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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON242トヨタ自動車初の営業赤字見通し~これを契機とし着実に経営再構築を!~大前研一ニュースの視点~

2008年12月26日

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トヨタ自動車
初の営業赤字見通し
09年3月期連結業績
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●トヨタ赤字決算の原因は、無理なグローバル化


 22日、トヨタ自動車は2009年3月期の連結営業損益が初の赤字
 に転落する見通しになると発表しました。


 トヨタでは今月に入り、米国ミシシッピ州で建設している新工
 場の操業延期や富士重工業と共同開発を進めている新型の小型
 スポーツ車の生産・商品化を先送りする方針を固めており、景
 気減速の中厳しい舵取りを迫られているとのことです。


 調べてみると、かつてトヨタ自動車工業株式会社(自工)とト
 ヨタ自動車販売株式会社(自販)に別れていた工販分離の頃は
 別として、1982年に両者が合併して以来、トヨタ自動車「初」
 の赤字転落ということです。


 確かに私がコンサルタントになって既に37年~38年経ちます
 が、なるほど私の記憶する限りトヨタが赤字になったことは一
 度もありません。


 それどころか思い出されるのは、95年に1ドル79円という水準ま
 で「円高」が進み軒並み輸出関連企業の業績が悪化した際も、
 トヨタは黒字決算だったということです。トヨタという企業の凄
 さを感じた出来事でした。


 それほどのトヨタが何故赤字に陥ったのかというと、その理由
 は「無理なグローバル化」にあったと私は思っています。


 トヨタは世界各地に数多くの工場を稼動させています。トヨタ
 100%出資の工場もあれば、現地企業との合弁の工場もあります
 が、その総数は約50にのぼります。


※「世界各地のトヨタ工場」チャートをみる
 →  


いかに世界のトヨタとは言え、これだけの急速なグローバル化は
 無理があったのではないかと私は見ています。


 かつて大東亜戦争において、旧日本軍が中国大陸・東南アジア・
 太平洋の島々へと勢力範囲と戦線を急激に拡大し過ぎて失敗し
 たという事例と同じ理屈です。


 ただし、トヨタの場合には「赤字決算=経営危機」という図式
 にはなりません。これだけの設備投資をしているので、逆に言う
 と減価償却費の割合が極めて大きくなります。


 だから赤字とは言ってもキャッシュが不足しているわけではな
 く、同じ「赤字決算」でも、キャッシュフローが回らずに経営
 破綻に追い込まれる寸前である米国のGMとは全く違う状況だと
 いうことです。


●赤字決算を契機として、様々な経営体制を整えるべし


 では、今後のトヨタはどのような戦略を採れば良いでしょうか?
 まず注目すべきは、先ほど説明したトヨタの「強み」です。


 実際の手元にあるキャッシュは2兆円ほどですが、減価償却費
 が巨額なため、会計上の利益が減少し、手元に残るキャッシュ
 は増えるということです。


 この点から考えれば、競合他社に比べてトヨタは圧倒的に有利
 な立場にあります。ですから、私なら「持久戦」に持ち込むと
 いう発想をするでしょう。


 商品として質の良い自動車を作ることは勿論ですが、広がりす
 ぎている商品ラインアップを整理します。


 R&D(研究開発)も省エネカーやエコカーなどの分野は残しつ
 つ、その他の分野は数年間予算を絞ります。そして、今回の赤
 字の原因になっている世界に広がりすぎた工場も休業させます。


 ただし、体力の回復と市況の変化を待ち、回復の兆しが見えた
 らいつでも急速解凍して復旧できる準備を整えておくようにし
 ます。


 トヨタの強みを活かし、今の状況から脱するためには、こうし
 た持久戦に持ち込むことが一番堅実であり王道だと思います。
 ただ、もっと単純にトヨタを「黒字」にする方法もあります。


 それは広告宣伝費の削減です。現在トヨタは莫大な広告宣伝費
 を使っています。どのテレビ局を見ても最大の広告主はおそら
 くトヨタでしょう。


 極端なことを言えば、私なら1年間広告宣伝費をゼロにしても
 良いと判断します。


 今トヨタが全面的に広告宣伝をやめても、トヨタの名声に傷が
 つくことはないですし、ユーザーのトヨタに対する認知が劇的
 に下がることもないと思うからです。


 広告宣伝費「ゼロ」は極端に過ぎるというなら、5分の1程度
 に削減するだけでも十分です。それだけでも、黒字決算に転換
 することはできます。


 トヨタには十分な強みがありますから、こうした堅実な方法で
 十分な回復が見込めると思いますが、1つだけ私が懸念してい
 ることがあります。


 それはトヨタの発想がステレオタイプで時代遅れになっている
 のではないかということです。今回先送りとなった富士重工業
 と共同開発を進めていた新型の小型スポーツ車の生産・商品化
 についても、私は前々から懐疑的でした。おそらく、このまま
 売り出しても上手くいかなかったのではないかと思います。


 トヨタは20代の若者の車離れという状況に対して、低価格帯
(200万円以下)のスポーツカーを作ることで若者の車離れが
 戻ってくると考えているようですが、これは大きな間違いだと
 思います。


 私は日本におけるレクサスの販売でも、トヨタが若者のニーズ
 を掴みそこねているのではないかと批判しましたが、これも同
 じ発想です。もはや「若者=スポーツカー」という時代ではあ
 りません。


 トヨタが世界随一の優良企業であることは疑いありませんが、
 最近のトヨタを見ていると、セグメンテーションが不得意で、
 市場のニーズを掴みきれず、若干ステレオタイプの考え方が強
 すぎるところがあると思います。
 
 そういう意味では、今回赤字決算に陥ったことは、トヨタにと
 って頭を冷やし一息入れる良いタイミングになるでしょう。


 赤字決算とは言っても、GMのような経営危機に陥ることはな
 いでしょうから、焦らずにこの期間に様々な経営体勢を整えて
 もらいたいと思います。


 日本を代表する世界に誇れる企業として、トヨタが再び黒字転
 換して、大きく成長していくことを期待しています。


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