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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON256 英ロイズ、実質国有化へ~「2008年危機」を教訓とし将来に活かせ~大前研一ニュースの視点~

2009年3月19日

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英ロイズ 実質国有化へ
資産保証制度の適用申請
不良資産:約2600億ポンド
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●将来「2008年危機」を教訓にするために


 7日、英大手銀ロイズ・バンキング・グループは約2600億ポンド
 (約36兆円)の不良資産について、将来発生する損失の大半を
 英政府が肩代わりする資産保証制度の適用を申請すると発表し
 ました。


 また配当負担を軽減するため昨年に政府が引き受けた優先株を
 普通株に転換することでも合意。英政府の株式保有比率は現在
 の43%から65%まで高まります。


 政府の株式保有比率が65%に達するということは、実質国有化
 されたと言っても差し支えないと思います。


 英主要行の株価推移を見ると、見事にロイズの株価が地面スレ
 スレに落ち込んでいるのが分かります。一方、スタンダードチ
 ャータードとHSBCの株価は比較的落ち着いています。


※「英主要行の株価推移」 チャートを見る
  


 新興国市場に強みを持つスタンダードチャータードは中国銀行、
 香港上海銀行と並んで香港ドルの発券銀行として有名ですが、
 この不況下において収益を出しており、特に調子が良い状態が
 目立っています。


 それほど大きな規模ではありませんから英国経済全体を救済す
 るわけにはいきませんが、これだけファンドがひっくり返って
 いるご時世に立派なことだと思います。


 また、全ての金融機関が総崩れしてしまうのではなく、この世
 界的な金融危機であっても上手く不況を乗り越えた事例がある
 というのは後世にとって価値があると思います。


 現代において私たちが「1929年危機」を語るのと同様、将来
 「2008年危機」と語られる時代が必ず訪れます。


 そのためにも、スタンダードチャータードのような銀行を深く
 研究する必要があると私は思います。


 今のスタンダードチャータードの成功への分岐点となったのは
 何か、「誰がどういう時期に何を決断していたのか?」というこ
 とは非常に意義深い研究内容になるでしょう。


 同様に、PIMCOグループの堅実な資産運用手法(方針を削除)を
 研究するのも価値があると思います。


 また一方では、AIGがいかにして世界の金融システムを混乱させたか
 という点も見逃すべきではありません。


 このような代表的な事例の1つ1つを研究し、そこから知恵を
 得て、それを将来に活かせる形にしていくこと。それがこの世界
 的な金融危機を実際に経験している現代人の務めだと私は思って
 います。


●経済学者や役人は何十年分もの経済学を学び直せ


 実はこのようなことについて、私はすでに拙著「新・資本論―
 見えない経済大陸へ挑む」の中でも指摘しています。


 これからの経済を捉えるには、「ボーダレス経済」「サイバー経
 済」「マルチプル経済」の3つの経済について理解すること、そ
 して「マルチプル経済」が世界の金融秩序を乱す可能性がある
 ので、そこには厳然たる「discipline(秩序)」が必要だと述べ
 ています。


 マルチプル経済においては、IT によって可能になった新しい
 ビジネスモデルによって、従来では考えられなかったようなス
 ピードで企業が急成長し、それに釣られて世界のマネーがIT産
 業に集中します。


 そして、その担い手となる企業が、数式上の仮説に基づいて株
 価収益率(PER)・ヘッジング・デリバティブなどのテクニック
 を使って資金を調達し、世界市場を動かしていきます。


 このような経済の下では、新興企業であるライブドアがフジテ
 レビに対して買収を仕掛けるようなことが可能になりますが、
 そこに「秩序」が欠けているとこれまでの常識を超えた規模で、
 しかも倫理観が伴わない合併や吸収が実現するリスクがあります。


 現在の金融危機への対応という意味でも、この考え方は適用できます。


 マルチプル経済のリスクを考慮し、それを抑制しつつ、一方で
 ボーダレス経済、サイバー経済を否定することなく対応するこ
 とが必須だと思います。


 さらに従来の古いマクロ経済学の考え方を使うのではなく、「心
 理経済学」の考え方を活用しなくてはいけません。


 私は「新・資本論」の中で、「ボーダレス経済」「サイバー経済」
 「マルチプル経済」という3つの経済を提唱し、その後、先進国の
 場合には国民の心理が重要なファクターになるという「心理経済学」
 の重要性を一貫して主張してきました。


 しかし現状を見渡してみると、経済学者の中にも役人の中にも
 「心理経済学」どころか「ボーダレス経済」「サイバー経済」
「マルチプル経済」という3つの経済のことさえまともに理解して
 いる人は殆どいないと思います。


 だから未だに、「金利の上げ下げ」や「マネーサプライの増減」
 によって経済をコントロールしようとするのでしょう。


 今、私たちが経験している「2008年危機」という問題を研究し、
 将来に活かしていくためには、私が提唱する「3つの経済+心
 理経済学」という考え方を理解しておくことは必須でしょう。


 私に言わせれば、今の経済学者や役人の「経済学」に対する認
 識は何十年も「時代遅れ」になっています。


 それを取り戻すには、それこそ何十年分もの経済学を一気に勉
 強するという気概も必要だと思います。


 今さら経済学者や役人がこのようなこと基礎的なことから勉強
 し始めなくてはいけないという現状に、私は焦りすら感じてい
 ます。


 ぜひ、経済学者や役人の方にはこの経済危機を良い題材にして
 きちんと研究してもらいたいと強く願っています。


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