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〔大前研一「ニュースの視点」〕#126 企業買収、累計7兆8千億円。TOBが3兆円を占める。

2006年8月22日

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 企業買収、
 累計7兆8千億円。TOBが3兆円を占める。
 日常的な経営手段としてM&Aが浸透
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●日本のM&A・TOBは、第1段階の幼少期を迎えたばかり


M&Aの市場が累計7兆8千億円を超える規模に成長し、
日本でも日常的にM&AやTOBという言葉が
ニュースで取り上げられる機会が増えてきました。


しかし、ニュースなどの話題には上るものの、
日本においては日常的な経営手段として
M&Aが正しく活用されている段階まで
まだ達していないというのが私の意見です。


例えば、紳士服チェーン大手のAOKIホールディングスが、
同業のフタタに対して仕掛けたTOBが最たる例と
言えるでしょう。


構図としては、業界売上高2位AOKIが仕掛けたTOBに対して、
同4位でフタタの筆頭株主でもあるコナカが
反発するという形です。


私に言わせれば、AOKIとコナカが、わざわざ
フタタをめぐって争っていること自体が
経営的に見てナンセンスであり、
争う意味が感じられないのです。


紳士服業界は、売上高2000億強を誇る青山商事が
ダントツの1位です。


AOKIは約1000億円強の売上高で、
青山商事に次ぐ2位に位置しています。


AOKIは、関東・中部の店舗数では青山商事に
匹敵していますが、西日本の店舗数で
大きく水をあけられている課題があります。


その対策の一環として、九州に業界随一の店舗数を
持つフタタに目をつけた戦略といったところでしょう。


しかし、もしAOKIがフタタのTOBに成功して、
フタタを傘下におさめたとしても、
青山商事を筆頭にした業界の構図としてみれば、
「大勢に影響なし」といったところです。


なぜなら、フタタは売上高100億円強・利益1億円強の
規模の企業だからです。


AOKIとフタタのM&Aが成功しても、青山商事に
手が届かないのは火を見るより明らかです。


しかも、AOKIがTOBを仕掛けたことで、
フタタの株は急上昇しています。


それだけのコストをかけてまで、このM&A・TOBに
踏み切る理由があるのか私は疑問を感じます。


この例を見てもわかるように、日本においては、
まだまだ日常的に正しい経営手段としてM&A・TOBを
使いこなしているという段階ではありません。


アメリカの20年前と同じ状況と言えるでしょう。
M&A・TOBというと、話題性だけでマスコミも取り上げて
くれますし、それだけで経営者も自分が何かやっている気に
なってしまうという状況です。


まだ日本のM&Aの歴史は第1段階が始まったばかりですから、
各企業が経験を増やして、1歩1歩着実に学び、
ノウハウをためていくことが大切だと思います。



●M&AやTOBは100社買収して、ようやく1人前の経験値になる


私の経験から言えば、M&A・TOBのノウハウを蓄積する
という意味では、100社くらいの買収経験をして、
ようやく1人前のレベルになるというくらいだと思います。


M&Aの成功率は約5割以下です。
これを高いと見るか低いと見るかは立場によって
違うと思いますが、この確率でも100社くらいの買収経験を
積んでほしいところです。


1社や2社のM&Aに上手く行かなかったからといって、
諦めていてはいけないと私は思います。


日本より先を歩く世界の企業は、苦い経験を数多く積んで、
M&Aのノウハウを自分のものにしてきました。


例えば、GEは70年代にオーストラリアで鉱山の開発・採掘・
販売を手がけるブロークン・ヒル・プロパティ(BHP)を
買収しました。


そして、原子力、ウランにまで手を広げていったのです。
しかし、結局はうまくいかず、手放す結果になっています。


この他にも同じような苦い経験をたくさん積んでいます。


ネスレやジョンソン&ジョンソンにしても、
100社くらいの買収経験を積んでいます。


このくらいの買収経験を積んで、失敗を経験してはじめて、
M&Aを上手く活用するためのノウハウが
会社に蓄積されるのだと思います。


日本の企業に目を向けると、何回かの失敗経験で
懲りてしまって、M&Aに対して消極的な姿勢になってしまう
ケースが見受けられます。


例えば、松下電器です。


松下は、モトローラからのクエーザーの買収や、
ソニーのコロンビア・ピクチャーズ買収に対抗した、
ユニバーサルスタジオを持つMCAの買収を経験しました。


いずれも結果としては
早い段階で手放すという失敗に終わっています。


そして、これらの経験がトラウマとなってしまって、
最近ではM&Aに消極的で、どちらかというと
M&Aを苦手にする企業になっているように見えます。


しかし、松下幸之助氏の時代には、
松下はM&Aを得意とする会社でした。


白モノ家電から、鉛筆削り、自転車に至るまで、
あらゆる事業をM&Aによって吸収し拡大していました。


当時はM&Aという言葉がなかっただけで、
松下の事業の半数近くはM&Aによって吸収したと言っても
過言ではないと思います。


それらの数多くの買収経験の中で、
松下には公平な人事制度や会計処理など、
M&Aを成功させるノウハウ・制度が出来上がっていたはずです。


ところが、残念なことに
クエーザーやMCAの海外の企業の買収失敗で火傷した結果、
「羹に懲りて膾を吹く」状態になってしまったのです。


非常にもったいないことだと思います。


日本における企業買収の市場は、まだ第1段階の幼少期です。


これから成長期を向かえ、日本企業がM&Aという経営手法を
正しく使いこなすには、とにかく多くの買収経験を積むことが
重要だと思います。


バブル時代のM&A失敗経験などで二の足を踏むことなく、
どんどん経験を積んでもらいたいと思います。



                                 以上


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