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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON248 電機大手各社巨額赤字~会社に依存しない生き方を考える~大前研一ニュースの視点~

2009年2月13日

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上場製造業全体で赤字見通し
製造業588社~09年3月期決算 最終赤字1兆1299億円
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●製造業のなかでも厳しい局面を迎えている「電機業界」


 上場製造業全体の2009年3月期の連結最終損益が赤字になる見
 通しになりました。赤字転落は決算が連結中心になった00年
 3月期以降、初めてとのことです。


 確かに私がコンサルタントになって30数年の年月が経ちます
 が、その経験の中でもこのような事態は記憶にありません。


 588社もの企業の最終赤字総額が1兆を超えるということです
 から、いかに今回の不況が製造業全体にとって急激な出来事で
 あったのか、そして不況への準備が整っていなかったのかとい
 う実態が浮かび上がってきます。


 ところがその製造業のなかでも「派手」な落ち込みを見せてい
 るのが、電機業界です。


 電機大手9社の2009年3月期の連結業績見通しによると、デジ
 タル製品や半導体の急速な落ち込みで、7社が最終赤字になる
 見込み。合計の赤字額は1兆9100億円と、過去最大だったITバ
 ブル崩壊時の2002年3月期とほぼ同額になるとのことです。


 大手9社の赤字総額だけで製造業全体を上回る1兆9100億円に
 上っています。いかに電機業界が「派手」に打撃を受けている
 かが伺えます。


 大手電機各社の純利益を見てみると、日立を筆頭にして、パナ
 ソニック、NEC、東芝、ソニー、シャープ、富士通という電機
 業界の最大手7社が赤字に転落する見込みです。


 一方で、パナソニックに合併されることが決定している三洋電
 機がかろうじて赤字を免れる見込みというのは何とも皮肉な話
 です。


※「大手電機各社の純利益」チャートをみる
   


 電機業界の大手が軒並み苦労する状況の中、2009年2月2日号
 の日経ビジネス誌に「ソニー 四面楚歌のテレビ事業」という
 記事が掲載されているのを発見しました。


 私はこの記事を読んで、「ついに日経ビジネスも手のひらを返
 したか」と皮肉の1つも言っておきたい心情になりました。


 これまで日経ビジネス誌は、一貫してソニーのハワード・スト
 リンガー会長を支持する考えを表明してきました。私の記憶だ
 と2回ほど特集記事を組んでいたと思います。


 一方、私は一貫してストリンガー会長ではソニーを立て直すこ
 とはできないと主張してきました。


 ソニーという会社の精神も理解していないだろうし、放送業界
 というソフト業界出身のストリンガー会長ではソニーのハード
 部門の原点復帰を図ることは難しいだろうと、様々なメディア
 で発表してきました。


 電機業界が不況に巻き込まれ、未曾有の落ち込みを見せ始めた
 今頃になって、手のひらを返したように「ソニーのテレビ事業
 に問題がある」などと指摘し始めるのは、ジャーナリズムとし
 ていささか情けない事態だと感じてしまいます。


●副業を容認するなら、「副業専門」にするべきだ


 こうした厳しい状況の中、ついに電機大手各社もリストラ策を
 発表し始めました。


 パナソニックは2010年3月末までに国内外で正社員を含む1万
 5000人を削減すると発表。また、電子部品大手のアルプス電気
 は、今年3月までに国内外の従業員1万3000人を削減すると発
 表しています。


※「電機大手のリストラ計画」チャートをみる
  


 また一方で、富士通と東芝は、減産を実施している半導体など
 の工場の社員を対象に、副業を容認することを明らかにしてい
 ます。


 減産に伴う労働時間の短縮で賃金が減るため、例外的に認める
 とのことです。これは非常に面白い施策だと思います。


 端的に言えば、「一週間の内4日出社し、残りの3日は休み、
 その代わり給料は20%カットします」というような例になるの
 でしょう。20%の給料カットされてしまう分、アルバイトを容
 認するということです。


 今までの日本企業は就業規則で副業禁止を定め、その代わり
「一生会社が面倒を見ます」という姿勢でした。それが大きく
 変化したというのは注目するべきだと思います。


 ただ、私ならもっと大きな提案をしたいと考えます。例えば、
 中途半端に正社員のままにするのではなく、全員契約社員に
 する方が合理的だと思います。


 夫婦で働いているなら自分達で会社を設立してその会社から東
 芝や富士通に派遣されているという契約にするのです。


 給料の額は同じでも、所得税を引かれずに手元にお金を残した
 上で、パソコン代など必要経費を計上できるように認められれ
 ばかなりの節税ができ、結果的に所得の増加になるからです。


 契約社員として副業を専門として、副業の時間シェアとして
 一番大きくなっているのが東芝や富士通という体裁を整えれば、
 かなり現実的に機能すると思います。


 実際、出版業界では出版社を辞めてからライターとして活動し
 ている人の中には、このようなスタイルで働いている人が大勢
 います。


 そうは言っても、正社員でなくなるのは不安だと感じる人もい
 るでしょうが、もはや正社員でもリストラを避けられない状況
 になってきています。


 電機大手のリストラ計画を見ると、非正社員で留まっていたの
 は昨年末で終わり、今年になってから正社員にまで配置転換や
 人員削減は及んできています。


 正社員にしがみつくことだけを考えていても、いざリストラに
 あったらスキル不足で困り果てるという結果になってしまいま
 す。


 その点、契約社員として東芝や富士通などに派遣されるという
 立場になれば、自ずと緊張感が出てくると思います。


「自分は東芝や富士通に派遣されている」という意識が自分を
 磨くことにつながるでしょうし、「土日は別の会社に派遣され
 るようにしなければ」と思えば、スキルを高め、精神的にも強
 くなれると思います。


 このように仕事に対する緊張感が生まれてくるのは会社にとっ
 ても良いことですし、今回の「副業」を現実的に機能させるた
 めには必要なことだと私は思います。


 大企業に勤めている人の多くは打たれ弱い人が少なくないで
 しょうから、「サラリーマンという枠の中で副業を」という
 意識のままでは現実的には厳しいでしょう。


 オイルショックや円高など、日本はこれまでにも同じような厳
 しい事態に直面してきました。その度に、企業も個人も強くな
 ることで、1つずつ荒波を乗り越えてきたと言えます。


 今回の不況・リストラといった状況は確かに厳しいものですが、
 悲観材料として考えるのではなく、ぜひ自らのスキルアップの
 ために役立てやろうという意識を持って欲しいと思います。


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