大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#125 ネットTV、家電大手5社 ネット接続の規格共通化

2006年8月11日

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 ネットTV
 家電大手5社 ネット接続の規格共通化
 動画などの大容量データの取り扱い
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●TV放送のデジタル化による需要拡大の方向性


松下電器産業やソニーなど、家電大手5社は2007年度中に、
インターネットに接続する規格を共通化した高機能の
ネットTVの発売を発表しました。


今後の展開として、メーカーが需要拡大のチャンスとして
想定していることは、大きく2つあると思います。


1つは、2011年7月に予定されている地上波デジタル放送への
完全移行と絡めたハード面での需要拡大です。


各メーカーは、今回発表した新型ネットTVにも、
地上波デジタル放送の受信機としての機能も盛り込んで
いくことを狙っているように感じられます。


しかし、私はこの需要拡大の予測に、
現時点では疑問を持っています。


なぜなら、そもそも放送データの完全なデジタル化が
実現すれば、地上波デジタル放送の意味がなくなってしまう
可能性があると思うからです。


日本のブロードバンド環境を見てみると、
ADSLや光ファイバー接続による大容量接続の環境が
十分に整備されつつあります。


デジタル化した放送データをネットTVで直接やり取りして
しまえば、それで事足りてしまうのではないでしょうか。


2つ目は、新型ネットTV専用のコンテンツや
サービスによる需要拡大です。


コンテンツやサービスのデジタル化において考慮すべきなのは、
「タイムシフト」が避けられないという点です。


コンテンツがデジタル化されると、見たいコンテンツを
ハードディスクにダウンロードしておいて、いつでも、
好きなときに好きな場所でコンテンツを見ることが
可能になるでしょう。


あるいは、ハイライト版だけを見るということも
可能になってくるでしょう。


人々がTVを見るスタイルそのものが
変化する可能性が高いと思います。


これまでのTV放送とは違い「時間と場所を問わず、
見たいときにぱっと見る」というタイムシフトが起こることを
想定した、新しいコンテンツやサービスを考えていく
必要があると思います。



●デジタルコンテンツに関する法整備が急務


大容量回線の普及によりコンテンツのデジタル化が進むと、
課題となってくるのは著作権の問題です。


先日、番組ネット転送について、私的利用目的なら
「適法」とする東京地裁の判断が下されました。


しかし、この判断は今後の判例となるべき事例ではないと
私は思っています。


というのは、デジタル・コンテンツのネット配信という
技術進歩に対して、裁判官が拠り所とするべき法律そのものの
整備が追いついていないように思えるからです。


テレビ放送などの著作物を勝手に複製することは、
当然ですが、著作権法違反に該当します。


しかし、個人的に家庭内や友人内において使用することは
認められています。


例えば、テレビ放送をビデオに録画したとき、
それを売買したり、不特定多数の人間に公にするのは
著作権違反ですが、個人的に見たり、友人に貸したりする
くらいならば適法という解釈をして問題ないでしょう。


ところが、大容量回線が普及したネット社会では、
この「友人」という人間関係の境目が
極めて曖昧になってきます。


それに伴って、どこからが著作権法違反に該当するのかという
境界線もぼやけてしまっている気がします。


例えば、私がSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)内で
知り合った70人くらいの「友人」たちに、ビデオ録画などの
著作物を渡した場合はどうなるでしょうか?


SNSとは限られた人によって招待されるプライベートな
コミュニティです。


したがって、大学の同好会のようなものですから、
不特定多数に公にしているとは言えないでしょう。


しかも、商用目的でお金を取っているわけでもなければ
「適法」という判断になるのではないかと思います。


では、人数を増やしてみた場合はどうでしょうか?


例えば、米最大のSNSサービス「マイスペース」内で
公開したとすると、約7500万人のSNS会員が対象となります。


人数は増えても、70人のときと同様、プライベート・
コミュニティ内ですし、商用目的でもありません。


となれば、現状の法律からすると、
先ほどと同じように「適法」となるべきだと思います。


しかし、ここには明らかに法整備の遅れゆえに、
法律と現実の間にギャップができていると感じざるを得ません。


また、テレビ放送の場合には広告の考え方によっても
異なる意見が出てくる可能性もあるでしょう。


NHKは、このようなテレビ放送の配布に賛成しないでしょう。


一方、民放はできるだけ多くの人に広告を見てもらえれば
いいので、賛成する可能性が高いのではないかと思います。


しかし、広告の問題もこれだけでは終わらないでしょう。


まだまだ様々な事態を想定することができます。


例えば、ネットで動画を見るときには、リアルタイムの
TV放送と違って、自分でCM部分をスキップすることができます。


そうなったら、広告を見てもらえない可能性も出てきますから
民放の考えも変わるかも知れません。


現状の法律では曖昧に解釈せざるを得ないような事態は、
今回の例以外にもいくらでも出てくるでしょう。


決めるべきことが山積しているのが実情です。


社会の変化のスピードに法律が遅れを取っているという事態を
認めて、早急に法律の整備を進めてもらいたいと思います。


その上で、放送のデジタル化が持つ本質を理解し、
サービスの付加価値を考えていくことが重要になって
くるのではないかと思います。


                               -以上-


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