大統領の就任後100日間の評価について、大絶賛する
 記事が掲載されていました。


 私もこれには賛同です。歴史上最も厳しい条件の中で大統領に
 就任し、最初の100日間で実行したことを考えれば納得できる
 と思います。


 まず、経済問題への対策です。GMやクライスラーへの対処は
 若干遅れていますが、金融機関への公的資本の注入など、全体
 として大風呂敷を広げて見せたのは効果的でしょう。


 例え「見せ金」であっても、それがなければ米国経済はパニッ
 クに陥っていた可能性が高いと思います。


 敢えて言えば、私としては米国政府の公的資金を使うのではな
 く、最初から流動化に焦点を当てて世界から資金を集めてくる
 という方法がより望ましかったと考えています。


 しかし、一応パニック状態は落ち着きましたし、今後損失が出
 るにしても、その目処が立てられる状況になったのは十分に評
 価しても良いと思います。


 その他、政治・外交面でも、米オバマ大統領は選挙キャンペー
 ン中に公約として掲げていたことを次々と実行に移しました。


 話し合いを中心に進めていくと述べていた「パレスチナ問題」
 「キューバ問題」「ベネズエラ問題」など、いずれも公約どおり
 です。


 いずれの対応を見ても、誠実に公約を守り、それを態度で示し
 ているのは立派ですし、これまでの米国政府からは想像できな
 い対応だと私は感じています。


 最近、やや支持率は下がり始めていますが、未だに高い水準を
 保てています。これは「公約(約束)を守る」という「信頼感」
 があるからだと思います。


●誠実な姿勢や信頼感が、世界経済の建て直しにも必要になる


 今月5日、米オバマ大統領は訪問先のチェコ・プラハで「核な
 き世界」というテーマで核軍縮演説を行いました。


 演説の中で、核兵器の備蓄量削減にあまり積極的とは言えな
 かったこれまでの米政権とは明らかに「違う姿勢」を見せており、
 この点についても大きな「信頼感」を獲得することに成功したと
 私は思います。


 またそれを受けて、20日には米国エネルギー省が使用済み核燃
 料再処理施設と再処理で取り出したプルトニウムを燃やす高速
 炉を米国内に建設しない方針を明らかにしています。


 これは使用済み核燃料再処理にあたって、プルトニウムを抽出
 できないようにすることを目的としています。


 現在採用されている核燃料再処理の方法は、ウランの酸化物と
 プルトニウムの酸化物を共沈させることで、プルトニウムだけ
 を抽出できないようにするというものですが、この方法では
「やる気」になればプルトニウムを抽出できてしまいます。


 実は、日本は北朝鮮の約1000倍にあたる30トンものプルトニ
 ウムを保有している国です。


 今まさに、日本は国内で核燃料再処理ができる体制を整えよう
 としているのですが、今回の米国の方針転換によって、日本に
 対しても国内でプルトニウムを抽出することに圧力がかかる可
 能性があると思います。


 また今は米国内で大きな波紋を呼んでいるものの、最終的には
 米オバマ大統領への「信頼感」を増すことになるだろうと感じ
 たのが、ブッシュ前大統領時代の機密文書を公開したことです。


 これは、CIAがテロ容疑者に「水責め」など国際社会では拷問
 とされる過酷な尋問を行った証拠文書になります。


 機密文書を公開すると同時に米オバマ大統領は、拷問を実行し
 た当人の責任は問わないと述べています。


 責任を取るべきなのは、彼らに拷問を命令した人間であり、命
 令に基づいて行動した人間に責任を取らせるべきではないとい
 う意向を明らかにしています。


 ブッシュ前大統領時代、イラクで同じようなことが行われたと
 きには、拷問を実行した人が裁判にかけられましたが、それと
 は明らかに違う姿勢を示しています。


 チェイニー前副大統領の尋問まであるのではないかと噂されて
 おり、波紋はかなり大きなものになっていますが、米国民の心
 理としては「当然」だと感じていると私は思います。


 一貫して誠実な姿勢を示しつつ、大統領に就任して100日間の
 うちに次々と公約の実現に向けて動き出したのは、過去にも例
 がないほど見事な手腕・業績だと言えるでしょう。


 一見当たり前のことのようですが、極めて重要なことです。政
 治・外交だけでなく、世界的な大不況に見舞われている経済を
 立て直すにも、「誠実な姿勢」「信頼感」という要素は絶対に
 必要なものだと思います。


 個々の方法には若干の問題があっても大きな枠組み・方向性を
 間違えずに、そして公約を守り誠実な態度を示し続けている米
 オバマ大統領を見ていると、学ぶべきことは非常に多いと感じ
 ます。ぜひ、日本の政治家も見習ってもらいたいところです。


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