大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON258 心理経済学とは似て非なる「税制改正」~資産そのものに課税し公平な税制度をめざせ!~大前研一ニュースの視点~

2009年4月3日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
税制改正
贈与税軽減策の検討を示唆
自民党・津島税調会長
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●若い世代に資産を譲ること自体が景気刺激になる


 22日、自民党の津島雄二税制調査会長は、「スムーズな世代間
 の資産交代をやることの中から、新しい需要を喚起していく可
 能性はある」と述べ、贈与税の軽減策について追加経済対策で
 検討する考えを明らかにしました。


 麻生首相も、高齢者から若い世代への資産の移転を促すために、
 住宅取得や自動車購入などを条件としつつ、数年間に限った贈
 与税の減税について検討する価値があると述べています。


 麻生首相の見解を聞いて、私が提唱している「心理経済学」に
 近い発想だと感じた人も多いようですが、私自身は「似て非な
 る」考え方だと感じています。


 住宅取得や自動車購入など何らかのお金を使うことを条件とし
 て贈与税の免除対象にする、というのが麻生首相の考え方です
 が、私は違います。


 私は住宅取得や自動車購入など条件をつけるべきではないと考
 えています。なぜなら、心理経済学という立場から言わせても
 らうなら、「若い人がお金を持っていれば絶対に使うから」です。


 若い世代の人は、年配の人のように余っているお金を無意味に
 溜め込んだりしないでしょう。お金さえ持っていれば、自動車
 でも家でも購入するでしょうし、自己投資もすると思います。


 遺産相続で揉めてしまうのも、年配の人が最期までお金を持ち
 続けてしまうからです。生きているうちに余っている資産を若
 い世代に渡してしまえば、こうした揉め事もなくなるでしょう
 から一石二鳥です。


 相続税や贈与税を免除してもらうためにお金を使わせることが、
 景気を刺激するのではなく、若い世代に資産を持たせることが
 重要なのです。


 だから、数年間限定で構わないので特に条件などは設けずに「相
 続・贈与税」の免除を実施するのが最も効果的だと、私は思って
 います。


 実は、米国では来年、相続・贈与税がゼロになります。ブッシュ
 前米大統領の頃から継続している政策で、段階的に相続・贈与
 税を引き下げてきており、来年ちょうどゼロになるのです。


 再来年以降、再び税率は高くなりますから、来年の景気刺激と
 いう意味ではかなり効果が高いでしょう。


 米国経済の舵取りに苦しんでいるオバマ米大統領にとっては、
 思わぬ援軍になると思います。


●税制度として重要なのは、公平かつ中立であること


 現在の相続・贈与税は懲罰的な印象が強いと言えます。「免除」
 などという単語が使われるのも、そのせいでしょう。私はこの
 懲罰的な考え方自体を改めるべきだと思います。


 具体的には、相続・贈与税をゼロにして、その代わり固定資産
 税のように資産価値そのものに課税すれば良いと考えています。


 固定資産であれ金融資産であれ、「資産」を持っている人に課税
 するという考え方です。


 例えば、現在は金融資産への課税では、利子など保有資産から
 生じる所得に対してのみ課税されますが、金融資産を1千万円
 保有しているなら、その1%に当たる10万円を課税対象にします。


 また、相続や贈与が行われる場合にも、相続や贈与に対して課
 税するのではなく、「資産」を受け継いだ人が税金を支払うこと
 にするのです。


 相続・贈与税の免除対策として、意図的に借金を抱え込むこと
 をアドバイスする人がいます。


 例えば、土地を多く所有している場合に、その土地に借金をし
 てアパートを建設する節税対策があります。


 しかし、借金をした途端に地価が下がってしまい、最終的に相
 続した時には借金だけが残ったなどという悲惨な目に遭ってし
 まうケースもあります。資産課税にすれば、このようなことも
 起こらなくなると思います。


 かつて西武鉄道グループの元オーナー・堤義明氏が、日本中で
 43兆円分の土地を保有していた時代がありました。


 しかし43兆円分の資産を保有していても、それは課税対象で
 はありませんでしたから税金はゼロだったのです。私には公平
 な課税制度とは思えません。


 例えば、43兆円の資産に対して1%を税金対象とし、納税額は
 4300億円。もしそれを支払いたくないなら土地を手放してくだ
 さい、という方が余程公平で中立だと思います。


 そもそも、創意工夫をすると税金を払わないで済む方法がある
 ということ自体、税制度としておかしな話だと思います。税制
 度というのは、公平かつ中立であるべきです。


 今、自民党の中で議論されている内容では、考えるべきポイン
 トが違うと思います。自動車や住宅を買ってくれたら、代わり
 に相続税を免除しよう等というレベルで話が終わっていてはダ
 メなのです。


 年配の人はいち早く資産そのものを若い世代に渡し、同時に資
 産をどのようにマネージしていくかを教えるという構造が理想
 です。


 それを作り出すために何をするべきか、そして根本的に税制度
 として重要なポイントは何なのか、という点をぜひ考え直して
 もらいたいと感じます。


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点