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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON235金融危機:アラン・グリーンスパン氏を非難するのは筋違いだ~大前研一ニュースの視点~

2008年11月7日

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FRB前議長 グリーンスパン氏 米議会で集中砲火
議員ら、金融危機の原因をめぐって、在任中の責任を詰問
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●金融危機の最大の原因は、グリーンスパン氏の政策ではない


 10月23日、米国の中央銀行である、米連邦準備制度理事会
 (FRB)のアラン・グリーンスパン前議長は、金融危機の原因
 解明を進めている米下院の監視・政府改革委員会の公聴会で
 集中砲火を浴びました。


 議員らは現在の金融危機の原因を巡って、グリーンスパン氏の
 在任中の責任を詰問。


 グリーンスパン氏は、規制緩和や自由競争を押し進めたことに
 関して一部に誤りがあったと認めざるを得ませんでした。


 10月27日号のNewsWeek誌の表紙には、「BLAME IT ON HIM」
 (グリーンスパンの責任である)というタイトルとともに、
 グリーンスパン氏の顔写真が掲載されていました。


 「グリーンスパン氏を非難すれば事が済む」とでもいうような、
 全ての責任はグリーンスパン氏に帰すると主張したいようでした。
 しかし、私としては、何とも無責任な記事だと感じます。


 今回の金融危機がここまで大きくなったのは、
 グリーンスパン氏が押し進めた規制緩和や自由競争に
 よるものではないと私は思います。


 最大の原因になったのは、ウォールストリートにおいて、
 小口債券化した商品を評価する方法が確立していなかった
 ということだと私は見ています。


 ひと言で言えば、「品質検査」する仕組みがなかった
 ということです。


 サブプライムローンを小口債券化して、それを金融商品として
 展開するというのは、新しい技術であり、新しい金融商品
 だったわけです。


 こうした新しい金融商品に対しては、それを吟味し、
 正当な格付けをする仕掛けが必要です。


 ところが、今回の金融危機以前では、
 「保険が含まれていればOK」
 「S&PがAAAの格付けをしていればOK」
 といった曖昧な基準がまかり通っていました。


 その結果、品質に大きな問題がある金融商品が米国から
 輸出されてしまったために、手がつけられないほどに広がり、
 このような世界を巻き込んだ金融危機に発展してしまった
 のだと思います。


 金融商品ではなく、食物でイメージすると分かりやすい
 と思います。


 商品を吟味し、成分を分析し、そのうえで全体的な検査を
 正しい手順で行って、その上で品質に問題がないと
 判断できたものが初めて世界に輸出可能となるわけです。


 これが当たり前のことです。金融商品についても同じように
 品質検査の仕組み・仕掛けを導入するべきであったのに、
 金融商品を輸出するまでの仕組みが甘かったのです。


 それが一番大きな問題だったと私は思っています。


●不動産価格の上昇は、グリーンスパン氏が対応できた


 金融商品の品質管理に問題があったとなれば、それは
 グリーンスパン氏の役割ではなかったと言えると思います。


 この問題は、むしろ米証券取引委員会(SEC)やウォール
 ストリートの金融機関が自主的に規制すべきものでしょう。


 議会からの集中砲火を浴びて、グリーンスパン氏は、
 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を監督しなかった
 のは自分のミスだったと証言しているようですが、
 私はこれについても同じ論理だと思っています。


 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)も、これまでに
 ない新しい金融商品という意味では、小口債券化された
 サブプライムローンと同じです。


 この金融商品についても、品質を検査し、それを保証する
 ような品質管理委員会が発足されるべきだったと思います。


 そして、その品質管理委員会によって承認されるまで輸出
 は認められないというルールこそ必要だったのです。


 もちろん、グリーンスパン氏に全く責任がないとは
 私も思っていません。


 例えば、不動産価格が上昇した点いついては、
 グリーンスパン氏の政策に、やや問題があったと感じます。


 不動産価格の上昇を引き起こしたのは、世界的な「金余り」
 でした。世界的に金余りの状況が発生していて、その資金の
 貸出先としては不動産に大量流入する可能性が予見された
 のだから、事前に手を打つことも可能だったと思います。


 どこかのタイミングで不動産価格の上昇を警戒し、
 グリーンスパン氏が警告を発することはできたでしょうし、
 あるいは、もっと資金を絞る政策を打ち出すことも
 可能だったと思います。


 この点については、能力的に可能だったけれど実行しなかった
 という意味において、グリーンスパン氏の責任によるところが
 大きいと思います。


 しかし、今回の金融危機がここまで拡大した大きな原因は
 違います。


 ウォールストリートの責任を棚上げにして、全責任を
 グリーンスパン氏だけに押し付けてしまうのは見当違いも
 甚だしいと私は思います。


 このような市場の失敗に端を発した世界的な不況に
 見舞われてしまうと、なおさら「自由奔放」な政策を打ち出し、
 市場重視の姿勢をとっていたグリーンスパン氏に責任を
 押し付けたくなるのでしょうが、それでは問題解決になりません。


 問題解決の第一歩である本質的な問題を見抜くという
 ステップで間違いを犯しています。


 今回の場合、事象の規模は大きいですが、やはり基本的な
 問題解決のアプローチはいつもと同じです。


 表面的な事象だけに惑わされず、感情論に流されず、
 本質的な問題を浮かび上がらせるスキルを身につけることの
 重要性を改めて強調しておきたいと思います。


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