大前研一「ニュースの視点」Blog

KON739「リカレント教育/経済財政白書/IT人材/日立製作所~リカレント教育、IT人材の育成など、各役所がバラバラに動いているだけ」

2018年8月17日 IT人材 リカレント教育 日立製作所 経済財政白書

本文の内容
  • リカレント教育 学費助成を最大4年に
  • 経済財政白書 2018年度経済財政白書を提出
  • IT人材 不足する人材、供給底上げ
  • 日立製作所 社員10万人が社外で働ける体制整備へ

リカレント教育、IT人材の育成など、各役所がバラバラに動いているだけ


厚生労働省は先月30日、2019年度から看護師や介護福祉士など専門職の資格取得をめざす社会人への学費助成の期間を1年延ばし、最大4年にする方針を決定しました。働きながら学ぶ社会人の需要に対応し、定時制講座にも新たに学費助成を適用できるようにするものです。人手不足が深刻な業種の人材育成につなげる考えとのことです。

リカレント教育は必要ですが、看護師、介護福祉士などの専門職に限ったものではなく、もっと広く考えるべきです。IT関連を中心に、必要とされる技術が大きく変化してきています。あるいは、経営を担うスキルや起業するスキルの教育も必要でしょう。

残念ながら、日本の従来の学校教育は社会に出てからほとんど役に立つものではありません。経営、IT、起業など21世紀に活躍できる人材になるための教育にはなっていません。厚生労働省、文部科学省、地方自治体など、どこが資金を提供するのかわかりませんが、いずれにせよ日本の教育は実社会からの圧力が必要です。


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茂木敏充経済財政・再生相は3日、2018年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出しました。人工知能(AI)やロボットなど新たな技術の普及により、これまで人が担っていた業務を代替できるようになった一方、新たな技術を活用できる人材育成の投資も進め、生産性を高める必要があると指摘したものです。

報告書の中には、未来の社会の姿「Society(ソサエティ)5.0」という言葉も登場しているようですが、私に言わせれば、もっと具体的に日本の将来のために「人材育成」をどうするのかを考えなければ何の意味もありません。ほとんどの人はSociety(ソサエティ)3.0」すら、どのようなものか認識していないでしょう。「こんな社会になります」といくら書き連ねても何も役に立ちません。

人生100年時代の人材と働き方、イノベーションと競争力、生産性向上といったスローガンを掲げるのであれば、それを実現するために具体的にどのようなリカレント教育をする必要があるのか、あるいはどのくらい予算をつけるのかを示すべきでしょう。

リカレント教育を実施する場合でも、会社に通いながら教育を受ける必要があるなら、もう1歩踏み込んで議論をして具体的な施策に落とし込まなければいけません。人材をどのように変えていくのか、どのような人材を育てるのかを具体的にしなければ、不十分だと言わざるを得ないでしょう。


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日経新聞は1日、「不足する人材 供給底上げ」と題する記事を掲載しました。AIなどの開発を担う「先端IT人材」は2020年に約4万8000人が不足する見通しとのこと。東大や大阪大学などでは社会人向けのAI講座も開く一方、AI教育を専門とする単独の学部や専攻を持つ国内大学はないとしています。専門人材の育成には長期的な視点での学生教育と、社会人の「促成栽培」の両輪で進める必要があるとしています。

一体どういう認識をしていると、4万8000人という数字が出てくるのか?私には理解できません。私の認識では、インド、中国、米国に比べると、日本の先端IT人材は圧倒的に不足しています。極論すると、これらの国の著名IT企業1社で抱える高度IT人材と日本全体の高度IT人材は同数といった規模感とさえ感じます。

また、社会人の「促成栽培」という方針を打ち出していますが、これを先端IT人材に当てはめて考えているのでしょうか?IT技術の習得を40代や50代になってから始めても難しいはずです。社会人といっても、そうとう若い年代に絞る必要があります。それが無理なら、海外の人材に門戸を開く以外にはないでしょう。

全体的に見て、方針に一貫性がなく各役所の人間がバラバラに勝手に動いているだけに見えます。

全体の方針で言えば、学校教育で行うのか、社会人教育で行うのか、あるいは勤めながらリカレント教育で行うのか、という方針も定まっていません。厚生労働省はリカレント教育のために企業が長期休暇を認める方針を後押ししていますが、我々のようにオンライン教育であれば長期休暇など不要です。

重要事案だと気づいて、慌てて各役所が予算を確保するためにバラバラに動き出しているだけ、というのが私の印象です。誰か一人が責任者として、一貫性を持って取り組んでほしいと思います。




サテライトオフィス、ホームオフィスの実現を難しくしている要因は?


日立製作所は2~3年以内に社員10万人が自宅や外出先で働ける体制を整える見通しです。シェアオフィスなど社外で働ける拠点を増やし情報漏洩などのリスクが少ないシステムを構築し、通勤時間を減らし生産性を高めるほか人材確保につなげる考えです。

基本的な考え方として、どこにいても働くことができる体制を整えることに私も賛成です。通勤のために往復2時間を費やし、疲労困憊になってしまうとしたら、全くもったいないと思います。

一方で、サテライトオフィスやホームオフィスの体制を構築するのは非常に難しく、世界的にも成功した事例はほとんどありません。25年ほど前、IBMがサテライトオフィスを作ったときも上手く機能しませんでした。

ホームオフィスの場合には、家族間でのモラルの問題などに対処する必要が出てきます。たとえば、配偶者が競合会社に勤めていることもあるでしょうし、親子の場合もあるでしょう。日立が10万人規模で実施するなら、こうしたモラルや守秘義務の問題は避けては通れないと思います。

またもう1つ大きな障害になるのが、心理的な壁です。例えば、東北の拠点として仙台に営業所があって、営業マンの活動の約半分は移動時間に費やされているというケースがあります。このような場合に、無駄な移動時間を省くために、普段は(例えば気仙沼の)自宅をメインにして仕事をして金曜日だけ仙台のオフィスに顔を出して諸々の報告をする、という営業体制に変えると、どうなるか。実は、なかなか上手く機能しません。

私も似たような事例を試したことがありますが、一筋縄ではいきませんでした。現状の営業体制に慣れているので、大きな変化に心理的に対応できないのです。「慣れる」という心理状態を含めて長期的なプロセスを踏むか、あるいは新入社員として入社したら、すぐにこのパターンに当てはめるか、いずれかでしょう。20年勤めてきて、急に新しいパターンに対応するというのはかなり難しいと思います。

今回の日立の試みは非常に重要ですが、発表したとおりにスムーズに事が運ぶことはないでしょう。心理的な状況や家族構成の問題など、解決しなくてはならない課題があります。日立のことですから周到にシステムを準備すると思いますが、これまでの世界的な事例を見る限り苦労することは間違いないでしょう。10万人規模で実現できれば素晴らしいことです。5年後の結果を楽しみにしたいと思います。



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※この記事は8月12日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、国の政策の話題を中心にお届けいたしました。

リカレント教育、IT人材の育成など
様々な方針が打ち出されています。

しかし、全体的に見て、方針に一貫性がなく、
重要事案だと気づいて、各役所の人間がバラバラに
勝手に動いているだけに見えると大前は指摘してきます。

このように、問題解決に取り組む際は、
目の前に起きている問題をやみくもに対処するのではなく、
「何を解決すべき課題とするのか」
を決めることが重要です。

課題を正しく設定することで、問題解決のスピードは上がり、
解決策を実行したときの効果も高くなります。


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