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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON245 イスラエル軍ガザから撤退完了~事態を根本から見つめ直し、真の解決策を!~大前研一ニュースの視点~

2009年1月26日

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パレスチナ情勢
イスラエル
ガザで一方的停戦を宣言
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●イスラエルが生き残る道はどこにあるか?


 イスラエル軍は現地時間21日早朝までに、パレスチナ自治区
 ガザに侵攻していた地上部隊の撤退が完了したと発表しました。


 これにより、1300人以上のパレスチナ人が死亡した3週間にわ
 たる軍事作戦が終了しましたが、報道によるとイスラエル地上
 部隊はハマスの攻撃に備えガザとの境界のイスラエル側になお
 集結しています。


 また18日の停戦宣言後もイスラエル・ハマス双方が、相手か
 ら攻撃を受けたと主張しているなど、今後の和平に向けて依然
 予断を許さない状況が続いているとも考えられます。


* * *


 今、欧米のメディアはこの話題で持ち切りといった状態ですが、
 最近の欧米のメディア報道を見ていると少しこれまでのイスラ
 エルに関する報道から論調が変化してきているように感じます。


 2009年1月19日TIME誌には、珍しくイスラエルに対して悲観的な
 見解を示す記事が掲載されていました。


 そのタイトルは、「どうしてイスラエルが勝つことができないの
 か?(Why Israel Can't Win)」そして、「イスラエルは生き残
 ることができるのか?(Can Israel Survive?)」というものです。


 TIME誌で指摘している論旨は、次のようなものです。
「ガザ地区のような小さな地域に今のようにイスラエル人とパレス
チナ人が混在していても安定化は望めない。パレスチナ人のために、
 ガザ地区よりも大きな地域を割り当てて国を建立させるべきだ」


 非常に的を射た指摘だと思います。現在のウエストバンクやガ
 ザはイスラエルが中東戦争で占領し、その後イスラエル人が入
 植した地域です。


 そのため、非常に狭い地域の中にイスラエル人とパレスチナ人
 が霜降り肉のように混ざり合っています。そのような状況にお
 いて、各地域内で壁を作るなどして両者を分けていこうとして
 いるわけですが、それではダメだというのです。


 その理由は今後の人口増加比率を考えると、現在はパレスチナ
 人とイスラエル人(ユダヤ人)の人口は拮抗していますが、今
 後パレスチナ人の人口が圧倒的に増えてしまい、両者のバラン
 スが崩れていくからだと指摘しています。


 2008年の人口では「パレスチナ人:550万人=ユダヤ人:540
 万人」ですが、2020年には「パレスチナ人:850万人=ユダヤ
 人:640万人」になるという試算になるようです。


 確かにイスラエルの人口増加を考えると、これまでは世界各地
 に散らばっていたユダヤ人が集まってくることで人口が増えて
 きましたが、今後は同じような割合で増えていくことは考えら
 れません。


 どこかのタイミングでパレスチナ人を分けて、彼らの国を建立
 できるようにするというのは非常に現実的な施策だと思います。


●資本主義・自由主義そのものが問題なのではない


 18日、ムバラク・エジプト大統領、サルコジ仏大統領、アッバ
 ス・パレスチナ自治政府議長らがガザ問題の善後策を協議した
 とのことですが、サルコジ仏大統領はグルジア紛争の時といい、
 あちこち頻繁に顔を出しては仲裁に入っているようです。


 フランス国内は今回の金融危機の影響がそれほど大きくないた
 めに、サルコジ仏大統領としても余裕があるのだと思います。


 フットワークが軽いのは結構ですが、サルコジ仏大統領の言動
 を見ていると、思考に深みが足らず本質的なポイントを外した
 指摘が多いと私は感じています。


 例えば、今回の金融危機を踏まえて、「資本主義・自由主義その
 ものに問題があるのではないか」と言われれば、学者を呼んで
 会議を開いたりしているようですが、これは全くの的外れです。


 ポールソン米財務長官の言葉を借りれば、今回の金融危機の問
 題は「ゴルフで言えばOBの杭を自分で持って走り回っている
 ようなものだった」という点からも分かるとおり、ルールが間
 違っていたということです。


 米国の金融商品に関する厳格なルールがなく、適切性に疑問が
 ある金融商品が世界中にばら撒かれてしまったことが問題であ
 り、資本主義や自由主義そのものの問題ではありません。


 PGAルールに問題があるならば、新しいルールを策定すれば良
 いだけであって、ゴルフという競技を全面的に禁止にすること
 はないでしょう。


 学者の中にも、「もはや資本主義や自由主義が機能しなくなった
 のだ」という意見を述べている人もいるようですが、サルコジ
 仏大統領と同様、主眼を置くべき点を間違えていると思います。


 さらに言えば、キャピタリズムの時代ではなく、コミュニズム
 の時代だという意見も耳にしますが、この形態も行き着くところ、
 コミュニズムを標榜しつつも、世界で最も赤裸々にキャピタリズ
 ムを作り上げた中国のような国家になることもあるのです。


 紛争があればすぐに駆けつけるという政治的なアピールが上手
 なので、フランス国内での評判は上々のようですが、サルコジ
 仏大統領には国家のトップに立つ人として、もう少し深い思考
 をして頂きたいと思います。


* * *


 パレスチナ問題にせよ、金融危機にせよ表面的な事象にとらわ
 れていては真の解決策は見出せないでしょう。


 一見無関係なこれら2つの問題は、事態の根本を把握すること
 の重要性を再認識させてくれる良い事例といえるでしょう。


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