大前研一「ニュースの視点」Blog

KON738「台湾半導体産業/台湾・力旺電子/中国ネット大手/米IT大手/米テスラ~台湾半導体メーカーは、大小で明確な役割分担ができている」

2018年8月10日 中国ネット大手 台湾・力旺電子 台湾半導体産業 米IT大手 米テスラ

本文の内容
  • 台湾半導体産業 台湾半導体、広がる裾野
  • 台湾・力旺電子 スマホ認証で独自の地位
  • 中国ネット大手 相次ぎ金融事業を分離
  • 米IT大手 FB株急落で時価総額 約13兆円減
  • 米テスラ 支払い済み代金の一部返還要請

台湾半導体メーカーは、大小で明確な役割分担ができている


日経新聞は先月23日、「台湾半導体、広がる裾野」と題する記事を掲載しました。直近決算で売上高30億台湾ドル(約110億円)以下だった台湾の上場企業を、本業の利益に基づきランキングしたところ、独自の技術を磨く半導体企業が上位に入った、と紹介。台湾には台湾積体電路製造(TSMC)のように、半導体チップの製造を代行する大手メーカーが集積しており、この産業基盤を活かし、半導体の設計・開発に専念する中堅上場企業が台頭している構図とのことです。

この設計・開発に専念して台頭している事例の1つが、セキュリティー分野で使われる特殊な半導体で独自の地位を確保している台湾の力旺電子(イーメモリー・テクノロジー)です。特許ライセンス料を収益源とし、生産設備を持たない身軽さが強みで、売上高純利益率は4割強に達するほか、株価が過去5年で5倍弱に上昇しています。

この会社が持つ技術の1つが、スマートフォンのホームボタンに指をおき、指紋認証で画面のロックを解除するというものです。このロジック不揮発性メモリー事業をメインにして、売上高は50億円程度ですが、純利益が21億円という高い利益率を誇っています。

このように、スマートフォンのシステム全体に関わる技術ではなく、ある一部分に特化した技術で抜きに出ています。小さい商品ですが、他にはない技術ですので圧倒的な利益を確保することができます。設計・開発に専念できる強みを大いに活かしている結果だと言えるでしょう。



中国企業は金融事業を切り離す目的をどこに定めているか


日経新聞が報じたところによると、百度(バイドゥ)や京東集団(JDドットコム)など中国のネット大手が相次ぎ金融事業を分離する見通しが明らかになりました。米国上場している本体と距離を置いて、中国企業としての立場を鮮明にし、中国金融当局の認可を取りやすくする狙いとみられています。

常識的に見ると、意外な動きに感じますが、中国独自の問題があるからでしょう。Eコマースなどは世界的に展開しながらも、金融・審査・支払いなどの金融事業は別会社にして中国政府の干渉を受けるという形です。

私は百度や京東集団などの金融事業も、長期的には世界化して、世界の銀行を倒す力を持っていると思っています。そこまでを見通しての判断なのか、とりあえず中国政府の縛りが強いので目先の対応をしているのか、現時点では判断がつきません。



相変わらず巨大な米ITビッグ5/テスラにとって朗報は中国、凶報はトランプ大統領


米フェイスブックが先月25日発表した4-6月期決算で売上高と月間利用者数が市場予想に届かなかったことを受けて、その日の時間外取引と翌26日で株価が急落し、時価総額が約1,190億ドル(約13兆円)減少しました。一方、2日にはアップルの時価総額が米企業として初の1兆ドルを突破。iPhoneの高価格路線や関連サービスで稼ぐ戦略で、市場予想を上回る成果を上げ、成長期待が高まった形です。

米IT企業については、今のところポジティブな情報とネガティブな情報が混在しています。欧州勢が米国のFANGに課徴金を課すという問題などもありますし、フェイスブックの問題もあります。フェイスブックの株価は急落しましたが、この会社が保有しているデータはマーケティング的に非常に有効なものなので、株価の下落もある程度のところで止まると思います。

米ITビッグ5の時価総額を見ると、いずれも2018年7月時点の時価総額は3月時点のそれを上回っています。フェイスブックの株価が13兆円減といっても、依然としてその規模の大きさに変わりはありません。

これら米ITビッグ5に対抗できる可能性があるとすれば、サウジアラビアのアラムコ。上場すれば100兆円規模になると言われています。あるいは、アリババもアントファイナンシャルも一緒にするのであれば、対抗馬になるでしょう。

現状、米ITビッグ5の時価総額が50兆円~100兆円というレベルで、日本のトヨタが頑張って23兆円という時代です。いかに米IT企業への市場評価が高いのか、わかります。

一方で、苦戦をしている米企業がテスラです。米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、米テスラが取引先の部品メーカーなどに対し、支払い済みの代金の一部を返還するよう求めていることがわかりました。自動車メーカーが過去にさかのぼって部品の値引きを求めるのは異例で、テスラの資金繰りの厳しさがあらためて浮き彫りとなりました。

テスラの問題はいくつかあります。1つはトランプ大統領が打ち出した自動車の燃費基準を大幅に緩める方針です。これは、電気自動車(EV)の普及には逆風です。もう1つは、Uberのトラビス・カラニック氏と同様、イーロン・マスクCEOの個人的な問題です。そして、量産体制が弱いことです。

テスラは、米国内ではフォードを抜いてGMと同格と見られる位置まで登ってきていますが、これは将来に対する期待によるものでした。ようやく生産体制が整ってみると、赤字であることが判明し、資金も枯渇してきたという状況でしょう。

相変わらず時価総額は高いので、資金調達をすれば良いのでしょうが、今のタイミングでは資金は非常に集まりづらいと思います。ゆえに、これまで支払った部品代の値引きを要求するに至ったのでしょう。ところが、イーロン・マスクCEOはこれを否定していますので、真実はわかりません。

以前からテスラは資金繰りが大変だと噂はありました。どこかの企業が救済に乗り出す可能性もあります。そうなれば中国勢は喜んで手を挙げてくるでしょう。イーロン・マスクCEOもそれを狙って、中国に巨大な生産工場を作ると言って、習近平国家主席に直接働きかけているとも言われています。

今テスラは良いニュースと悪いニュースに挟まれています。最も良いのは、中国展開の可能性があることで、最も悪いのはトランプ大統領によるガソリン車を許容するという方針転換でしょう。



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※この記事は8月5日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、注目企業の話題を中心にお届けいたしました。

台湾の力旺電子(イーメモリー・テクノロジー)は、
セキュリティー分野で使われる特殊な半導体で
独自の地位を確保することで、圧倒的な利益を確保し、
株価が過去5年で5倍弱に上昇しています。

この力旺電子(イーメモリー・テクノロジー)に対し大前は、
自社製品から撤退し、ライセンス料で稼ぐ事業モデルに転換したことで、
設計・開発に専念できる強みを大いに活かしていると、
言及しています。

このように、他社には真似できない
コア・コンピタンスを見極め、得意な機能に
経営資源を集中させることは重要な経営戦略の一つです。

中長期的に市場の変化や顧客の姿をイメージし、
自社ならではのコア・コンピタンスを強化することで、
未来の競争市場における強い優位性を得ることができます。



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